ネコのお腹にスリスリすると意外なプレゼントがもらえるかもしれません。

アメリカのカリフォルニア大学で行われた研究によれば、ネコの皮膚に棲み着いている常在菌を使って、マウスの皮膚感染症の治療に成功したとのこと。

どうやらネコの皮膚には複数の抗生物質を分泌する非常にユニークな細菌が棲んでいるようです。

研究内容の詳細は10月19日に『eLife』に掲載されています。

目次

  1. 皮膚病に対して他の動物の常在菌を傭兵として導入する
  2. 細菌ガチンコバトルの結果、ネコの細菌が最強と判明
  3. 細菌に対して細菌で応じる「細菌療法」

皮膚病に対して他の動物の常在菌を傭兵として導入する

ネコにスリスリすると皮膚病に効く細菌を獲得できるかもしれない
(画像=ネコにスリスリすると皮膚病に効く細菌を獲得できるかもしれない / Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

私たちの皮膚の上には複数の細菌が棲み着いています。

常在菌とよばれるこれらの細菌は私たちから分泌される汗や古くなった皮膚を食べることで生きています。

一方で、皮膚に害を及ぼす病原菌がやってきた場合、常在菌は自らの縄張りを守るために戦うことが知られており、結果として病原菌の駆除にも役立っています。

私たちと常在菌はギブ&テイクの関係にあると言えるでしょう。

しかし常在菌による防御は完璧ではなく、強烈な病原菌の侵入を許してしまうことがあります。

特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSP)は厄介です。

MRSPは家畜などの皮膚に多く含まれているほか、イヌやネコにもみられ、それら動物と接している人間にも感染します。重症化すると、皮膚の壊死を引き起こすこともあるそう。

さらにMRSPは多数の抗生物質に耐性を持つ「多剤耐性菌」であり一般的な抗生物質を用いた治療も困難です。

人間の常在菌は身近な病原菌に対しては「戦い方」を知っているため防御力を発揮しますが、種を超えて侵略してきた病原菌に対しては、しばしば無力です。

そこで今回、カリフォルニア大学の研究者たちは、無力な人間の常在菌の代わりに、イヌやネコの皮膚に棲む常在菌を傭兵として雇い入れる方法を考え付きました。

イヌやネコはMRSPと接する機会が多いため、彼らの皮膚に棲む常在菌ならば「戦い方」を知っているかもしれないからです。

研究者たちはさっそく、イヌやネコの常在菌を集め、MRSPとの直接対決を行わせました。

細菌ガチンコバトルの結果、ネコの細菌が最強と判明

ネコにスリスリすると皮膚病に効く細菌を獲得できるかもしれない
(画像=細菌ガチンコバトルの結果、ネコの細菌が最強と判明 / Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

皮膚の壊死を引き起こす凶悪なMRSPに対抗する細菌が存在するのか?

答えを求めて研究者たちはイヌやネコの皮膚の常在菌を全てラインナップして、代理の皮膚として機能する培地の上でMRSPと対決させました。

結果、ネコの皮膚に存在する「S. felisC4」と呼ばれる細菌が、MRSPに対して最も高い殺菌能力を持つことが判明します。

そこで研究者たちはS. felisC4の遺伝子を分析し、殺菌力の秘密を調べました。

するとS. felisC4には4つの異なる抗生物質を作るための遺伝子が含まれていると判明します。

つまりネコの皮膚に棲んでいた常在菌S. felisC4は、自然の複合抗生物質の製造工場だったのです。

S.felisC4が作り出した抗生物質たちは細胞壁を破壊し、有毒なフリーラジカルを増加させることによってMRSPを殺菌していました。

結果に自信を得た研究者たちは次に、マウスの皮膚を培地とした実験を行うことにしました。

実験に使われるマウスは哀れですが、生きている動物の皮膚においても、S. felisC4がMRSPを駆逐できるかを確かめる必要があったのです。

結果、S. felisC4やそこから得られた抽出物には、マウスの皮膚においてもMRSPを殺し、皮膚感染症の治療に決定的な役割を果たすと判明します。

また勝利を収めたS. felisC4はマウスの細胞(真核細胞)には悪影響を及ぼさないことも示されました。

ネコの皮膚からスカウトした常在菌S. felisC4は傭兵としての役割を完璧に果たしたと言えるでしょう。

細菌に対して細菌で応じる「細菌療法」

ネコにスリスリすると皮膚病に効く細菌を獲得できるかもしれない
(画像=細菌に対して細菌で応じる「細菌療法」 / Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、種を超えた感染を起こす病原菌に対しては同じ動物の常在菌が高い防衛力を持つことが示されました。

敵対的な細菌に対してカウンターとなる細菌で駆除を行う「細菌療法」は、抗生物質が陳腐化しはじめている現代医療において、今後大きな役割を果たすと考えられます。

また研究者たちはカウンターとなる細菌を直接接種する以外に、常在菌の棲処である健康なネコと一緒に暮らすだけでもMRSPに対するある程度の保護が人間に与えられる可能性があると考えているようです。

健康なネコのお腹に顔をつけてスリスリすることでネコのS. felisC4が人間に移動します。

ただ不衛生な環境で生きる野良ネコに関しては、雑多な病原菌が潜む可能性があるため、スリスリはひかえたほうがいいでしょう。

研究者たちは今後、マウスだけでなくイヌなど他の動物を使って、MRSPに対するS. felisC4の効果を確かめていくとのこと。

もしかしたら未来の世界では、ネコの常在菌治由来の療薬が、皮膚感染症の救世主になっているかもしれません。

参考文献:Cat bacteria treats mouse skin infection, may help you and your pets as well

元論文:Antimicrobials from a feline commensal bacterium inhibit skin infection by drug-resistant S. pseudintermedius

提供元・ナゾロジー

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