《そもそも、現場のマネージャーがするべき仕事とは、どんなものなのか? 数多くの職場に対するコンサルティングを行なってきた沢渡あまね氏は、今、マネージャーに求められていることは、これまでとは違っていると話す。詳しく話を伺った。(取材・構成:塚田有香)》

※本稿は『The21』5月号に掲載された「マネジメントはピラミッド型からオープン型に変わるとき」より抜粋・編集したものです。

トップダウンの組織が勝てた時代は終わった

THE21オンライン
(画像=THE21オンラインより引用)

これからの時代に求められるマネジメントは、過去のものとはガラリと変わります。これまでのマネジメントを「統制型(ピラミッド型)」とするなら、今後は「オープン型」に変えていかなければなりません。

従来の日本のビジネスモデルは、自動車産業に代表される大手製造業に最適化されていました。経営や企画部門が「答え」を持っていて、現場がその「答え」に従うことで、収益を上げることができていました。

この旧来の製造業モデルの組織を図にすると、表1にあるようなピラミッド型になります。経営や企画部門が頂点に立ち、生産管理、製造、開発、調達などのオペレーションを担う各部門が下から支える組織です。

この組織における指示や情報の流れは、完全なトップダウンです。これが、統制型マネジメントです。

統制型とは、すなわち「逸脱を許さないマネジメント」です。性悪説を前提とし、個人を信頼せず、全員に同じシステムとルールの中で画一的に働くことを強制します。

企画部門やIT部門などのクリエイティブな部門であっても、製造現場と同じ仕事のやり方を求められ、全員が同じ時間に出社し、同じ場所に集まり、決められた座席で決められた仕事をする。これで創造性が高まるはずがありません。

トップダウン型の組織におけるコミュニケーションは、報連相です。トップから与えられた命題やテーマに沿って、下の人が上の人に報告・連絡・相談をするわけです。情報共有も、極めてクローズに行なわれます。「上が必要だと判断した情報だけを、必要な人にだけ伝える」という逐次共有が基本です。

そんな組織では、仕事の進め方は「ウォーターフォール型」になります。滝が上から下へ落ちるごとく、上から下へと指示や命令が落ちていく。これでは物事が動き出すまでに時間がかかりますし、下の人間は受け身の「指示待ち人間」になります。

私は統制型マネジメントを批判しているわけではありません。確かに、過去においては「勝ちパターン」だったからです。しかし、今後は通用しなくなります。なぜなら、もはや経営や企画部門が「答え」を持っていない時代だからです。

それを象徴する出来事が、2018年に発表されたトヨタ自動車とソフトバンクの提携です。自動車業界のトップに君臨する会社でさえ、自分の組織だけでは「答え」を見出せず、サービス型の新しいビジネスモデルを生み出すために他業種と手を組んだ。旧来の製造業モデルは、既に限界に来ているのです。

雇用や労働環境も変化しています。トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい」と発言したように、上の言うことに従っていれば一生安泰だった時代は終わりました。

だから、統制型の組織で働く人たちの多くが、将来への不安や「どうせうちの会社は変わらない」という無力感を抱いています。この状態で勝てる組織になるはずがありません。日本の生産性の低さがよく指摘されますが、それも統制型マネジメントを引きずっていることが大きな要因です。

イノベーションの鍵は「性善説」にあり

では、これからの時代のマネジメントは、どうなるべきか。それが、「オープン型」です。

GAFAや急成長中のスタートアップのようなイノベーション企業は、すべてオープン型マネジメントを行なっています。

イノベーションとは、既存の物事の掛け合わせから新しい価値を生み出したり、問題を解決したりすること。それには、社内で異なる部署同士がつながったり、他の業界や職種と協業したりする必要があります。よって、この「イノベーションモデル」は、トップダウンではなく、コラボレーション型の組織体制になります。

オープン型マネジメントでは、個性が尊重されます。一人ひとりの違いを大事にし、それぞれが自分にとって最適なやり方で仕事をしながら、生産性や価値創出力を高めていく。それがイノベーションを生み出す大前提です。

そのためには、性善説に基づいて相手を信頼し、個人に裁量と権限を与え、働き方の選択肢を与えることが必要です。コミュニケーションは、報連相から「雑相(ザッソウ)」に変わります。これはソニックガーデンの倉貫義人社長が使っている言葉で、二つの意味があります。

一つは、「雑談と相談」です。組織内外の多様な人たちと協業するには、相互理解を深めることが不可欠です。それには、上下関係を前提とした堅苦しい報連相より、フラットで気軽な雑談や相談が有効です。

もう一つは、「雑に相談する」。「まだアイデアの段階ですが、ちょっと相談に乗ってもらえませんか」と言える関係が重要なのです。時間をかけて完璧に仕上げてから相談するのではなく、ラフな段階から相手の力を借りれば、アイデアをスピーディに形にできたり、思わぬ協力者が見つかったりします。

外部とコラボレーションするには、情報共有もオープンでなければいけません。

統制型のクローズな情報共有では、限られた人だけにメールや口頭で伝達する方法が主流でしたが、これからはグループウェアやチャットツールなどの活用が必須です。時間と場所を選ばないので情報共有の範囲が広がりますし、各自が都合の良いタイミングで気軽に気づきや悩みを書き込めるので、雑相が活性化されます。

