線虫の「がん検出能力」は人類科学を上回っているようです。

8月17日に日本の大阪大学の研究者たちにより『Oncitarget』に掲載された論文によれば、線虫には極めて早期のすい臓がん患者の、尿の匂いを嗅ぎ分ける力があるとのこと。

検査に必要な要素は「1滴の尿」と飼育の容易な線虫のみであるため、多くの人々に安価な判断材料を提供することが可能です。

がん患者の尿のどんな物質が、線虫を引き付けているのでしょうか?

目次

  1. 線虫は犬より嗅覚が敏感
  2. 線虫が好むがん細胞由来の物質

線虫は犬より嗅覚が敏感

線虫の鋭い嗅覚が尿の「匂い」からすい臓がんを早期発見する可能性が示される
(画像=線虫は犬より多くの嗅覚を認識できる / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

一般にはあまり知られていいませんが、多細胞生物の中で、全ゲノム解読が最初になされたのは人間ではなく線虫(C. elegans)でした。

線虫は実験動物として古くから研究対象になっており、体の構造の単純さもあって、マウスやショウジョウバエといったメジャーな実験動物を抑えて、地球上で最も解明が進んだ生物となっています。

また線虫の大きな特徴の1つとして、嗅覚に対する異常な敏感さが知られています。

線虫の細胞数は僅か1031個しか存在しないにもかかわらず、臭いを感じ取る嗅覚受容体は1200種類も存在します。

これは人間の400種類や、臭いに敏感とされている犬の800種類に比べても遥かに大きな値です。

そこで九州大学の研究者だった広津崇亮氏は2015年、線虫の嗅覚を、がん検出に使えると考え、がん患者の尿に対する線虫の反応を調べました。

すると興味深いことに、線虫は健康な人の尿を嫌がって遠ざかる一方で、がん患者の尿には積極的に近づくことが判明します。

また尿と線虫の距離をもとに、がんの検出率を測定したところ「97%」という圧倒的な数値に及ぶことも明らかにされました。

さらに、その後に行われた幅広いがんに対する臨床研究においても、86.3%という検出感度が示されました。

ただ「極めて早期の膵管腺癌(すい臓がん)」に対しては、検証が限られていました。

すい臓にできるがんは自覚症状がほとんどなく、気付いたときには進行が進んでしまっているケースが多くを占めていました。

そのため早期の膵管腺癌と判断された患者は、非常に希少な存在であり、検証の弱点となっていたのです。

そこで今回、大阪大学の研究者たちは日本全国の大規模な病院や研究所からなる巨大な臨床グループを組織し、早期の膵管腺癌の確保し、線虫を用いた尿検査を実施しました。

結果、線虫は非常に早期の膵管腺癌患者の尿にも反応し、近づいていくことが判明

そして本研究は、早期のすい臓がんに対して線虫の性能を裏付けた、世界初の研究となりました。

線虫が好むがん細胞由来の物質

線虫の鋭い嗅覚が尿の「匂い」からすい臓がんを早期発見する可能性が示される
(画像=線虫が好むがん細胞由来の物質 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究により、線虫が早期のすい臓がんも検出可能であることが示されました。

線虫を用いたがんの検査精度は、標準的な腫瘍マーカー(血液検査)よりも遥かに優れており、今後のがん検査において大きな役割を果たしていくと考えられます。

また線虫が、がん細胞が発するどんな物質を好んでいるかを調べることができれば、新しいがんのマーカーをみつけることにもつながります

最新の研究では初期の膵管腺癌患者の尿には揮発性有機化合物(VOC)の構成濃度やアセトン、2-パンタノン、4-メチル-2-ヘプタノン、D-リモネン、レボメントールの濃度が変化していることが示されています。

また一部の犬は人間から吐き出される空気から、がん患者を特定できることも示されており、こちらでも揮発性(空気に蒸発する)の化合物が、がんのマーカーになりえることを示しています。

線虫を用いた実験でも、線虫は尿に含まれる揮発性有機化合物の比率変化を感知して、近寄ったり遠ざかったりする可能性が示されました。

ただ現在の技術では、複雑に絡み合った化合物と嗅覚反応の特定には長い時間がかかると予想されており、いましばらくは、線虫の助けを借りる必要があるようです。

参考文献
尿の「匂い」による膵がんの早期診断へ期待

元論文
Scent test using Caenorhabditis elegans to screen for early-stage pancreatic cancer

提供元・ナゾロジー

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