リモートワークがうまくいかない理由は「ホウレンソウ」の重視しすぎ!?

生産性を上げるための方法として、様々な時短術がある。特に会議やメールなどに関してムダが多いのは事実だが、間違った時短術でまったくムダとりができていない例も多い。本企画では、自ら「週休3日」で働くコンサルタントの越川慎司氏が、528社の働き方改革支援データから得た知見と、26万社を巻き込んだ行動実験から生み出した「再現性のある時短術」を紹介する。(取材・構成=杉山直隆)

働き方改革に成功した企業はたった12%

「働き方改革というけど、残業できなくなっただけで、何も良いことがないのだが……」

昨年4月に関連法が施行されてから、多くの会社が働き方改革に乗り出しています。しかし、現実には、冒頭のセリフのように感じている人は多いでしょう。弊社が528社に調査をしたところ、「働き方改革に成功している」と回答した企業はわずか12%。約9割は「うまくいっていない」のです。

なぜうまくいかないのか。それは「どうなれば働き方改革は成功か」という目的を正しく設定していないからです。

残業をゼロにする――いわゆる「時短」を実現すれば、「成功」と考えている会社は多くあります。しかし時短は目的ではなく手段です。時間を減らすだけでは会社は良くなりません。

にもかかわらず、時短を目的にすると、どうなるか。表面的には総労働時間は減っているものの、実際は36協定の対象外である管理職にしわ寄せがいくようになります。弊社の調査によると、529社の今年度の総労働時間は18%減っている一方、管理職の労働時間は21%増えていました。最近、東京・丸の内のカフェが夕方以降どこも満席で、過去最高の売上を記録しているのは、管理職が残業しているから。通勤ラッシュのピークが朝7時台に早まっているのも、朝早く出社する管理職が増えているからです。しかし、表面的に時短できたとしても、業績は上がらず、働いている人たちの給料も上がらない……。これでは働き方改革は成功したとはいえません。

会社と個人では定めている目的が違う

働き方改革を成功させるには、第一に「どうなったら成功といえるか」、目的をしっかりと定めることが欠かせません。

その際、ほとんどの企業で抜け落ちている観点は、「会社と個人では、働き方改革の目的が異なる」ということです。

会社から見れば、その目的は「会社を成長させ、存続させること」ですが、個人はそうではありません。「自分が幸せになること」です。もう少し分解すると、「短時間で豊かな生活ができる稼ぎを得ること」、そして「働きがいを持てる仕事をすること」の二つです。言ってみれば当たり前なのですが、意外と個人の目的が考慮されていないのです。

働き方改革の目的を立てるときは、会社と個人の目的を同時に達成できるよう、ベクトルを合わせることが大切です。その手段を考えたときに初めて、時短などの手段が出てきます。

時短をするなら、単に時間を減らすだけでなく、そうして捻出した時間を、目的を達成するための投資に充てることが重要です。会社でいえば新規ビジネスの開発、個人でいえばスキルアップです。そうして初めて、働き方改革が成功したといえるでしょう。

こうみると、働き方改革は経営戦略であり、人事戦略ではありません。人事や現場のマネジャーに丸投げするようなものではありませんが、マネジャー主導のもとに、行なうことも可能です。

チームのメンバー間で、「働き方改革を行なう目的をはっきりさせる」。そのうえで、目的を達成するための行動を考えて、試しにやってみて、効果があったかどうか振り返る。働き方改革に成功している12%の企業では、そうした「行動実験」を精力的に行なっています。ぜひ皆さんの職場でも取り組んでみてください。

社内会議の時間が劇的に減る方法とは?

働き方改革の手段として、時短の方法を考えたとき、最も効果が出やすいのは、「会議」に手をつけることです。

弊社が「1日にどんな業務をしているか」を221社に調査したところ、最も多くの時間を費やしていたのが「社内会議」で、全体の43%にも上っていました。ちなみに2位の「資料作成」は14%、3位の「メールの送受信」が11%です。43%にメスを入れると、大きな時短効果が期待できます。

会議の時間を減らす方法はたくさんありますが、最も効果的なのは、「企画・アイデア出しをする会議と意思決定をする会議を分けること」です。

様々な企業の会議の様子を7,000時間録画し、分析したところ、最も生産性が低い会議は、「アイデアを求められるが、出したアイデアをことごとく上司や同僚につぶされる」会議でした。企画・アイデア出しと意思決定を同時にしたいのでしょうが、これだと十分なアイデアは出なくなり、何も進まないまま終わってしまいます。

このようなムダをなくすためには、まず、アイデア出しに絞った会議をすることが大切です。アイデアを否定することは厳禁。とにかく質を問わず、量を出します。そのうえで、別の日にどのアイデアにするか、意思決定をするのです。その結果、会議を2回に分けているにもかかわらず、トータルの時間は12%も減りました。

ホウレンソウがリモートワークを台無しに

新型コロナウイルスの影響で、急にリモートワークをすることになった人は多かったのではないかと思います。政府の休校措置を受けた途端、弊社にも1日50件以上、リモートワークに関する問い合わせが来ました(※2月28日に取材)。今もスマホが鳴りっぱなしです。

