2020年4月から「改正健康増進法」が全面施行され、飲食の場も原則屋内禁煙となった。これを受け、飲食店では実際どのくらい対応を進めたのだろうか。当サイトでは施行前、飲食店ではどのくらい認知され、対応が進んでいるのかアンケート調査を行ったが、今回改めて、「対応したかどうか」についてアンケート調査を行ったので紹介したい。

■調査概要
調査対象:飲食店.COM会員(飲食店経営者・運営者)
回答数:508名
調査期間 :2020年6月9日~6月12日
調査方法:インターネット調査

1年前と比べ、「全席喫煙可」の店は半減

Q.改正健康増進法全面施行の1年前(2019年4月)の喫煙環境状況を教えて下さい
全席喫煙可:199(39.2%)
屋内分煙:43(8.5%)
屋内禁煙(屋外喫煙スペースあり):74(14.6%)
全面禁煙:192(37.8%)
 

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1年前は全面禁煙の店舗が37.8%(画像=Foodist Mediaより引用)

Q.現在の喫煙環境状況を教えて下さい
全席喫煙可:83(16.3%)
屋内分煙:25(4.9%)
屋内禁煙(屋外喫煙スペースあり):108(21.3%)
全面禁煙:292(57.5%)
 

Foodist Media
現在は全面禁煙の店舗が57.5%にまで増加(画像=Foodist Mediaより引用)

■全席喫煙可⇒全席喫煙可
現在の喫煙状況を回答してくれた店舗属性を、ローデータからより細かく見ていくと、もともと「全席喫煙可」だったのをそのまま残したのは、42.7%の85店舗。半数以上の店舗が、何らかの対策をとったことがわかる。 変わらず「全席喫煙可」を継続させた理由は、「来客者の多くが喫煙者だった」というものに加え、「喫煙可能の店舗規模であった」「従業員を雇っていなかった」など、対象外だったというものも多い。裏を返せば、対象でなかったらそのままで良かったと考える店も少なくないということでもある。

■全席喫煙可⇒全面禁煙
それまで全席喫煙可だったのを一気に全面禁煙としたのは、「全席喫煙可」だった店のうち約3割(67店舗)。理由をみてみると、「場所がない」「屋外にスペースがなく、また店内の構造上、屋内喫煙場所の設置は無理」というものが圧倒的多数。そのほか、「ランチタイムは禁煙にするなど、徐々に禁煙化を考えていた」といった声が散見された。

■全席喫煙可⇒屋内禁煙(屋外喫煙スペースあり)
全面禁煙ではなく、屋外に喫煙スペースを設け屋内禁煙としたのは、「全席喫煙可」だった店のうち約2割(38店舗)。やはり「お客様に喫煙者が多い」「喫煙者の来店減少防止のため」と、喫煙者の来店頻度が減らないようにしたいという考えがほとんどだが、

「そうするしか方法がなかった」(東京都/居酒屋・ダイニングバー)
「分煙するスペースが無い。改装等の予算の目処が立たない」(東京都/洋食)

など、“屋内分煙をしたいが、諸事情から難しい”という訴えを匂わせる声が目立つ。また、一旦は屋内分煙を検討したものの、非喫煙者に対してより配慮すべく、屋外にスペースをとったという店舗もあった。

■全席喫煙可⇒屋内分煙
一方で、「全席喫煙可」だった店舗のうち、屋内分煙を可能にできたのはわずか6%。対象外だった店舗を除くと、屋内に喫煙専用室を作ることはかなり厳しい現状がうかがえる。

Foodist Media
画像素材:PIXTA(画像=Foodist Mediaより引用)

屋内分煙だった店舗、半数が「全面禁煙」へ移行…その理由は

もともと屋内分煙にしていたのは、全体の8.5%(43店舗)。そのうち、1年後も屋内分煙のままにしたのは約3割の12店舗。屋内禁煙(屋外喫煙スペースあり)にしたのは約2割(9店舗)で半数が「全面禁煙」に移行しているが、やはりここでも「条例に則った喫煙スペースをとれない」ということが全面禁煙に踏み切った理由の大半だ。

