「デジタル・イノベーション・ラボ」の室長・則武譲二氏(左)と、同ラボ所属のチーフデータサイエンティスト・小峰弘雅氏

「データを活用して業績を上げよう!」とは、どの企業でも言われることだろう。しかし、いざやろうとすると、どうしていいのかわからない。そんな企業も多いはずだ。いったい、何が問題なのか? 〔株〕ベイカレント・コンサルティングが社内のデジタルエキスパートを結集して立ち上げた「デジタル・イノベーション・ラボ」の室長・則武譲二氏と、同ラボ所属のチーフデータサイエンティスト・小峰弘雅氏に話を聞いた。

IT部門主導で目的なくプロジェクトが進む……

データの活用がうまくできない企業では、どんなことが起きているのか? まずは両氏に典型的なパターンを紹介してもらった。

【パターン1】

アパレル企業のA社では、IT部門のコスト削減とデータの処理速度向上のため、IT部門主導でデータ統合プロジェクトが始動した。購買情報(POSデータ)や会員情報、アプリのログ、ウェブサイトへのアクセスログを統合するもので、ゆくゆくは天気情報や顧客の趣味嗜好のデータも社外から購入して統合したいというものだ。

ところが、集めたいデータが多すぎるうえに、リアルタイムデータを追い求めすぎたため、なかなかデータ統合ができない。予定していたリリース日には間に合わず、プロジェクトは延長。コスト削減どころか、再投資が必要になってしまった。

それでも、1年かけて、ようやくデータ統合プロジェクトが完了。「これを使えば在庫管理がもっと効率的にできるようになる」と、意気揚々と在庫管理部門にデータを持って行ったのだが、在庫管理部門の関心事は、これから展開するキャンペーン。過去のデータは要らないと言われてしまう。

ならば、とマーケティング担当者に持っていくが、やはり反応は芳しくない。マーケティング担当者は、これまでもデータを統計学で分析して、どの商品をどんな顧客が購入しているのかなどを把握しており、IT部門がデータを統合したところで、やる仕事は同じだからだ――。

このパターンの問題点として、目的を決めずにプロジェクトをスタートさせていることと、IT部門とビジネスサイドとをつなぐデータサイエンティストがいないことを、小峰氏は指摘する。

「マーケティング担当者は『ある商品が20代の女性によく売れている』というようなことは分析できます。それを活かして、『20代の女性が来店したときは、この商品を勧めるといい』というように、店舗での接客を改善することができます。

一方、統合されたデータをデータサイエンティストが見れば、『埼玉県在住で池袋によく遊びに来る年収300万円台の20代女性がデート中に購入することが多い』といったように、より詳しい分析ができます。

ただし、より詳しい分析ができれば、より良い接客ができるかというと、必ずしもそうではありません。来店客に年収を聞いたりするわけにはいきませんから。

そこで、『店舗での接客を改善して売上げを上げる』というような目的を初めに決めて、現場をよく知っているビジネスサイドとともに、データサイエンティストがデータ分析をすることが必要なのです。

ビジネスサイドは『最先端のファッションを楽しみたい人に向けた商品展開をしたい』『広く流行している服を着たい人をターゲットにしたい』など、様々なマーケティングのアイデアを持っています。そのそれぞれを実現することを目的として、データサイエンティストが、ビジネスサイドと一緒になって、最適なデータ分析をすることが求められます」(小峰氏)

データサイエンティストと言うと、「そんな高度な人材はうちにはいない」と思ってしまうかもしれないが、博士号を取るような専門的なスキルが必要なわけではないという。

「もちろん、そういうデータサイエンティストもいますが、統計学を業務で使っているマーケティング担当者がもう少し深く統計学を勉強し、世の中に出回っている機械学習のツールを使えるようになれば、十分です。社外のデータサイエンティストに発注して分析をしてもらっている企業もありますが、社内でデータサイエンティストを育成している企業も多くあります」(則武氏)

そもそもデータ化がされていない……

続いて両氏が紹介してくれたのは、次のようなパターンだ。

【パターン2】

金融機関のB社では、資料のトリプルチェックをしたり、同じ情報を業務ごとに別のシステムに入力したりと、人手が多く必要で、非効率であることが経営課題となっている。そこで、コスト削減を目的に、データ統合プロジェクトが始動した。

ところが、大量の情報がデータ化されずに、紙の状態で倉庫に保管されていることがわかった。データ化されている情報もあるが、支店によって違うシステムを使っている。同じシステムを使っていても、職業欄に職業以外のメモをしていたりと、支店によって使い方がまちまちで、とても統合できる状態になっていない――。

こんな状態の企業はいくらでもあるそうだ。こうしたケースでは、とにかくRPAやOCRなどを使って、情報のデジタル化を進めること。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する小峰氏は、データ入力のためにクライアント企業を訪ねることも多いという。

「支点・力点・作用点」を一貫させ、一つひとつに工夫を

(画像=THE21オンラインより引用)

両氏が所属するベイカレント・コンサルティングでは、データを価値に変える確度とインパクトを高めるためには、「テコの支点・力点・作用点」を一貫させ、一つひとつを工夫するべきだと考えている。

「パターン1の場合は、データは大量にあるので『力点』は問題ないのですが、それをどういう打ち手につなげるのかという『作用点』と、そのためにどのようにデータ分析をするのかという『支点』が欠けています。

一方、パターン2の場合は、コスト削減という目的がはっきりしているので『作用点』はいいのですが、『力点』が欠けているのが問題です」(小峰氏)

「力点」については、データの件数を増やすとともに、種類を増やすことも重要だ。

「支点」については、実現可能なアクションにつながる分析をすることが重要。先述したように、「年収300万円の人がよく買う」という分析ではアクションにつなげられないが、「デート中に購入する人が多い」という分析なら、来店客を見て接客に活かすことができる。

そして、「作用点」については、データに基づいたものにすることが重要となる。

「長年の経験とカンは、多くの場合は正しいのですが、それだけで仕事をしていると新しい発見がありません。データに基づいたアクションの中には、経験とカンに反するものもあるはずですが、それでも試してみる勇気が必要です。試しているうちに、経験が増え、カンもさらに磨かれるとともに、データの限界も見えてくるでしょう。そうしたら、さらに進化した経験とカンで仕事をすればいいのです」(則武氏)

則武譲二・小峰弘雅(デジタル・イノベーション・ラボ)
(『THE21オンライン』2020年06月26日 公開)

提供元・THE21オンライン

 

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