訪日外国人観光客の増加に伴い、大都市近辺の主要国際空港のみならず、地方空港においても東アジア方面を中心に国際線の定期便の新規就航は増加傾向にありました。

さらに国も地方空港の民営化による活性化を目指すなど、近年地方空港にとってはまさに追い風が吹く状況が続いていました。

ところが2020年に入り、地方空港は新型コロナウイルスの影響により、国際線だけではなく国内線においても壊滅的な影響を受け、そのダメージは日を追うごとに深刻さを増しています。

そこで本記事では、地方空港が置かれている状況を解説すると共に、今後の行方について探っていきます。

目次
地方空港とは

▶︎地方空港の特徴
▶︎2019年の地方空港の就航状況
地方空港への国の支援と民営化
▶︎民営化のメリット
▶︎熊本空港が、地方空港として最大の国際線ネットワークを構築
新型コロナの影響
▶︎海外からの上陸拒否
▶︎地方空港からの国際線は、ほぼ全便欠航に
▶︎地方空港もコロナの防止策を
地方空港の今後

地方空港とは

「空港」は、空港整備法において「主として航空運送の用に供する公共用飛行場で、政令で定めるもの」と明確に定義されています。

現在日本にある空港の中で、国際線の拠点となっている成田国際空港・中部国際空港・関西国際空港・羽田国際空港4港と、国内線の拠点空港となっている新千歳空港・伊丹空港・福岡空港・沖縄空港を除く90あまりの空港が、「地方空港」として定義されています。

地方空港の特徴

現在地方空港は、その設置主体や管理者により次のように分類されています。

1. 国管理空港 (国が設置、管理をしている空港):函館・仙台・広島・高知・熊本の各空港など

2. 特定地方管理空港 (国が設置し地方自治体が管理している空港):旭川・山形・山口宇部の各空港など

3. 地方管理空港 (地方自治体が設置、管理している空港):女満別・八丈島・神戸・屋久島の各空港など

地方空港の運航の中心となっているのは国内線です。しかしインバウンド需要の喚起や利便性の向上、さらには訪日観光客の分散化を目的に、特に2015年以降は東アジアの各国との定期便を中心に国際線を就航させる地方空港が増加しています。

2019年の地方空港の就航状況

国土交通省が集計した「2019夏ダイヤ国際定期便(3月31日~4月6日)」によると、地方空港の国際定期便の運行状況は以下のようなものでした。
 

空港名 ソウル 台北 香港 上海 その他
旭川 2
函館 12
青森 3
花巻 2 2
仙台 7 13
新潟 3 3 2 ハルピン(4)
富山 3 4 3 大連(3)
小松 3 7 2 4
茨城 3 2 6
静岡 3 2 7 中国3都市(9)
岡山 7 7 2 7
空港名 ソウル 台北 香港 上海 その他
広島 3 7 3 7 シンガポール(3)
米子 6 2
高松 7 7 4 5
松山 3 2
北九州 14 7 釜山(5)・務安(6)
大分 7 釜山(3)・務安(3)
佐賀 7 2 4 釜山(4)・大邱(4)
長崎 3 2
熊本 6 大邱(4)・高雄(3)
鹿児島 10 5 12 2
空港名 ソウル 台北 香港 上海 その他
宮崎 6 2
新石垣 2 6

地方空港の国際線は便数や行先は限定されますが、地方在住者にとっては国内での国際線拠点空港への移動が不要な点や、スピーディーな出入国審査といったメリットがあります。

その一方で、主要国際線空港と比較すると乗降客が少ないため、経済や国際情勢などにより運航中止や休航になりやすいというデメリットがあります。

地方空港への国の支援と民営化

多くの地方空港の主な収入源は、航空会社から支払われる空港利用料、ターミナルビルの地代、施設の賃借料などです。

現在地方空港では発着便の減便などの影響で7割以上の空港が赤字経営に陥っており、地方自治体にとって財政上の負担となっているケースがあります。

そこで地方自治体の財政負担軽減や、地方空港におけるインバウンド拡大に向けた取組として、国土交通省は地方空港の国際線に対するゲートウェイ機能強化とLCC 就航促進を掲げています。

2017年に「訪日誘客支援空港(拡大支援型)」として静岡、仙台、熊本など計19空港を、「訪日誘客支援空港(継続支援型)」に長崎、那覇、大分など計6空港を、「日誘客支援空港(育成支援型)」に松本、下地島の2空港を認定し、着陸料の割引など各種助成を行っています。

さらに国土交通省では国管理空港の民営化を促進しており、その第1号として2016年7月に民営化されたのが宮城県・仙台空港です。完全民営化となった2019年には、定期便は国内線が1日8往復、国際線が1週間に15往復に増え、地域経済にも好影響を与えています。

民営化のメリット

地方空港が民営化するメリットとしてまず挙げられるのが、空港経営の一体化です。

国管理の地方空港の場合、滑走路など空港は国交省の管理、空港ビルは第三セクターなど民間会社が運営するスタイルが一般的です。

しかし滑走路の着陸料や運用時間などを決める運営権を民間企業に売却して空港ビルと一体化させることで、空港ビルのテナント収入などを空港の着陸料の引き下げに当てることが可能になります。そうすることで、新規就航便の呼び込みにもつながります。

実際に、民営化1号となった仙台空港では、民営化以降着陸料を見直して新規就航に対する営業活動を進めました。その結果、民営化翌年の2017年度には、乗降客数は当初目標の341万人を上回って343万人となり、最終的に黒字決算を実現しています。

