一般に「親知らず」として知られる歯は、男女ともに17〜21歳の青年期に生えてきます。

他の歯がだいたい12歳頃までに生え揃う中で、これはかなり遅いと言えるでしょう。

なぜ親知らずだけ遅い時期に生えるのか、人類の進化における大きな謎となっています。

しかしこのほど、アリゾナ大学(University of Arizona・米)の最新研究により、有力な説が浮上しました。

それによると、10代前半には、親知らずを機能させるための筋肉や骨が未発達であることが関係していたようです。

研究は、10月6日付けで学術誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  1. 先史時代から「親知らず」の生える時期は遅かった
  2. 親知らずを支える「骨と筋肉の発達」に時間がかかっていた

先史時代から「親知らず」の生える時期は遅かった

私たちヒトは12歳前後までに、子どもの歯である乳歯から、大人の歯である永久歯に生え変わります。

この永久歯の中で、上下左右の奥に3本ずつある歯を「大臼歯(だいきゅうし)」と呼びます。

その一番奥に位置するのが第三大臼歯、いわゆる「親知らず」です。

親知らずは、10代後半〜20代前半の遅い時期に生えるため、「親に知られずに生えてくる歯」という意味合いから、日本では「親知らず」と呼ばれるようになりました。

上下左右の奥に1本ずつで計4本ありますが、人によっては親知らずが生えてこなかったり、1本だけ生えてくるなど、個人差があります。

親知らずが生えてくる時の壮絶な痛みに涙した人も多いでしょう。

「親知らず」が10代後半にならないと生えてこない理由とは?
(画像=ヒトの歯の全体図、第三大臼歯が「親知らず」 / Credit: Straumann PARTNERS、『ナゾロジー』より引用)

また、親知らずはあるけど生えてこない(埋伏・まいふく)ことや、歯茎の中で形成されない(先天性欠損)こともよくあります。

こうした親知らずの特徴は、今に始まったことではありません。

埋伏や欠損は、太古の原始人や弥生時代の頭蓋骨でも普通に見られます。

親知らずにまつわる特徴は古くから存在し、人類の進化の中で形成されたものなのです。

それでは、なぜ親知らずだけが遅い時期に生えるのでしょうか。

親知らずを支える「骨と筋肉の発達」に時間がかかっていた

同大・人類起源研究所(Institute of Human Origins)のチームは、ヒトやチンパンジーを含む21種類の頭蓋骨を対象に、骨と歯の発達過程を比較しました。

すべての頭蓋骨を3Dモデル化した結果、親知らずの生えてくるタイミングは、成長段階にある骨と筋肉の生体力学的なバランスに関係していることが示されています。

まず、ヒトの大臼歯が生えてくる時期は、第一大臼歯が6〜7歳、第二大臼歯が11〜12歳、親知らずが17〜21歳です。

一方で、ほかの霊長類はもっと早く、チンパンジーでは、3歳、6歳、12歳で大臼歯が生えそろっていました。

キイロヒヒでは7歳までに、アカゲザルでは6歳までにすべての永久歯が生えそろいます。

「親知らず」が10代後半にならないと生えてこない理由とは?
(画像=マカク(オナガザル科)の頭蓋骨 / Credit: HALSZKA GLOWACKA et al., cience Advances(2021)、『ナゾロジー』より引用)

これらのタイミングを制限する要因の1つは、スペース(空間)です。

ヒトは、ほかの霊長類に比べて、口内のスペースが狭く、親知らずを生やすスペースが限られています。

歯が生えるスペースが空いているからといって、そこに歯を詰め込むのは必ずしも良いことではありません。

このスペースの狭さのために、ヒトでは親知らずの埋伏や欠損が起きやすくなっていました。

また、重要な点として、歯はただ生えるだけでは機能せず、その周囲の骨や筋肉に支えられることで、安全かつ便利な道具として使えるようになります。

これこそが親知らずの成長が遅れる原因となっていました。

「親知らず」が10代後半にならないと生えてこない理由とは?
(画像=ヒトでは「親知らず」を支えるための骨と筋肉の発達に時間がかかる / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

霊長類の親知らずは、左右2つの顎関節(がくかんせつ)のすぐ手前に位置します。

顎関節は、顎と頭蓋骨の間のヒンジ(蝶番)を形成し、これを動かすには互いに完全に同期していなければなりません。

また、物を噛み砕くには、1つまたは複数の点にかなりの力を伝達する必要があります。

ここが未発達の状態で余計な歯を生やしてしまうと、咀嚼(そしゃく)のための顎関節の働きに支障をきたします。

そして、チンパンジーやヒヒのように顎の奥行きの長い種では、親知らずを支えるための骨や筋肉の発達がヒトよりずっと早かったのです。

しかし、ヒトのように顎の奥行きが短いと、親知らずにかかる負荷が、成長中の顎骨や筋肉にダメージを与えない程度に発達するまでの期間が非常に長くなっていました。

その発達完了の時期が、17〜21歳頃というわけです。

研究主任のゲイリー・シュワルツ氏は、こう述べています。

「ヒトの顎は非常にゆっくり成長することがわかっています。

これは、私たちの生活史が全体的にゆっくりしていることと、顔の奥行きが短いことが相まっています。

そのため、親知らずに必要なスペースの確保、負荷に耐えられる骨と筋肉の発達に時間がかかっているのです」

本研究の成果は、親知らずの状態を診断するための新たな方法を提供するだけでなく、ヒト科の祖先におけるユニークな顎の進化史をひもとくのに役立つと考えられています。

参考文献
Scientists Finally Know Why Wisdom Teeth Only Emerge When We’re Basically Adults

元論文
A biomechanical perspective on molar emergence and primate life history

提供元・ナゾロジー

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