中国では現在、QRコード決済をはじめとする電子マネー決済が普及しています。

中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)が2019年に実施した「第44回中国インターネット発展状況統計報告」によると、中国人ネットユーザーに占めるモバイル決済利用率は2019年6月時点で73.4%と、多くの中国人が利用していることが伺えます。

この記事では、中国における電子マネーの現状や活用法、中国国内の2大電子マネーの概要や特徴、中国人観光客向けのQRコード決済対策について解説します。

目次
中国におけるQRコード決済の現状

 ▶︎電子マネーが普及した中国
 ▶︎中国でのQRコード決済の活用法
中国の2大電子マネー
 ▶︎Alipay(アリペイ)
 ▶︎WeChat Payment(ウィーチャットペイメント)
中国人観光客向けのQRコード決済対策
 ▶︎QRコード決済導入のメリット
 ▶︎QRコード決済導入により新たな顧客の獲得
これからさらに普及する中国電子マネーの導入を

中国におけるQRコード決済の現状

日本国内でも今日、QRコード決済を導入する店舗が増えているものの、未だ低い水準に留まっており、中国の比ではありません。以下では、中国における電子マネーの現状について解説します。

電子マネーが普及した中国

近年、日本国内でもPayPayやLINE Pay、Origami、メルペイといったQRコードによる電子マネー決済が一般的に用いられるようになってきました。

しかし、一般に普及しているとは言い難く、モバイルに特化した調査研究を行うMMD研究所が2019年9月27日から9月30日にかけて、スマートフォンを所持する18~69歳の男女3万5,000人を対象に実施した調査によると、日本国内におけるQRコード決済の利用率は僅か22.5%に留まっています。

なお、QRコード決済のサービス別に見ると「PayPay」が44.2%と最も大きなシェアを占めており、続いて「楽天ペイ」(17.1%)、「LINE Pay」(13.6%)、「d払い」(13.6%)となっています。

一方、QRコード決済先進国ともいえる中国では、都市部を中心に高い普及率を誇っています。

中国の情報メディア「人民網」の2016年5月の報道によると、都市部の消費者を対象に実施された調査において、「過去3カ月の間にモバイル決済を利用した」との回答が 98.3%に上っており、電子マネーが決済手段の一つとして一般に受け入れられていることが伺えます。

このように高い普及率を誇る理由として、サービスの特性が挙げられます。現在、中国における電子マネー決済の主流を占めるのは「Alipay(アリペイ)」や「WeChat Payment(ウィーチャットペイメント)」であり、デジタルデバイスに慣れ親しんでいる世代から高齢者まで、老若男女問わず誰でも利用可能なプラットフォームとして浸透しているため、QRコード利用のハードルが低くなっています。

また、中国ではQRコード決済手数料が無料であることも、普及率増加を後押ししています。

個人店や街角の屋台に至るまで、あらゆる店舗が電子マネーを導入しているため、消費者は日々の買い物から家賃・光熱費といった支払いまで、多くの決済の電子マネー1本化が可能となっており、その利便性から消費者の間で広がりを見せています。

中国でのQRコード決済の活用法

中国のリサーチ会社「iiMedia Research」によると、2018年時点での中国における電子マネー決済の利用者数は6億5900万人にも上っており、比例してQRコード決済も日常のさまざまな場面で活用範囲が広がっています。

中国の街中では店舗での決済のほか、シェアサイクルのロック解除・使用後の決済や、友人・家族間やネットオークションなど個人間での送金の場面でもQRコードが用いられています。

このようにQRコード決済が広がる一方で、QRコードを導入しているにもかかわらず、中国国内での普及が成功したとは言い難い取り組みもあります。入店時や決済時にQRコードを用いる「Bingo Box」などの無人コンビニが挙げられます。

入店時は、扉につけられたQRコードでの「購入者認証」とカメラの顔認証での「本人確認」の2段階認証、入店後は、店内商品をリーダーで読み取ると表示されるQRコードで「決済」という流れとなっており、決済終了または、扉のQRコードを読み取ることで無人コンビニの施錠が解かれ、外に出られるようになっています。

当初は万引き防止に有効であり、人件費もかからずテナント料も安いとして期待が高まっており、2017年は無人コンビニ関連企業へ総額40億元(日本円で約620億円)以上の投融資が集まりました。

しかしながら、入店のスマホ操作の煩雑さなど「顧客体験」の点から集客に苦戦を強いられ、2018年以降は実際に無人コンビニ普及の火付け役となったBingo Boxも漏れなく大規模なリストラや閉店が進み、現在では北京などわずかな店舗のみで営業となっています。

中国の2大電子マネー

中国における電子マネー市場は「Alipay(アリペイ)」「Wechat Payment(ウィーチャットペイメント)」が主流となっており、Alipayはオンライン、WeChat Paymentはオフラインにそれぞれ強く、棲み分けがなされています。

これら2つの電子マネーだけで市場の90%以上を占めており、中国国内の大規模なチェーン店や個人商店や中小企業でも導入されている他、アジア各国にも多数のユーザーを抱えています。

Alipay(アリペイ)

「Alipay(アリペイ)」は、中国EC最大手の「Alibaba(アリババグループ/阿里巴巴集团)が提供する電子マネーであり、同じくAlibabaが運営する中国最大級のECサイト「Taobao(タオバオ/淘宝)」をはじめ、多くの店舗で利用可能となっています。

中国のリサーチ会社「iiMedia Research」によると、EC市場はAlipayの独占状態であり、64.9%のユーザーはオンラインでの高額取引におけるQRコード決済の場面でAlipayを利用する傾向にあります。