リモートワークは、時短の観点からみても効果的ですから、この機会に移行すると良いと思うのですが、現実には、仕事に支障をきたしたチームも少なからずあったようです。

リモートワークの導入に成功・失敗する分かれ目は、「ホウレンソウ」にあります。報告や連絡を増やすのではなく、できるだけ減らすのです。

在宅勤務になると「サボるのではないか」と疑心暗鬼になり、日報の提出など報告・連絡を過度に求める企業は少なくありませんが、サボる人はオフィスだろうが在宅だろうがサボります。それより、詳細な報告など余計な作業によって、きちんと働いている人の生産性を下げるほうが問題です。

報告と連絡は、始業時に今日やることを、就業時に今日やった仕事を箇条書きで簡単に報告するぐらいにとどめましょう。

むしろ重要なのは、雑談と相談です。一人で仕事をしていると、孤独感を覚え不安になります。それを防ぐために、いつでも雑談や相談ができるようにしておくのです。

お勧めは、ウェブ会議の最初に、2分程度で良いので、雑談をすること。雑談は仕事の話ではなく、「今日食べたランチ」のような無難な話が良いでしょう。これだけでも孤独感は随分やわらぎます。また、ビジネスチャットでやり取りをするときに、絵文字の使用を積極的に奨励するのもお勧めです。絵文字は感情の共有をするのに非常に適していますから、ビジネスの場こそ有効活用しましょう。

実践・超時短術 会議編

業務時間の43%を占める「社内会議」。そのムダを減らせば、多くの時間を捻出できる。

その方法として越川氏がすすめるのが「A24Bルール」。これは「Agenda 24 hours Before the meeting」の略で、24時間前までにアジェンダが共有されていない会議は中止をするという意味だ。「18社の1万7000時間の会議を調査したところ、『目的が明確に決まっている』『アジェンダが事前に共有されている』『必要な人が参加している』のうち、どれか一つでも欠けると、成功確率が40%以下に下がることがわかりました。成功確率が低いなら延期した方がマシというわけです」(越川氏)

会議の時間を60分ではなく、45分にすることもポイント。人は時間を目一杯使おうとするもの。45分にすると、45分で終わらせようとする。「また15分余ることで、その後に、『ちょっといいですか』と上司と部下他部門のメンバーにが話しをする会話する機会が生まれます。こうした会話から新規事業が生まれることは非常に多いのです」(越川氏)

誰も発言せず、時間だけが過ぎていく会議も、極めてムダだ。これをなくすには、心理的安全性を高めること。「尖った発言をしても自分の身に危険が及ばない」という安心感をメンバーに持ってもらうことが欠かせない。

その上で重要なのが、リーダーの表情だ。「40~50代の人は怒っていないのに、怒っているように見えがちです。柔和な表情を意識しましょう。ただ、笑顔をつくろうとするとぎこちなくなりがちなので、口角をあげることを意識しましょう。腕を組むのも威圧感を与えるのでやめたほうがいいです」(越川氏)

ウェブ会議と同様に、リアルな会議でも、冒頭に2分程度の雑談をすると、リラックスした空気をつくれる。

実践・超時短術 メール編

業務時間全体の11%を占めるメールの送受信。その手間を減らすポイントは、社外ではなく、社内のメールにメスを入れること。意外と、社内のメールに時間を取られていることが少なくないからだ。

社内メールの手間を減らすコツは、「メール送信のルールを決めること」と越川氏は言う。一部の人が考えるメールのマナーや常識によって余計な作業が増えていることは少なくない。ルール化することでそれを防げる。 

まずは「CC」。何でもかんでも上司をCCに入れることで、メールの量が膨大になり、上司の処理が滞るようになる。しかし、「不必要なCCをやめよう」だけでは、上司から怒られるのが怖い、となり、CCは減らない。「そこでルールを決めます。たとえば『営業目標の達成に5%以上影響のある案件の変化については、課長をCCに入れる』という具合です。あとはCCに入れない、とすると、メールの量が大幅に減ります」(越川氏)

また、越川氏がおすすめするのが、「本文を105文字以内に収める」というルールを決めることだ。

「そうすると、読みやすくなるだけでなく、『いつもお世話になっております』とか『お疲れ様です』といった挨拶の入力を省けます。社内へのあいさつは誰もがムダだと思っているのですが、『お疲れ様です、がないじゃないか』と文句をつける人が一人でもいると、省けなくなる。その対策のために、明確にルール化するのです」(越川氏)

個人でできることでは、「メールチェックの頻度を減らすこと」も有効だ。数分ごとにチェックし、いちいち対応していると、それだけで時間の浪費になる。

「しかし、メールのなかには、自分が答えなくても解決したり、相手の勘違いで答える必要がなかったりすることがよくあります。チェックの頻度を減らせば、そうしたメールに対応しなくて済むわけです。職種にもよりますが、一般的には1時間半に1回程度で十分だと思います」(越川氏)

<『THE21』2020年5月号より>

越川慎司(こしかわ・しんじ)
クロスリバー社長

株式会社クロスリバー代表取締役社長アグリゲーター。株式会社キャスター執行役員。国内外の通信会社に勤務し、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフトに入社。業務執行役員としてOffice事業部を統括。17年に働き方改革の支援会社であるクロスリバーを設立。週休3日で日本企業の働き方改革を支援し、18年11月時点で合計528社の働き方改革を支援してきた。働きがいを高めるワークショップを展開し、受講者は1万6,000人超。著書に、『仕事の「ムダ」が必ずなくなる 超・時短術』(日経BP)など多数。(『THE21オンライン』2020年04月09日 公開)

提供元・THE21オンライン

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