オーストラリアの非営利団体、エグジット・インターナショナル(Exit International)は2018年に、世界初となる3Dプリント製の安楽死マシン「サルコ(Sarco)」を開発し、賛否を含む多くの注目を集めました。

そしてこのほど、自殺ほう助が合法となっているスイスで、サルコを運用するための法的審査に合格したと発表されました。

オランダを本拠地とする同社は、スイスと協力して、2022年の運用開始を目指しているとのことです。

目次

  1. 安楽死マシン「サルコ」とは
  2. サルコは誰でも使用可能ではない

安楽死マシン「サルコ」とは

安全な「安楽死マシン」の運用、スイスで合法化
(画像=サルコのイメージ図 / Credit: Exit International – A 3D-Printed Assisted Suicide Pod Is Now Legal in Switzerland(2021)、『ナゾロジー』より引用)

安楽死には、医師が薬物を患者に直接注入する「積極的安楽死」と、医師が詳報した薬物を患者自ら服用する「自殺ほう助」があります。

どちらもほとんどの国で違法ですが、オランダ、スイス、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルグ、カナダ、アメリカの一部州などでは合法化されています。

ただし、誰でも安楽死を受けられるわけではなく、それを選択する患者が、不治の末期症状で苦しんでいることが共通の条件となっています。

安楽死は一般に、医師が処方したペントバルビタールナトリウムという液体を注入する方法がとられています。

これを致死量摂取すると、およそ2〜5分以内に眠りに落ち、こん睡状態となって、最後には死に至ります。

スイスでは昨年、約1300人がこの方法により安楽死を遂げました。

これに対し、エグジット・インターナショナルの創設者で、サルコの開発者でもあるフィリップ・ニチケ氏は「安楽死のプロセスを本人にとってより簡単で安全なものにしたい」と述べます。

規制薬物を使用した安楽死は、複数の医師や精神科医による診断と許可が必要であり、場合によっては、パニック状態や窒息するような苦しさを感じることがあるという。

「そのような従来の方法に比べて、サルコは平和的で、むしろ優雅な死を遂げられる」とニチケ氏は語ります。

安楽死までのプロセス

サルコは、3Dプリンターで作られたカプセル型マシンで、規制薬物を使うことなく、患者を安楽死に導きます。

そのプロセスは以下の通り。

まず、患者がカプセルの中に入り、サルコを起動させます。

専用のボタンを押すと、台座部の装置から液体窒素が放出され、マシン内を満たしていきます。

約30秒でマシン内の酸素濃度が21%から1%まで急速に低下し、患者は眠りにつきます。

意識を失う前に、頭がぼうっとしたり、わずかな陶酔感があるかもしれませんが、5〜10分のうちに安らかな死が訪れるという。

薬物を使わないため、危険な副作用の心配がなく、死を迎えたカプセルは、微生物を分解することでそのまま棺桶となります。

また、サルコの起動には、ボタン以外にも、麻痺患者のための音声やまばたきによる操作も可能です。

サルコは誰でも使用可能ではない

サルコを使えば、患者の好きな場所やタイミングで安楽死を遂げられますが、誰でも手に入るわけではありません。

まず、利用者は、心理的に責任能力があることを示すため、オンラインの心理テストに答える必要があります。

同社は、この心理テストに関し、「人工知能(AI)を用いて、死を選択する人の精神的健全性を評価したい」と述べています。

テストにより、本人の自由意志に基づいて安楽死を選択したことが証明できれば、サルコ入手を申請するための4桁のコードが得られるとのこと。

その後、同社からサルコが提供され、本人の希望する場所まで運ばれて、先に説明した手順で安楽死を開始します。

安楽死に「反対の声」も

今回、サルコの運用を法的に認可したスイスでは、住民投票や世論調査により、有権者の過半数が「自殺ほう助」に賛成していることが分かっています。

チューリッヒ州では2011年に、保守政党が提起した「州外・国外居住者の自殺ほう助の原則禁止」に対する住民投票が行われたのですが、大多数の反対で否決されています。

それから間もなく、スイス政府は「国としては、自殺ほう助団体を規制しない」旨を発表しています。

しかし、安楽死の合法化に異を唱える声は多く、安楽死マシン「サルコ」に対しても強く批判しています。

生命尊重派の団体は「サルコは自殺を魅力的かつ普遍的なものにしてしまう」と、以前からその危険性について訴えていました。

また、サルコが世界に浸透すれば、とんでもない数の自殺者が出てしまうとの声もあります。

日本でも安楽死は法的に認められていないため、サルコも当然ながら違法となるでしょう。

その一方で、日本人の7割以上は「安楽死に賛成」というデータがあり、将来的には、サルコの合法化もあり得るかもしれません。

果たしてサルコは、人々に「安らかな死」をもたらすのか、それとも「安易な死」を生み出すものなのでしょうか。


参考文献

A 3D-Printed Assisted Suicide Pod Is Now Legal in Switzerland

元論文

3D-printed suicide pods are now legal in Switzerland


提供元・ナゾロジー

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