隕石の落下は、過去に幾度も地球に大量絶滅をもたらしてきました。
普通に考えれば、こうした隕石の影響は、そのサイズが大きければ大きいほど致命的であるように思えます。
しかし、実際調査を行うと非常に巨大な隕石の衝突で大量絶滅が起きていなかったり、ずっと小さいサイズの隕石で大量絶滅が引き起こされていることが確認されているのです。
研究者たちは長年この問題に悩んでいましたが、その原因と考えられるものがリバプール大学の研究チームより発表されました。
その研究によると、大量絶滅は、落下した隕石のサイズとは関係がなく、その衝撃がカリ長石という鉱物を舞い上げた場合に発生しているといいます。
研究の詳細は、12月1日付で、科学雑誌『Journal of the Geological Society.』に掲載されています。
隕石のサイズと関連しない大量絶滅
地球の大量絶滅は、「ビッグ5」と呼ばれる過去5回発生している大規模なものが有名ですが、実際のところ規模に差はあるものの、もっとたくさん発生しています。
そして、その多くには、小惑星の地球衝突が関連しているのです。
有名な大量絶滅は、恐竜を滅ぼしたというK-Pg境界(地質学的な年代分類)に見られるものです。
この大量絶滅は、「チクシュループ衝突体」と呼ばれる、直径約10kmを超える巨大隕石が落下したことで引き起こされたと推定されています。
こうした話を聞くと、巨大な隕石が落ちれば大規模な大量絶滅が発生する、という気がしてきます。
ところが、地質学的な調査によると、必ずしもそうではないことがわかるのです。
今回の研究では、過去6億年間に発生した44個の隕石落下について分析を行っています。
下の図は、発見されたクレーターサイズから推定される落下隕石の規模と、絶滅強度を比較したグラフです。

分析された隕石の中で、大量絶滅に関連したと考えられるものは15個確認されました。
その中でも、史上4番目に巨大な隕石だったと考えられる直径48kmのクレーターでは、とくに大量絶滅の発生と関連していませんでした。
ところが、それより半分程度のサイズしかなかった約500万年前に落下した隕石は、高い強度の大量絶滅を引き起こしていたのです。
こうした事実は、以前から判明していたもので、研究者たちは何十年もの間、「なぜ小さな隕石でも大量絶滅が起きているのに、より大きな隕石の落下で大量絶滅が起きない場合があるのか?」その理由に悩んでいたのです。
そこで、今回の研究チームは、過去に起きた44回の隕石衝突で放たれた塵を分析してみることにしました。
すると、驚くべき事がわかったのです。
それは大量絶滅が、隕石のサイズではなく、隕石が巻き上げた塵の成分に関連しているという事実でした。
隕石がカリ長石を巻き上げると大量絶滅が起きる
研究者が発見したのは、大量絶滅が発生したときの隕石が巻き上げた塵には、「カリ長石」と呼ばれる鉱物含有量が高いということでした。
カリ長石(K-feldspar)は、カリウムを多く含む長石のことです。
長石は、花崗岩や火山岩の中にも多く含まれる、毒性も特に持たない地球ではありふれた鉱物です。
では、なぜ隕石の巻き上げた塵にカリ長石が多く含まれるときに大量絶滅が起きるのでしょうか?
隕石が落下した際は、大量の粉塵が空へ舞い上げられます。
これが太陽光を遮り地球に冬をもたらすことが、大量絶滅の主な要因と考えられていました。
しかし、こうした塵の作用は通常2~3年で収まります。
巨大な隕石ほど、落下地域に深刻な被害をもたらし、大量の塵を巻き上げますが、実際のところ地球全体の生物に対しては、それほど深刻な影響を与えない可能性があるのです。
しかし、隕石落下地点に大量のカリ長石を含む地盤があり、これが大量に大気中へ舞い上げられた場合、状況が変わってくるのだといいます。
カリ長石は無毒ですが、大気中で氷の核となる強力な鉱物エアロゾル粒子です。
そのため、この鉱物の粉塵が大量に舞い上げられた場合、地球全体の雲の形成に大きな影響を与える可能性が高いのです。

氷の粒を多く含んだ雲が形成されると、その雲は太陽光をより多く透過させるようになります。
地球の温度を保つ要因の1つが、雲の太陽光反射率にあります。
太陽光をあまり反射しない雲が大量に形成されると、地球にはより多くの太陽光が降り注ぎ、結果的に地球の気温上昇などの気候変動を生み出すようになるのです。

またこうした軽い塵は、太陽光を遮って冬をもたらすような塵と異なり、大気中に長く留まる性質があります。
推定では、こうした塵は最大10万年も影響を及ぼし続ける可能性があるというのです。
こうして太陽光を受け入れやすい状況になった地球は、火山活動などに伴う温室効果ガスの排出に対して、非常に敏感に反応しやすくなります。
つまり、温暖化が容易に起きやすい状況になるのです。
大量絶滅の原因には、隕石の他にも火山活動の活発化による大噴火などが提案されていますが、これも隕石同様に必ずしも大量絶滅と相関しているわけではありません。
今回の発見は、こうした噴火の影響についても、隕石が舞い上げたカリ長石が絡んでいる可能性を示唆しているのです。
大量絶滅は、隕石のサイズが問題なのではなく、カリ長石を多く含む岩盤に当たったかどうかに相関していると研究者は語ります。
これは今後の大量絶滅の研究に新しい道をもたらす発見です。
しかし、大量絶滅の要因が、鉱物エアロゾルにあったとすると、我々にとっては深刻な問題になるかもしれません。
過去において、大気中に鉱物エアロゾルを増やす要因は隕石落下しかありませんでしたが、人類の活動は大気中への鉱物エアロゾルの排出を増加させています。
これが同様のメカニズムを発生させる恐れは、十分にあるかもしれません。
参考文献
Size doesn’t matter: Rock composition determines how deadly a meteorite impact is
It’s Not Actually Size That Determines How Deadly a Meteor Is
元論文
Meteorites that produce K-feldspar-rich ejecta blankets correspond to mass extinctions
提供元・ナゾロジー
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