目次
無重力という環境
宇宙に進出した細菌
怖い話ばかりではない

細菌は宇宙で抗生物質耐性を持った”危険な存在”になるかもしれない
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

point
世界中で宇宙開発が進んでいるが、生物が宇宙へでた場合の影響はまだよくわかっていない
新たな研究は細菌が無重力空間へ行くことで、抗生物質耐性を示すことを報告
人類にとってより致命的な存在へ進化する恐れがある

今月は中国に続きアラブもロケットを打ち上げるなど、世界各国が続々と宇宙開発競争へ名乗りをあげています。

現在目標にされているのは月と火星の調査です。

こうした人類の新たなフロンティアとして宇宙開発が進んでいく様は、聞いていてワクワクさせられる話題ですが、宇宙空間が生物に与える影響については、まだ正確にわかっていません。

夢見たSF世界が現実になりつつある今、悪夢のようなSFホラーも現実になってしまうかもしれないのです。

宇宙で変異することが特に危ぶまれているのが、地上でもっとも小さい生命体「細菌」です。

この微視的な生物はどこへ行ってもつきまとってくるので、人間が宇宙へ進出する以上、彼ら細菌も一緒に宇宙へ進出します。

そして細菌は、人間と同様に、宇宙の環境から大きな影響を受けることになるのです。

無重力という環境

細菌は宇宙で抗生物質耐性を持った”危険な存在”になるかもしれない
(画像=Credit:pixabay、『ナゾロジー』より引用)

地球上のすべての生物は常に重力とともに進化してきました。

重力はさまざまな物理的プロセスに影響を与えています。宇宙のように重力が極端に微弱な環境では、あらゆる物理的動作が変わってしまうのです。

例えば、液体中の粒子が底に沈殿する沈降現象、温度差に応じて熱エネルギーが移動する対流、浮力、こうした動作は無重力の宇宙では最小限に抑えられてしまいます。

逆に表面張力や毛細管力など液体に働く力はより強く現れるようになるとのこと。

こうした物理現象はすべて生命体の内部でも働いている力であり、その影響がどの様に生命に現れるかは完全に理解されていません。

宇宙に進出した細菌

こうした中で、細菌が微小重力に晒された場合何が起きるか、という宇宙実験が2013年に行われました。その結果、細菌が抗生物質に耐性を持つようになり、より致命的な存在になるということが示されているのです。

そして、この状態は地球へ戻った後も短期間維持されるといいます。

また、バクテリアなどは新しい環境に適応するため、地上よりも宇宙空間では速く変異していくという報告もあります。

さらに、宇宙の微小重力下では、細菌のバイオフィルム形成も促進されることが示されています。

細菌は宇宙で抗生物質耐性を持った”危険な存在”になるかもしれない
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

バイオフィルムというのは高密度に集まった細菌のコロニーのことで、これを形成した細菌は高分子物質の複雑なマトリックス状の構造になって、容易に除去できなくなります。

虫歯菌などもバイオフィルムを形成すると、もう歯ブラシやフロスでは除去できなり歯医者などで専用の道具を使って除去してもらわなければなりません。

そして、このバイオフィルムは抗生物質に対する細菌の耐性も高め、生存しやすくし、感染能力を拡大させます。

ソビエト連邦が運用していたミール宇宙ステーションでは、窓やエアコン、酸素電解ブロック、水のリサイクルユニットから熱制御システムまで、このバイオフィルムが成長して付着していたのが確認されています。

これは長時間放置すると機器が機能不全に陥り、壊滅的な被害を受ける可能性があるとのこと。

また微小重力下では、特定の細菌は細胞サイズが減少し、細胞数は増加することが示されています。

この場合も、表面積が低下することで、抗生物質などの有効性が低下することになるでしょう。

さらに、沈降や浮力といった重力作用がなくなることで、細菌が栄養素や薬物を取り込む方法が変化し、薬剤耐性が上がったり、感染力が拡大するなどの恐れも発生します。

これが長距離宇宙飛行ミッションなどでは、深刻な問題になる可能性があるのです。有人火星探査も本格的に視野に入ってきた昨今、こうしたミッション中に、治療が難しい細菌感染が発生することは致命的な問題になりかねません。