「フィボナッチ数列」をご存知ですか?
さまざまな本やサイトで紹介されているため、理系でなくとも「聞いたことがある!」という人が多いのではないでしょうか。
古くから知られているシンプルな数列で、面白い性質をたくさん持っています。今回は、そんな「フィボナッチ数列」について紹介していきます。
うさぎのつがいの問題

1202年の著作『計算の書』には、「ウサギのつがいの問題」と呼ばれている有名な問題が掲載されています。実は、この本の著者であるレオナルド・ピサノは、現在では「フィボナッチ」の名で知られている数学者です。
まずは、この問題を解き明かし、「フィボナッチ数列」にせまっていきましょう!
「ウサギのつがいの問題」とは、以下のような問題です。
<問題> 1つがいのウサギは産まれて2ヶ月後から、毎月1つがいのウサギを産むとします。今、産まれたばかりの1つがいのウサギがいます。12ヶ月後には、ウサギは合計何つがいになっているでしょうか?
それでは0ヶ月後~4ヶ月後について、一つずつ具体的に考えてみましょう。
0ヶ月後には、最初に存在する1つがいのウサギしかいません。そのため、合計1つがいです。
1ヶ月後には、最初に存在する1つがいのウサギが生後1ヶ月となります。まだ、子どもを産まないので、合計1つがいです。
2ヶ月後には、最初に存在する1つがいのウサギが生後2ヶ月となり、子どもを1つがい産みます。したがって、2ヶ月後にいるウサギのつがいは、
「最初に存在するつがい」+「2ヶ月後、最初に存在するつがいから産まれたつがい」
の合計2つがいです。
3ヶ月後には、最初に存在する1つがいのウサギが生後3ヶ月となり、子どもを1つがい産みます。
また、2ヶ月後に産まれた1つがいのウサギは、生後1ヶ月となりますが、まだ子どもを産みません。
したがって、3ヶ月後にいるウサギのつがいは、
「最初に存在するつがい」+「2ヶ月後、最初に存在するつがいから産まれたつがい」+「3ヶ月後、最初に存在するつがいから産まれたつがい」
の合計3つがいです。
4ヶ月後には、最初に存在する1つがいのウサギが生後4ヶ月となり、子どもを1つがい産みます。
また、2ヶ月後に産まれた1つがいのウサギも、生後2ヶ月となり、子どもを1つがい産みます。
一方、3ヶ月後に産まれた1つがいのウサギは、生後1ヶ月となりますが、まだ子どもを産みません。
したがって、4ヶ月後にいるウサギのつがいは、
「最初に存在するつがい」+「2ヶ月後、最初に存在するつがいから産まれたつがい」+「3ヶ月後、最初に存在するつがいから産まれたつがい」+「4ヶ月後、最初に存在するつがいから産まれたつがい」+「『2ヶ月後、最初に存在するつがいから産まれたつがい』から産まれたつがい」
の合計5つがいです。
このまま続けていくと、ゴチャゴチャしてしまいそうですね……。
整理するために、「つがいの数」の表をつくってみましょう!

この表のポイントは
①前の月の「産まれたばかりのつがいの数」は、次の月の「生後1ヶ月のつがいの数」となる。
②前の月の「生後1ヶ月のつがいの数」と「生後2ヶ月以降のつがいの数」を足すと、次の月の「生後2ヶ月以降のつがいの数」となる。
③何ヶ月後においても、「産まれたばかりのつがいの数」と「生後2ヶ月以降のつがいの数」は同じになる(生後2ヶ月以降の各つがいから、子どもが1つがいずつ産まれるので)。
です。
これらのポイントをもとに、5ヶ月後がどうなるか考えてみましょう。
①より、4ヶ月後の「産まれたばかりのつがいの数」は2つがいなので、5ヶ月後の「生後1ヶ月のつがいの数」は2つがいとなります。
②より、4ヶ月後の「生後1ヶ月のつがいの数」は1つがい、「生後2ヶ月以降のつがいの数」は2つがいなので、これらを足すと3つがいです。よって、5ヶ月後の「生後2ヶ月以降のつがいの数」は3つがいとなります。
③より、「産まれたばかりのつがいの数」と「生後2ヶ月以降のつがいの数」は同じなので、5ヶ月後の「産まれたばかりのつがいの数」は、3つがいとなります。
以上を合計すると、2+3+3つがい、つまり、5ヶ月後は合計8つがいとなるのです。
したがって

