私たちの体は1日周期で、体温やホルモン分泌など体内環境を変化させています。
これは「体内時計」また「概日時計」と呼ばれる機構が作り出していますが、どうやって1日という長い周期を体が正確に調整できるのか、まだよくわかっていません。
1月19日に科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』に発表された新しい研究は、そんな1日周期の決定に関わる重要な分子機構を明らかにし、体内時計を局所的に操作することにも成功したと報告しています。
この研究は、睡眠障害など体内時計の機能が乱れることで起きる疾患の治療に役立つ可能性があります。
生物の1日を決めるもの

朝起きて、夜眠るというように生物の生活は1日を基本に動いています。
体内もこのリズムに合わせて1日周期で体温をはじめ、体の機能を調節しています。
この1日のリズムは、光や温度変化のない環境でも機能していることがわかっており、生物の体内には何らかの時計に類似する機能があるようです。
このことから、1日のリズムを刻むメカニズムは「体内時計」と呼ばれています。
哺乳類の場合、視床下部の辺りに体内時計細胞があり、目から入った光が伝達されることで時間を調節します。
ヒトの体内時計の周期は、24時間より若干長いと言われています。そして人間の体内時計は、朝の強い光を浴びると早められ、夜の弱い光が遅らせる方向に働きます。
この作用によって、人間は季節による日の変化や、地域による時差に体内時計を対応させているのです。

では、この体内時計はどのように24時間周期を生み出しているのでしょうか?
最近の分子生物学の研究によると、体内時計細胞の中には時計遺伝子というものがあり、これが合成する時計タンパク質が関係していると言われています。
時計タンパク質は、何らかの化合物や光の作用によって、結合や分解を行っており、これが時間のリズム信号を生んでいるのです。
しかし、1日というのはかなり長い周期であり、これを安定して刻む具体的な仕組みは謎に包まれていました。
今回の研究チームは、ヒトの培養細胞を用いた大規模な解析により、この1日周期を生み出す謎の多い化学的メカニズムを明らかにしたのです。
1日のリズム周期を操作する
研究チームは、この大規模な解析の結果、1日の周期を延長させている新しい化合物を特定しました。
この化合物は、化学式は同じでも3次元的な構造の異なる、シス体とトランス体という2つの形状を持っています。
これは光に反応して構造を変化させることができ、紫外光を当てるとシス体に、白色光を当てるとトランス体に変化しました。
そして、シス体は安定性が1日以上と非常にに高く、時計タンパク質と相互作用するのですが、トランス体では時計タンパク質と相互作用しなかったのです。

研究チームはこの化合物に予め紫外光を照射して、ヒトの培養細胞に投与してみました。
すると、光を当てなかった場合に比べて1日のリズム周期が延長される事がわかりました。そして、ここに白色光を当てると周期延長の効果が消失したのです。
つまり、照射する光の種類によって、チームは概日リズム周期を可逆的に操作することに成功したのです。
これまでよくわかっていなかった、強い光を浴びることで起きる生物の体内時計を調節するメカニズムの一端が、ここから明らかになりました。
この成果は、今後、体内時計の機能が乱れたことで睡眠障害を起こしている人の治療などに役立つ可能性があります。
また時計タンパク質は、メタボリックシンドロームやがんといった疾患とも関連していることが指摘されています。この研究はこれらの疾患治療に対しても有効な解決策を提示できるようになるかもしれません。

現代は、人工の光が溢れ、遊ぶコンテンツも多いせいで、体内時計が狂いまくってるという人も多いでしょう。
もしかしたら、そういう状態も速やかに解消できる方法が近い将来生み出されるかもしれませんね。
参考文献
Photopharmacological Manipulation of Mammalian CRY1 for Regulation of the Circadian Clock pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/jacs.0c12280
提供元・ナゾロジー
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