新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本の経済はリーマン・ショック以来の打撃を受けている。ファッション業界でも、営業自粛により日銭が入らない小売業者を筆頭にして苦境が続いている。まず運転資金の確保が喫緊の課題だが、少し余裕があればこれを機に不採算事業を中止するという動きも出ている。

イオンは従来子会社のイオンフォレストによって英国の化粧品専門店「ザ・ボディショップ」を運営してきたが、10月1日に英ザ・ボディショップ・インターナショナル(BSI)にその全株式を売却する。社名はザ・ボディショップジャパンに変更される。イオンフォレストは1990年にBSIとのマスターフランチャイズ契約に基づき、日本国内で「ザ・ボディショップ」を運営してきたが、30年の契約満了に伴い今回の売却が決まった模様だ。ザ・ボディショップジャパンの社長には、コーチ・ジャパンのマーケティング部長、2019年4月までフルラジャパンの社長を務めていた倉田浩美女史が内定している。

「ザ・ボディショップ」は1976年にアニータ・ロディック(Anita Roddick)が天然原料をベースにしたオリジナル化粧品を製造・販売する企業として設立した。2006年にはロレアルに買収され、2017年にはブラジルのナチュラ・コスメティクスに売却されている。

イオンは2020年2月決算でも子会社の見直しを表明していたが、今回のイオンフォレスト売却もその一環だ。イオンフォレストは2015年には「ザ・ボディショップ」を約160店(フランチャイズ店も含む)展開していたが、2020年2月末での店舗数は103店まで減少し、経営は楽ではなかったようだ。

イオン本体の2月末決算は、営業収益8兆6042億700万円(前年比+1.0%)、営業利益2155億3000万円(同+1.5%)、経常利益2058億2800万円(同−4.3%)、当期純利益268億3800万円(同+13.5%)で営業収益は10期連続、営業利益は5期連続で過去最高を更新している。業績が好調のうちに不採算事業を整理しておこうということらしい。これ以前にもイオンは2018年9月にマスターライセンス契約満了に伴い、子会社のローラ・アシュレイ・ジャパンによって運営していた英国ブランド「ローラ・アシュレイ」の事業から撤退している。

また米国専門店「タルボット」との輸入販売契約を1988年に結び日本法人タルボットジャパンが運営していた「タルボット」事業を2020年5月末に終了している。

さらに、1994年に米国のアクセサリーブランド「クレアーズ」でチェーン展開するクレアーズ社と合併会社クレアーズ日本を設立して同ブランドの日本展開を行ってきたが、2020年10月末をもって、日本事業を終了する。日本での「クレアーズ」の展開店舗は110店舗で、10月末までに順次閉店する。現在クレアーズ日本の従業員は643人(2020年2月末時点)だが、希望があればイオングループ内で雇用する方針だ。

以上のようにイオンは「ザ・ボディショップ」「ローラ・アシュレイ」「タルボット」「クレアーズ」という英米の化粧品・ファッションブランドの事業を一気に終了した。コロナの影響がなかった時点での「早逃げ」だが、見事な決断だったと言えるのではないだろうか。

文・久米川一郎/提供元・SEVENTIE TWO

【関連記事】
紳士服チェーン3社の厳しい中間&本決算から見えてくること
セイコーウオッチが欧州初「グランドセイコーブティック」をヴァンドーム広場に出店
「ナイキ」がヴァージル・アブローの「オフ-ホワイト」と「ナイキプロ」でコラボ
LVMHグループのファンドが27億円を出資した台湾のドクターズコスメ「ドクター・ウー」が日本上陸
ルックHDがイタリア革製品ブランド「イル ビゾンテ」を109億円で買収