トカゲのしっぽ切りの言葉に代表されるように、トカゲは自らのしっぽを切ることができます。

しかし再生したしっぽの中は骨ではなく軟骨に支えられています。

米国の南カリフォルニア大学(USC)で行われた研究によれば、不完全だったトカゲのしっぽの再生を完全に行わせ、ちゃんと骨が入ったしっぽを再生させることに成功したとのこと。

研究者たちはいったいどうやって、完全な再生を行わせたのでしょうか?

研究内容の詳細は10月14日に『Nature Communication』に公開されています。

目次

  1. トカゲの「再生しっぽ」を新品のように骨をもたせる
  2. 再生しっぽを完全無欠にすることがもたらす意外な利益

トカゲの「再生しっぽ」を新品のように骨をもたせる

完全に再生されないトカゲのしっぽを骨まで完全再生させることに成功!
(画像=再生したしっぽには骨ではなく軟骨が入っている。原因は背腹の区別がなくなったから / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

意外かもしれませんが、切れたトカゲのしっぽ再生は完璧には行われません。

実は、新たに再生されたしっぽは元々のしっぽのように骨ではなく軟骨で支えられているのです。

また再生したしっぽの色も以前とは違っているため、トカゲのしっぽが新品か再生品かを容易に判断することができます。

このような不完全な再生が行われる背景にあるのは、背腹を決める方向の喪失だと言われています。

切れる前のしっぽは背中側に骨があり腹側には軟骨があるという、明確に背腹で異なる構造をしています。

しかし再生したしっぽは背中側も腹側も、腹側の構造で作られるため、内部に骨はなく軟骨管だけが存在しています。

無理矢理ハンバーガーで例えるならば、上のパンも下のパンも、下のパンになってしまっている……という状態です。

完全に再生されないトカゲのしっぽを骨まで完全再生させることに成功!
(画像=再生されたしっぽは腹と背の区別がなくなってしまう。無理やりハンバーガーに例えると再生されたしっぽはどっちも下のパンみたいな状態。 / Credit:canva,ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

原因は、再生時に重要な役割をする神経幹細胞(NCS)です。

トカゲのしっぽが再生するときには「再生芽」が構成されるのですが、芽に含まれる神経幹細胞(NCS)は骨と神経の形成をブロックする一方で、軟骨の成長を促進させるという不思議な性質があるのです。

結果として、新たに再生するしっぽは背側も腹側も、腹側として作られ、結果として内部は骨ではなく軟骨が形成されます

ならばと研究者たちは、成長中の胚からとってきた神経幹細胞(NCS)を再生芽に加えてみました。

胚には成長して新品のしっぽを作る能力があると考えたからです。

しかし残念なことに結果を覆すことはできませんでした。

しっぽの断面にある再生芽はどういうわけか強烈な腹側信号を発しており、胚からとってきた神経幹細胞(NCS)も信号に押され、結果的に背側も腹側も、腹側の構造になってしまいました。

そこで今回、南カリフォルニア大学の研究者たちは、神経幹細胞(NCS)の遺伝子を操作して、腹側になるための信号に反応しないように書き換え、改めて尻尾の断面に移植しました。

すると驚くべきことに、新たに再生したしっぽは新品と同様に、ちゃんとした背腹の区別があり、背中側が骨からなる構造を持てるようになっていました

幹細胞を用いてトカゲのしっぽの完全な再生が成し遂げたのは、今回の研究がはじめてになります。

再生しっぽを完全無欠にすることがもたらす意外な利益

完全に再生されないトカゲのしっぽを骨まで完全再生させることに成功!
(画像=再生しっぽを完全無欠にすることがもたらす意外な利益 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、本来は不完全だったトカゲのしっぽの再生を、完全に行える方法が示されました。

再生したトカゲのしっぽには背側が存在せず、腹側が上下に2つ重なったような構造をとっていますが、再生芽に腹側化の信号に反応しない神経幹細胞(NCS)を加えることで、新品のしっぽと同じ、背と腹があるしっぽを再生可能になったのです。

不完全な再生をしていた背景には、新品と同じく複雑な構造をしたしっぽを生やすのは、コストがかかり過ぎていたからだと考えられます。

背腹が同じ構造で作られている再生しっぽは、構造も単純で骨を軟骨で代用できるので、コストを節約可能です。

そのため完璧なしっぽを再生していたトカゲの先祖も、ある時点を境にローコストの再生しっぽを採用するようになったのかもしれません。

また今回の研究成果は再生医療にも役立つと考えられます。

遺伝子操作された幹細胞を切断面に加えるという発想は、失われた人間の手足を再生させるにあたり、大きなヒントになる可能性があるからです。

参考文献
Aided by stem cells, a lizard regenerates a perfect tail for the first time in 250 million years

元論文
Introducing dorsoventral patterning in adult regenerating lizard tails with gene-edited embryonic neural stem cells

提供元・ナゾロジー

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