どこよりも地球温暖化の影響を強く受けているのが北極だといわれています。
しかし、ここで進行する温暖化の影響は複雑で、正確に予測することが困難でした。
4月23日にオープンアクセスジャーナル『Nature Communications』に発表された新しい研究は、太平洋から流れ込んだ暖流が塊となって、北極海の海氷を長期間に渡って溶かす要因になっていると明らかにしています。
北極海は通常の海と異なり、塩分濃度で層を作っています。これが海の中に氷を溶かす熱爆弾を作っていたようです。
北極海の下に眠る熱爆弾
通常の海は暖かく軽い海水が表面近くに昇ってきて、冷たい水は下にいく温度による層を作っています。
しかし、北極海は特殊で、温度ではなく塩分濃度によって海水の層が作られています。
北極海では、ベーリング海峡を通って太平洋から流れ込んできた暖かくて塩分濃度の高い海水が、アラスカ北岸の狭いバロー峡谷の水路を通り少しずつ入り込んできます。
北極海には、他にも周囲の河川から冷たい真水が大量に流れ込んでいます。
そのため、少量ずつ入り込む塩分濃度が高く密度の高い太平洋の海水は、冷たく新鮮な表層水の下に潜り込んでしまうのです。

この動きが、北極海の表層の下に温かい水のポケット(塊)「熱爆弾」を作り出していくのです。
この「熱爆弾」は、数カ月から数年にわたって安定し続けます。
そして、渦を巻きながら北極の海氷下まで運ばれていくのです。
その熱は、徐々に海面方向へと解放され、着実に北極の氷を溶かしていきます。
これまでは太平洋の温水が北極海の下に沈み込む過程は観測されておらず、このメカニズムは知られていませんでした。
そのため、科学者たちはこの重要な効果を、気候変動予測モデルに組み込んでおらず、北極の海氷融解速度を過小評価していた可能性があります。
北極海へ流入する太平洋の温かい海水の量が、ここ10年にわたって増加し続けていることを考えると、今回の研究は北極海の海氷が1年の大部分にわたって溶け続ける可能性を示す重要な証拠になっています。
また、今回の暖かい海水のポケットは、イギリスとドイツの共同研究により、北極圏に独特の生物地球化学的特性(生物、無生物を循環する元素の経路)をもたらすこともわかりました。
これは、北極圏の生態系の変化にも重要な影響を与えると予想されています。
北極海の海氷は、地球の気候を安定させる鍵となるものだと考えられています。
新しく発見された温暖化の影響メカニズムは、地球の気候変動を予想より速めることになってしまうかもしれません。
参考文献
THE ‘HEAT BOMBS’ DESTROYING ARCTIC SEA ICE(Scripps Institution of Oceanography, UC San Diego)
元論文
A warm jet in a cold ocean
提供元・ナゾロジー
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