となります。
これを12ヶ月後まで続けていくと、答えが出ますね!
ウサギのつがいの合計を計算してみると……

うさぎのつがいの問題の12ヶ月後までを表にすると、以下のようになります。

したがって、問題の答えは233つがいとなります。最初は1つがいしかいなかったのに、1年でずいぶん増えましたね!
では次に、合計の部分を抜き出してみましょう。
すると
1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,233
となります。
ある規則性が隠れていることに気づきましたか?
1+1=2、1+2=3、2+3=5、3+5=8、5+8=13、8+13=21、13+21=34…というように、連続する2つの項を足すことで、次々に数が求まっていくのです。
なぜ、このような規則性が現れるのでしょうか?
nヶ月後、(n+1)ヶ月後、(n+2)ヶ月後に注目しながら、調べてみましょう。
まず、(n+2)ヶ月後に産まれるつがいの数を考えてみます。
先ほどの③より
「(n+2)ヶ月後の産まれたばかりのつがいの数」=「(n+2)ヶ月後の生後2ヶ月以降のつがいの数」
となります。
また、nヶ月後に存在するつがいたちは、(n+2)ヶ月後には生後2ヶ月以降となることから
「nヶ月後のつがいの合計」=「(n+2)ヶ月後の生後2ヶ月以降のつがいの数」
となります。
以上より
「(n+2)ヶ月後の産まれたばかりのつがいの数」=「nヶ月後のつがいの合計」 …(a)
であることがわかります。
次に、(n+2)ヶ月後に生後1ヶ月以降となっているつがいの数を考えてみましょう。
(n+1)ヶ月後に存在するつがいたちは、(n+2)ヶ月後には生後1ヶ月以降となることから
「(n+2)ヶ月後の生後1ヶ月以降のつがいの数」=「(n+1)ヶ月後のつがいの合計」 …(b)
であることがわかります。
したがって
「(n+2)ヶ月後のつがいの合計」=「(n+2)ヶ月後の産まれたばかりのつがいの数」+「(n+2)ヶ月後の生後1ヶ月以降のつがいの数」
であることから、(a)(b)より
「(n+2)ヶ月後のつがいの合計」=「nヶ月後のつがいの合計」+「(n+1)ヶ月後のつがいの合計」
となるのです。
フィボナッチ数列と黄金比

先ほどまで考察していた「各月のウサギのつがいの合計」を並べると
1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,233,377,610,…
という、連続する2つの項を足すことで、次々と数が求まっていく数列が現れます。
これこそが「フィボナッチ数列」です。
とてもシンプルな数列ではありますが、たくさんの面白い性質が隠されています。その一つを見ていきましょう。
フィボナッチ数列の前後の項の比を計算してみます。すると……

となります。どうやら、1.618くらいの数に近付いているようですね。
実は、フィボナッチ数列の前後の項の比は

に、限りなく近付いていくことが知られています。
このφ(ファイ)は「黄金比」と呼ばれている値です。黄金比は、古代の芸術品などから見出すことができると言われています。
フィボナッチ数列が黄金比と関係している要因は、その一般項(第n項をnの式で表したもの)を見てみるとわかります。
フィボナッチ数列の一般項は

で表され、式の中に黄金比が含まれているのです。

一般項の求め方は、ここでは割愛しますが、興味がある方はぜひ調べてみてくださいね。
今回紹介した黄金比との関連以外にも、フィボナッチ数列には面白い性質がたくさんあります。
たとえば、フィボナッチ数列は、ひまわりの種の螺旋の本数などにも関わっていると言われており、自然界との関連性がよく話題にあがっています。
ほかにも、パスカルの三角形との関係や、類似の数列(トリボナッチ数列やリュカ数列など)も、とても興味深いテーマです。
ぜひ、計算してみたり、調べてみたりしながら、フィボナッチ数列の深みを楽しんでみてくださいね!
<補足>
本記事の一般項では、第1項を1、第2項を1、第3項を2、第4項を3、第5項を5…としているため、うさぎのつがいの問題の「nヶ月後」とはズレが生じています。0ヶ月後が1つがい、1ヶ月後が1つがい、2ヶ月後が2つがい、3ヶ月後が3つがい、4ヶ月後が5つがい…となるので、1つスライドする形になっています。
参考文献
中村 滋・室井 和男著「数学史―数学5000年の歩み―
高校数学の美しい物語「フィボナッチ数列の一般項と数学的帰納法」
新潟工科大学「2フィボナッチ数列」
提供元・ナゾロジー
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