腎臓は血液をろ過する役割のある重要な臓器で、もし機能しなくなった場合、人工透析を数日起きに受けなければなりません。
これは非常に患者にとって負担となる医療行為です。
そのため、腎臓病患者を透析装置や移植待機から開放するため、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)は人工腎臓を研究する大規模プロジェクト「The Kidney Project」というものを進めています。
そして、このプロジェクトがスマートフォンサイズの人工腎臓の試作品を完成させ、前臨床試験(ヒトを対象とした試験に入る前の安全性確認試験)に成功しました。
この研究チームは、米国保健福祉省(HHS)と米国腎臓学会(ASN)により設立された腎臓病治療の革新を加速させるための官民パートナーシップ『KidneyX』において、優れた成果として「フェーズ1人工腎臓賞(Phase 1 Artificial Kidney Prize)」を受賞しています。
血液をろ過する腎臓

腎臓は体の腰より少し上の位置に背骨を挟んで左右に1つずつついています。
2つあるためよく借金のカタに取られる臓器としてネタにされますが、人体において果たすその役割は非常に重要です。
腎臓は血液中にある毒素や老廃物をろ過し、きれいになった血液を体へ戻して、不要なものは尿として体外へ排出させます。
いわゆる浄水場のような臓器です。
そのため、腎臓が機能しなくなると体内の血液は汚れたまま浄化されなくなってしまいます。
医学的には、腎臓の機能が正常時の30%以下に低下した状態を腎不全といいます。
そして、慢性腎不全に陥った場合、機能の回復は不可能となります。
この症状が進行した場合、放置すれば死に至るため、腎臓病患者は血液透析によって、人工的に血液の浄化をする必要が出てきます。
しかし、この治療は非常に患者に負担がかかります。
人工透析は、週に2~3回行う必要があり、1回の血液透析には5時間ほどの時間がかかります。

また侵襲的な治療であるため、患者にはかなり不快感があるとされ、潜在的なリスクも伴います。
腎臓病患者は、こうした治療を生きている限り一生続けなければならないのです。
これはかなり人生の質に影響する問題です。
臓器移植という解決方法もありますが、移植臓器は患者数に対してまるで足りておらず、また移植した場合も免疫抑制剤や抗凝血剤といった薬を使用する必要があり、患者にはリスクが伴います。
そこで、こうした問題を解決させるために血液のろ過ができる人工腎臓の開発が研究されているのです。
そして今回、免疫抑制や抗凝血剤などの薬を使用する必要のなく患者に移植して本物同様に機能させることができるプロトタイプの実証に成功した研究チームが登場しました。
本物同様に機能するプロトタイプ人工腎臓

今回の報告をしているのはカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームです。
チームは数年前から、血液中の毒素や老廃物を除去する「ヘモフィルター(hemofilter)」と、血液中の電解質のバランスを調整する「バイオリアクター」という仕組みを、それぞれ別々の実験で成功させていました。
これらは実際に腎臓が持つ機能を再現したものです。
そして、この2つのユニットを組み合わせ小型化して、今回の人工腎臓を作り上げたのです。
この2つのユニットは連動していて、血圧のみで動作します。

研究者の説明では、移植臓器と同様に機能しながら、移植で必要となる免疫抑制や抗凝血などの薬を使う必要がなく、腎臓病患者の生活の質を改善させる革新的治療だといいます。
ただ、現在はまだ前臨床試験の一部をパスした状況で、この方法で実現の可能性が示されたに過ぎません。
研究者は今後、この技術をスケールアップさせ、より厳密な前臨床試験と、最終的な臨床試験へとつなげて行きたいと語っています。
まだこれからとは言え、腎臓病治療につながる研究プロジェクトは、大きく前進しているようです。
参考文献
The Kidney Project successfully tests a prototype bioartificial kidney
提供元・ナゾロジー
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