熊本空港が、地方空港として最大の国際線ネットワークを構築

近年民営化された地方空港の中で、大きな注目を集めているのが熊本空港です。

2020年4月に民営化されたばかりながらそのビジョンは非常に壮大です。2051年度の目標として、国際線17路線、旅客数622万人(うち国際線175万人)、さらにはエアライン業界における格付け会社ともいえるイギリスのスカイトラックス社が定める最高ランクの空港である「5スターエアポート」を目指すことを掲げています。

この目標を達成すべく、熊本空港では2027年までに東アジア路線を中心に7路線を追加して11路線とし、さらに2023年には新旅客ターミナルの供用開始、「滞在型ゲートラウンジ」の整備を目指しています。

また、制限エリア内の店舗面積を現状の54㎡から2,500㎡へと拡大するほか免税店の面積も現状の10倍にするといった具体的な計画を立ち上げており、今後の動向に注目が集まっています。

新型コロナの影響

近年、インバウンドの拡大と共に順調に乗降客数を伸ばしてきた地方空港ですが、2020年の2月頃から新型コロナウイルスの影響が深刻になると同時に状況が一変しました。

国土交通省が2020年6月に公表した航空輸送統計によると、3月に国内線を利用した人は前年同期比88.2%減、国際線の利用者数も同97.3%減と、利用客が大幅に減少しました。

さらに茨城空港のように2か月全路線運休といったケースもあり、多くの地方空港が存続の危機にさらされているといっても過言ではありません。

海外からの上陸拒否

2020年5月25日に緊急事態宣言が解除されたものの、日本政府は現在も100を超える国や地域に対して日本への入国制限措置を継続しています。

また、日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置をとっている国や地域も130に及んでいます。

一方で日本政府は感染拡大傾向が鎮静化したいくつかの国やエリアについては入国規制緩和を検討しており、ベトナムとは相互合意がなされました。

しかし、入国できる人数や条件は絞られています。

また、マルタ共和国のようにEUの一部の国では、日本人に対する入国制限を緩和した国もあります。

しかし国境をまたいでの人の移動の本格的な再開にはまだまだ時間がかかることが予想され、航空需要の回復は、先の見えない状況が続いています。

地方空港からの国際線は、ほぼ全便欠航に

こうした非常事態になると、2002年のSARSの流行時にみられたように、地方空港からの国際線はすぐに休航になり、運行再開は最後になることが考えられます。

静岡空港の場合、新型コロナの流行が本格化する以前は中国便として中国東方航空、北京首都航空、中国聯合航空、四川航空、上海航空の5社が乗り入れ、計8路線(上海、寧波、杭州、南昌、温州、連雲港、煙台経由北京)が就航していました。

ところが2020年3月11日から全便欠航となり、この時点から搭乗者ゼロの状況が数か月間続いています。

さらに国内線も5月の搭乗者数は733人で、前年同月比で98.9%減にまで追い込まれました。

欠航になると着陸料が入らなくなるだけではなく、搭乗者数が減少すると、必然的に飲食店、免税店といった空港内施設からの収益も減少するため、空港経営に深刻な打撃となっています。

地方空港もコロナの防止策を

緊急事態宣言が解除され、県をまたいでの移動が可能になりました。

また、東京を除いた形ではあるものの「Go Toキャンペーン」も始まったことにより、地方空港においても国内便は復活の動きが顕著です。

ただし、人の動きが復活すれば感染のリスクも必然的に高まります。そこで地方空港においても、徹底したコロナ感染防止策が求められています。

現在各空港でとられている主な感染対策には次のようなものがあります。

**・アルコール消毒の設置

・ソーシャルディスタンスの徹底のための足跡のステッカーや停止線の活用

・チェックインカウンターや案内所でのビニールカーテンやアクリル板の設置

・保安検査場での検温用のサーモグラフィーの設置

・SNSやインターネット、ご当地キャラと連携したポスターなどを通じた利用者への啓蒙活動**

空港設備だけではなく、地方空港を拠点とする航空会社においても感染防止に向けて積極的な対策に取り組んでいます。

仙台空港では、搭乗者数が4月には前年同月比84%減、5月は92%減となりました。

仙台空港を拠点とする航空会社「アイベックスエアラインズ(IBEX)」では、感染防止のため、外気を機内に取り入れ、床下から外に放出することで5分程度で航空機内の全ての空気を入れ替えられるシステムを導入しました。

さらに運航終了後には従来の機内清掃員に加え、客室乗務員や整備士が機体内の座席や荷物棚の消毒作業を行う方針を発表しています。

地方空港の今後

緊急事態宣言が出され、国際線だけではなく、国内線においても壊滅的な影響を受けた4、5月と比較すると、県をまたいでの移動が可能になった現在は、地方空港の搭乗者数も少しずつ上向いています。

地方空港において国際線の主力となっている東アジア方面への渡航や訪日客の受け入れに関しては、日本政府は7月中にも台湾との間のビジネス往来再開に向け協議を始めることを公表しています。

しかし中国については、アメリカに先駆けて中国との往来を再開させることへの外交的問題があります。

また、韓国については新型コロナウイルス問題以前から元徴用工訴訟といった外交問題を抱え、ビザのさらなる厳格化が検討されるなど、新型コロナウイルスとは別の問題も抱えています。

そのため地方空港の今後は、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発、さらには2021年に東京オリンピック・パラリンピックの予定通りの開催といった外的要因に大きく左右されます。

文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ

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