私たちの8人に1人は、子宮の中では双子でした。
しかし私たちはある時点で、兄弟姉妹になるはずだった存在を吸収してしまいます。
結果、一卵性の双子として生まれてくるのは250人に1人まで減ってしまいます。
オランダのアムステルダム自由大学の研究によれば、自分が幻の兄弟姉妹を持っていたか確かめる方法がみつかったとのこと。
たとえわずかな期間でも、一卵性双生児だった人間のDNAには、特徴的な痕跡が残っていることが明らかになったからです。
研究内容の詳細は9月28日に『Nature Communication』に掲載されています。
一卵性双生児が出現するメカニズムは謎に包まれていた

人間の一卵性双子は謎が多い存在です。
通常、1つの受精卵は分裂を繰り返しながら1つの胚となり、1人の赤ちゃんになります。
8人に1人は、1つの受精卵が分裂時に2つの胚となり、250人に1人の割合で、2人の赤ちゃんとして生まれてきます。
8人に1人が一卵性双生児とならないのは、ほとんどの場合において、一方の胚が子宮を介して吸収されてしまうからです。
(※まれに子宮に吸収される時期が遅れて、一方が不完全に成長した状態(数センチほど)で死産する場合もあります)
しかし現在に至るまで、一卵性双生児が発生する詳細なメカニズムは不明でした。
一卵性双生児の人々のDNAの配列情報を他の人々と比べても、特に大きな差はなかったのです。
さらに夫も妻も一卵性双生児としてうまれた場合でも、子供が一卵性双子になる確率は非常に低いのです(例外的に双子の生まれやすい家系は存在する)。
この事実は、一般的な一卵性双生児の出現が「DNAの配列情報」に依存しない現象であることを示します。
しかし双子の誕生という極めて生物学的な現象に、DNAが全くかかわっていないとは考えられません。
そこで今回、アムステルダム自由大学の研究者たちは6000人の一卵性双生児のDNA情報を、塩基配列ではなく、DNAにつけられた飾り(メチル化)の位置をもとに分析しました。
この飾りは一種の化学修飾であり、付着した部分の遺伝子機能を「オフ」にする機能があります。
そのため、DNAの配列情報に依存せずに、遺伝子の働き方を変えることが可能になります。
研究者たちが、このDNAにつけられた飾りを調べると、非常に興味深い結果が明らかになりました。

一卵性双生児の人々は834個の遺伝子において、他の人々と異なる特徴的な飾りつけパターンがされていたのです。
研究者たちはこの飾りつけパターンを元に、ランダムに選ばれた人間が一卵性双生児であるかを判断できるようになりました。
また834個の遺伝子を調べると、細胞同士の接着にかかわるものが多く含まれていることが明らかになりました。
一卵性双生児は、くっついているはずであった2つに分裂した細胞がバラバラになることによって発生することが知られているため、研究者たちは細胞接着にかかわる遺伝子の飾りつけ(機能オフ)が2つの胚の出現と関連していると考えました。
自分が8人に1人の隠れ双子かも簡単なテストでわかる

今回の研究により、一卵性双生児にはDNAの飾りつけのパターンが、他の人々とは異なる特徴的なものであることが示されました。
研究者たちはこの飾りつけパターンを調べることで、ある人物が8人に1人の割合で存在する隠れ双子であったかを80%ほどの精度で区別できるようになると考えています。
ただ、一卵性双生児に特有の飾りつけパターンが、2つの胚を作るキッカケになったのか、2つの胚に分裂した影響で形成されたのかまではわかりませんでした。
研究者たちは今後、特定された834個の遺伝子の働きの詳細を調べ、一卵性双生児の発生のメカニズムを解き明かしていくとのこと。
もし一卵性双生児が形成されるメカニズムが完全に解明されれば、メカニズムに干渉する薬を使うことで、意図的に一卵性双生児を出産できるようになるかもしれません。
参考文献
ONE OF HUMAN BIOLOGY’S BIGGEST MYSTERIES JUST HAD ITS BREAKTHROUGH MOMENT
All identical twins may share a common set of chemical markers on their DNA
元論文
Identical twins carry a persistent epigenetic signature of early genome programming
提供元・ナゾロジー
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