さらに、2019年第1四半期の中国モバイルペイメント業界におけるシェアを見てみると、Alipayのライバルであり、モバイルペイメント決済のWeChat PaymentとQQ Walletを運営するTencent(テンセント)陣営は44.9%であるのに対し、Alipayは48.3%と僅かに多く占めており、Alipayが中国国内で非常に人気のある決済手段であることが伺えます。

また、2019年1月に世界のユーザー数が10億人を突破、同年6月には12億人と僅か半年で20%増という驚異的な伸びを記録しており、250以上の海外金融機関を抱えるなど、アジアを中心に世界中へ勢力を拡大しています。

日本ではここ数年で導入店舗が拡大傾向にあり、2018年8月には5万店に留まっていたものの、2019年6月には30万店と加盟店舗数が5倍になっており、衰えることなく拡大を続けています。

WeChat Payment(ウィーチャットペイメント)

「WeChatPayment(ウィーチャットペイメント)」は、メッセンジャーアプリ「WeChat」に備わったQRコード決済であり、Alipayと並ぶ中国大手インターネット企業「Tencent(テンセント/腾讯)」グループが提供する電子マネーの一つです。

元々は個人間での送金を容易にすることを目的として、WeChatに付帯されたサービスであり、「iiMedia Research」の調査によると54.9%のユーザーは、オフラインでの少額取引におけるQRコード決済の場面で、「WeChat Payment」を利用する傾向にあることが分かっています。

2018年には中国国内版のWeChat「Weixin(ウェイシン/微信)」の合計アカウント数が10億を突破し、1人のユーザーが複数のアカウントを所持しているケースも考えられるものの、Alipayに引けを取らず国内人気の決済手段として地位を確立しています。その証拠に、2019年第3四半期における月間アクティブアカウント数は11億を超え、ミニプログラムのデイリーアクティブアカウント数は3億に達するなど、その勢力を拡大しています。

Wechat Payment導入のメリットとしては、紐づいたメッセンジャーアプリ「Wechat」を通じて店舗情報やキャンペーンについての情報を発信することで、中国人を主とした顧客との関係作りができ、インバウンド施策としての活用が挙げられます。

導入に際して、店舗側が特別な端末を用意する必要はなく、iOS端末さえあれば必要なアプリをインストールして利用開始出来ることからも、日本国内での利用が普及しつつあります。

中国人観光客向けのQRコード決済対策

中国国内ではもはや当たり前に店舗へ導入されているQRコード決済ですが、まだ日本における普及率はそれほど高くありません。しかしながら逆を言えば、QRコード決済導入により中国人観光客の集客が見込め、売上拡大を図ることが可能となります。

以下では、中国人観光客向けのQRコード決済対策について解説します。

QRコード決済導入のメリット

日本企業がQRコード決済をはじめとした電子マネーを導入する一番のメリットは、インバウンド誘致による顧客層の拡大が期待できる点でしょう。

中国市場戦略研究所の徐向東取締役によると、「Alipay などの電子決済は、中国では既に当たり前に使われている。日本で取り入れられれば、より多くの中国人による日本国内での消費を促すことができる」としており、電子マネー普及によるインバウンド消費拡大への有効性を主張しています。

事実、日本政府観光局によると2019年の訪日外客数の国別割合は、中国、韓国、台湾、香港、アメリカ、タイの順に多くなっており、アジア圏からの来訪が突出しています。

中国をはじめアジア各国で広く普及しているAlipayを導入することにより、アジア圏からの訪日外国人観光客が決済時における言葉の壁や換金手続きなどの負担を軽減でき、ストレスなく買い物を楽しむことが可能になります。

さらに、店舗側も多言語に対応せずとも決済が可能なため、人件費を抑えてアジア圏からの訪日外国人観光客誘致が見込め、売り上げ増加を期待できるでしょう。

またQRコード決済であれば、銀行口座と連携しており、支払いと同時に口座から引き落とされるデビット式となっているため、少額の決済を繰り返し行う場合もスムーズであり、「細かい消費」に対応しやすいこともメリットとして挙げられます。

QRコード決済導入により新たな顧客の獲得

QRコード決済は、今後日本国内でもさらにニーズが高まっていくと予想されます。

2020年9月1日から国家主導の「マイナポイント事業」が始まり、QRコードをはじめとしたキャッシュレス決済サービスを提供する決済事業者を通じたチャージや買い物に対し、上限5,000円として25%分のポイントが付与されます。この事業の開始により、決済手段としてQRコード決済を使い始める消費者も増えることが予想できます。

QRコード決済は初期費用やランニングコスト、決済手数料が安価であり、安全性も高いため、飲食店や小売店などの中小企業にも導入しやすいサービスです。また、訪日外国人観光客が常用している決済手段であるため、多国語対応することなくインバウンド消費を拡大させられることも期待できます。

これからさらに普及する中国電子マネーの導入を

中国国内では「Alipay」「WeChat Payment」などのQRコード決済をはじめとする電子マネー決済が浸透しています。

活用の幅は多岐に渡り、個人店や街角の屋台といった買い物、家賃・光熱費や交通費の支払いなど、日常のさまざまな場面で活用されており、中国ではもはや必要不可欠の決済手段であるといっても過言ではありません。

こうした電子マネー決済サービスはアジア各国にもユーザーを拡大しており、これからも中国内外に利用が拡大していくことが見込まれます。電子マネー決済は種類にもよりますが、導入時や運用時のコストも比較的かからず、中小企業でも導入しやすいことがメリットです。

また、これらの電子マネーを導入するだけで中国人観光客をはじめとしたインバウンド消費の拡大が見込めます。たとえ中小企業であっても、導入のメリットは大きいため、訪日外国人観光客を顧客として獲得するためにも導入検討の余地は十分にあるといえるでしょう。

文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ

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