全ての果物は、収穫後に成熟が続くもの(バナナ、アボカド、リンゴなど)と収穫後は成熟しないもの(ブドウ、イチゴ、サクランボなど)に分類されます。

収穫後に成熟が続くことを「追熟(ついじゅく)」と言いますが、この反応は昔から知られており、メカニズムも研究されてきました。

ところが、「なぜ追熟する果物と追熟しない果物があるのか?」という疑問が検証されたことはありません。

そこで東京大学大学院農学生命科学研究科に所属する深野 祐也(ふかの ゆうや)氏ら研究チームは、調査によって「果物が追熟するかしないかの違いは、その果実を食べてもらうターゲットの違いによって生じている」という仮説を提唱しました。

研究の詳細は、9月15日付の科学誌『Biology Letters』に掲載されています。

目次

  1. 果物の追熟
  2. 「果物の追熟は野生動物への適応」なのか
  3. 仮説を支持する結果が得られる

果物の追熟

収穫後も熟成する果物としない果物があるのはなぜなのか?
(画像=バナナは追熟するが、サクランボは追熟しない / Credit:(左)Depositphotos, (右)Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

追熟型の果物は、収穫した後でも一定の期間置くことで甘さが増したり、果肉が柔らかくなったりします。

これまでの研究により、この追熟には果物の植物ホルモン(エチレン)が関係していると分かっています。

そのため追熟型の果物は、収穫した後にエチレンガスを用いた成熟時期のコントロールが可能です。

つまりあえて成熟する前に収穫し、輸送を経て、店頭に並べたときに最も熟した状態にもっていくことができるのです。

一方、非追熟型の果物は1度収穫してしまうと時間経過で甘くなることはありません。

そのため成熟してから収穫し、新鮮なうちに食べるのが良いとされています。

では、同じ果物なのに、なぜこうした違いがあるのでしょうか?

深野氏らは、それら果物を生態学的な役割の観点から仮説を立て、調査することにしました。

「果物の追熟は野生動物への適応」なのか

果物は甘い果実によって野生動物を引き寄せます。

そして果物を種ごと食べる野生動物を利用して、あらゆる場所に種を散布するのです。

このことに着目した研究チームは、「追熟型と非追熟型の違いは、種子を散布する野生動物への適応である」という仮説を立てました。

収穫後も熟成する果物としない果物があるのはなぜなのか?
(画像=追熟に関する仮説 / Credit:深野祐也(東京大学)_果物が追熟するのは何のため? ~見逃されていた生態学的意義を初めて検証~(2021)、『ナゾロジー』より引用)

そしてこの仮説を検証するために、いくつかの調査を行ったのです。

80種類の果物を対象に文献調査を行い、どんな動物が果物を食べ、種子を散布しているか調べました。

また各果物の種子サイズと果皮の色も調査しました。

どのような結果が出たでしょうか?

仮説を支持する結果が得られる

調査の結果、追熟型の果物は地上を徘徊する動物によって種子が散布されやすいことが明らかになりました。

またそれらの果物は種子が大きく、果皮が緑や茶色である傾向が高いと判明。

これは地上を徘徊する大型哺乳類が好む特徴と一致しています。

対照的に、非追熟型の果物は鳥などの樹木性の動物によって種子が散布されやすいと判明。

非追熟型の種子は小さく、果皮は赤や黒色であることが多かったようです。

そして、これらの特徴もやはり樹木性の鳥類が好むものでした。

収穫後も熟成する果物としない果物があるのはなぜなのか?
(画像=果物の種子散布者のタイプと、追熟/非追熟性の関係(上)。果物の追熟/非追熟性と、果皮の色の関係(下) / Credit:深野祐也(東京大学)_果物が追熟するのは何のため? ~見逃されていた生態学的意義を初めて検証~(2021)、『ナゾロジー』より引用)

そして研究チームは次のように推測しています。

「大きな種子をもつ追熟型の果物は、樹木から落ちて地面で成熟を進めます。

これには、大きな種子を飲み込めない鳥やコウモリが、樹木の上で果実部分だけを食べてしまう、という悲惨な結果を避けるメリットがあるかもしれません。

また、追熟型の緑や茶色の果皮には、樹木の上で隠ぺいする効果があるかもしれません」

つまり調査の結果はどれも、それぞれの果物が適切な動物に種子を散布してもらえるよう適応していたことを示しており、仮説と合致しています。

とはいえ、今回の研究では人間が食べる果物しか調査されていません。

私たちはあくまでも仮説の1つとして受け取るべきでしょう。

さて、果物の追熟は多くの人が知っている身近な現象でした。

それでもその原因や理由に焦点を当てて研究するなら、今回のように新たな発見があり、さらなる調査へとつながっていくのです。

参考文献
果物が追熟するのは何のため? ~見逃されていた生態学的意義を初めて検証~

元論文
Evolutionary ecology of climacteric and non-climacteric fruits

提供元・ナゾロジー

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