また、「非喫煙者への配慮から分煙にしていたが、それゆえのトラブルを経験したため、すっかり禁煙にした」(東京都/和食)という声や、「お子様連れやご年配のお客様が増えたため、全面禁煙にした」(東京都/イタリア料理)という声からは、外食のあり方が変容していることも見て取ることができそうだ。  

屋外に喫煙スペースを作っていても、泣く泣く「ビルの都合」

すでに屋外に喫煙スペースをもうけ、屋内は禁煙にしていた74店舗のうち、それをキープしたのは7割(52店舗)。26%にあたる19店舗は全面禁煙にしている。そこには止むに止まれぬ事情があることも明らかになった。

「店舗外(テラス席)にて喫煙可能としておりましたが、ビル側が共用部での喫煙が禁止となりましたので、我々と致しましても全面禁煙と致しました」(東京都/アジア料理)
「出店している建物自体が禁煙のため」(東京都/その他)

ビルの中に入っている店舗だと、屋外にスペースを作ることもできず、ビルの方針に従うしかないというわけだ。  

屋内喫煙可能だった店舗は、約9割が法令に則った対応を「した」と回答

現在、「全席喫煙可」あるいは「屋内分煙」という110店舗のうち、「改正健康増進法の施行に合わせて、法令に則した対応をした」と回答したのは96店舗。約9割の店舗が、対応策をとったことがわかる。
 

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屋内喫煙可能だった店舗の約9割が法令に則った対応を行った(画像=Foodist Mediaより引用)

そのうち具体的な対応策としては、「喫煙目的施設として全席喫煙もしくは喫煙席/禁煙席とした」が32.3%と、「喫煙目的施設」にすることで、喫煙可能な席を残したという店舗が多い。「全席禁煙として店内に飲食不可の喫煙専用室を設置した」という店舗は13.5%、「店内の一部に飲食可能な加熱式たばこ専用の喫煙席・フロアを設置した」は4.2%だった。
 

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42.7%の店舗が「喫煙目的施設として全席喫煙もしくは喫煙席/禁煙席とした」と回答(画像=Foodist Mediaより引用)

なお、「対応できていない」という8店舗のうち、屋内に喫煙環境を設ける予定があるのは1店舗で、理由は「売上が下がるため」(東京都/バー/1店舗)。また、「対応する予定はない(現状維持)」が半数の4店舗、「周りの飲食店の動向を見て対応を考える」が3店舗だったが、対応予定がない店舗の主な理由は、

「ビルの喫煙エリアがあるため」 (東京都/和食)
「罰則もなく、従業員を雇わないため」(東京都/居酒屋・ダイニングバー)

と、法令に当てはまらないため。一方で、「周りの飲食店の動向を見て対応を考える」理由としては、

「罰則など明確でないから」(東京都/カラオケ・パブ・スナック)
「少しでも多くのお客様に対応できるようにしたいが法令順守は必然という苦しい状況。周辺の同業が喫煙席を残すならこちらも残さなければ競争に負けてしまうから」(東京都/和食)
「コロナであやふやになってしまったため、まぁ対応できておりません」(東京都/バー)

と、飲食店経営者の歯がゆい思いが垣間見える。  

現在「全面禁煙」の店舗、本音は?

Q. 今後、喫煙環境を設ける予定はありますか?
設ける予定がある:7(2.4%)
設ける予定はないが、できれば設けたい:37(12.8%)
設ける予定はない:246(84.8%)
 

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「喫煙環境を設ける予定はないが、できれば設けたい」と回答した店舗は12.8%(画像=Foodist Mediaより引用)

現在、全面禁煙をうたっている店舗は、8割以上が今後も喫煙スペースを設ける予定はないと回答。ただし、今後設ける予定があるという店舗や、「予定はないが、できれば設けたい」と本音を漏らす店舗もある。その理由は大きく「他店との差別化」「来店チャンスの損失防止」という考えだ。

Q.喫煙環境を設けることは、店舗の売上や来店客数にどのように影響すると思いますか?
大きなプラスになる:57(11.2%)
プラスになる:152(29.9%)
マイナスになる:62(12.2%)
大きなマイナスになる:34(6.7%)
どちらとも言えない:203(40%)
 

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「大きなプラスになる」「プラスになる」という回答は41.1%(画像=Foodist Mediaより引用)