仕事の進め方も、迅速かつ柔軟な「アジャイル型」になります。100点を目指すより、20点や30点でいいから素早く動いて、トライ&エラーを繰り返しながら、組織も個人も成長していく。それにより、イノベーションが加速されます。

日本の管理職が苦手とするマネジメント

THE21オンライン
(画像=THE21オンラインより引用)

日本の組織がオープン型マネジメントへ切り替わらなければ、価値を生み出せない人材が量産され、いずれ組織と個人が共倒れします。とはいえ、現場を率いるマネージャーは、「マネジメントを変えろと言われても、具体的にどうすればいいのか……」と悩むでしょう。そこで、これから重要となる「五つのマネジメント」を表2にまとめました。

5つのうち、日本の管理職が特に苦手なのが「コミュニケーションマネジメント」です。自分のチームがコミュニケーション不全に陥っていたら、マネージャーがやるべきことは二つあります。

一つは、「このチームで求められるコミュニケーションとは何か」という要件定義。クレームが多い現場なら、「クレームを減らすために何をするか」を具体的に示すだけでも、メンバーの意識が変わります。

例えば「お客様から問い合わせがあったら、必ず部内で共有して解決策を話し合う」と決めるだけで、「こんなことを上司に報告していいのかな」「メンバーも忙しいから自分で解決するしかない」などと考えて、情報を隠したり、一人で抱え込んだりすることがなくなります。

二つ目は、コミュニケーションの方法を変えること。働き方の多様化が進めば、働く時間と場所が異なる者同士での「雑相」を促進しなくてはいけません。しかも、解決策やヒントを持っている人が想定外の場所にいることも少なくありません。

よって、前述のようにチャットツールなどを使いながら、個人がオープンかつ自由に発信できる場を作ることがマネージャーの重要な役割です。あるいは「気づいたことがあったら、付箋に書いてこのホワイトボードに貼ってください」と呼びかけるだけでも、情報発信の場を作れます。

メンバーに外へ出るよう促そう

「キャリアマネジメント」も、忙しいマネージャーがなかなか手を回せない領域です。ここでもやるべきことは二つ。

一つは、「この組織の本来価値は何か」をメンバーと話し合うことです。 経理であれば、「書類を細かくチェックして差し戻すことが経理の本来価値でしょうか。

各事業所が気持ち良く予算を使ってコラボレーションを進められるように支えることが、私たちの本来価値ではないですか」といった議論を投げかけて、「だとしたら、現在の紙やハンコベースのやり方が適切か」といった仕事の改善策まで落とし込みましょう。

「どんな仕事のやり方が価値を生み出すのか」を明確にすることで、メンバーは価値を出せる人材になるための経験とスキルを身につけられます。

もう一つは、メンバーに外へ出るよう促すこと。社内にこもって同じ顔ぶれでずっと仕事をしていたら、「外から見たとき、この組織はコラボレーションの相手として魅力的なのか」を判断する基準を持てませんし、外部とつながるにはどんなスキルが必要かもわかりません。

例えば調達部門なら、統制型の時代は業者を呼びつけて価格交渉するだけでよかったかもしれませんが、オープン型の時代は、いかに自社に共感してくれる取引先を探せるかが勝負です。

よって、調達部門で働く人にも、自社が目指す方向性やビジョンを自分事として語れるスキルや人を巻き込む力が求められます。それにもかかわらず、価格交渉のスキルだけで仕事を続けていたら、その人はこれからの時代に不要な人材になってしまいます。

積極的に外へ出て様々な人と交流したり、「私たちはこんな取り組みをしている」と情報発信したりしてください。外に知ってもらって初めて、コラボレーションの相手が見つかる可能性が拓けます。

外の世界を知れば、自分たちに足りないものがわかるので、「このテーマの本を読もう」「この専門家を呼んでメンバーに講演してもらおう」といった学びの機会を自ら作れるようにもなり、メンバーに自律的なキャリアを確立してもらうこともできます。

若手の提案を受け入れ積極的に試すべし

マネージャーの中には、仕事が山のようにあるのに、「自分でやったほうが早い」と思って抱え込んでしまう人が少なくありません。この状況から抜け出すには、「オペレーションマネジメント」で、日々の業務が回りやすい仕組みを作ることです。

まずは、「やめること」を決めてください。そうしないと仕事は増える一方です。「試しにやめてみる」でも構いません。「この報告、本当にいるかな?」と迷ったら、試しに1カ月間やめてみる。それで支障がなければ、ずっとやめればいいでしょう。

加えて、仕事を共有する仕組みを作ること。仕事を単純化したり、手順を文書化したりして、他の人に任せやすい仕組みを作りましょう。 誰かに任せれば、マネージャーは目先の仕事から解放され、メンバーは新しい経験を積んで成長できます。

統制型からオープン型へ移行するために最も大事なのは、若手やモチベーションが高い人の声に耳を傾けることです。決して相手を否定せず、自分の常識や経験を押しつけない。

相手を受け入れて、若手が提案するやり方を積極的に試したり、外部の人のアドバイスを取り入れたりする。それが、これからの時代に必要とされるマネージャーになるための第一歩です。

沢渡あまね(業務改善・オフィスコミュニケーション改善士)
(『THE21オンライン』2020年05月11日 公開)

提供元・THE21オンライン

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