「大きなプラスになる」「プラスになる」という回答は209店舗(41.1%)で、「マイナスになる」「大きなマイナスになる」とした18.9%(96店舗)の倍以上。さまざまな問題をさておくと、売上にとって喫煙環境は設けるに越したことはないと考える店舗が多いことがわかる。 一方で、「どちらとも言えない」が203店舗と全体の40%を占め、判断がつかないという声が多いのも事実。この数字は、喫煙者が一定数いる反面、煙を避けたい客もいるという現実で悩む経営層の姿を映し出しているともいえるだろう。

■「プラスになる」と回答した飲食店の声
「プラスになる」とした店舗の業態は、アルコールを中心としたメニュー展開をするバー、そして居酒屋・ダイニングバーが大半だった。理由は、大きく「常連に喫煙者が多い」「喫煙者の方が酒を飲む傾向にあり、滞在時間も長いため客単価が高い」「差別化/リピートにつながる」という3つだ。

その中には、飲食という共通目的がある以上、それ以外の嗜好の選択は互いに理解を示しながら、自由であってよいという意見や、「海外からのお客様も含め、喫煙できることにメリットを感じていただいている」(東京都/バー)と、海外の喫煙環境との差別化になっているという声も寄せられた。

【喫煙者のほうが客単価が高い傾向がある】
「滞在時間が長くなり客単価が上がる為」(東京都/専門料理)
「タバコを吸う方の方が単価が高い傾向にあるため」(東京都/イタリア料理)
「なんだかんだ言っても、やはり団塊の世代の喫煙者はお金を落としてくれます」(東京都/イタリア料理)

【差別化・リピーターにつながる】
「アルコール飲料を好む顧客に愛煙家が多く、喫煙可能なことが生き残り策の一つになると思われるため」(東京都/居酒屋・ダイニングバー)
「喫煙可の店舗が少ない現在、もし完全分煙可能なスペースを設けることが出来れば愛煙家も多く来店して頂けると思います」(東京都/洋食)
「接待などで、お客様側が吸われる場合があるのを時々見る。「ああ、吸えるんだ、よかった!」「あ、さすがだね」等のお言葉を聞くと、やはり吸う方の場所があることが、店を選んでいただける理由になると思った」(東京都/その他)

【常連に喫煙者が多い】
「喫茶店として利用する高齢者の要望がある」(東京都/カフェ)
「ご来店のお客さまで喫煙者が依然多いため」(東京都/居酒屋・ダイニングバー)

Foodist Media
画像素材:PIXTA(画像=Foodist Mediaより引用)

■「マイナスになる」と回答した飲食店の声
「マイナスになる」と回答した店舗の業態にも、特徴的な傾向がある。最多は女性客や家族連れが多く来店するカフェ。うどん・そば、ラーメン店のような回転率重視のところは「喫煙スペースを設けることで集客増になるとは考えにくい」(東京都/そば・うどん)という声がある一方で、「プラスになる」という意見も。店の規模やメニュー構成によって意見が分かれるのであろう。そのほか、喫煙する人が減り、また客からの禁煙席要望が増えたことを実感する声が多く見受けられた。

【回転率が下がる】
「回転率が下がるため」(東京都/ラーメン)

【女性、親子連れが多い】
「来客は親子連れが多い」(東京都/カフェ)
「若い女性中心の店舗のため」(東京都/カフェ)
「喫煙者がすごく減った。お客様に家族づれが増えた」(東京都/ラーメン)

【料理の味を邪魔する】
「たばこの香りが邪魔するため」(東京都/アジア料理)

【ご時世】
「禁煙席のご要望が多いので」(東京都/フランス料理)
「タバコの臭いに敏感な人が増えた」(東京都/フランス料理)

喫煙スペースを設けることが売上にどう影響するかは、業態や規模、コンセプトによる。並行して、“家族で外食”をする場所がファミリーレストランだけでなく、ラーメン店やフランス料理、カフェなど、さまざまな店舗に広がっているという背景がある。飲食店側にとっては、自分が経営する店舗は、どういう人に、どう過ごしてほしいのかをより具体的に考えなくてはならない時代になっているといえそうだ。

文・『Foodist Media』編集部/提供元・Foodist Media

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