近年、NHKの受信料制度に関する議論が盛んになりつつある。受信料の徴収方法や適正価格だけでなく、「支払拒否」に関しても話題になっているようだ。この記事では今後の受信料のほか、都道府県支払率ランキングを紹介する。

NHKの役目は?受信料は何に使われる?

公共放送であるNHKは「いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を分け隔てなく伝える」ことを基本的な目的としており、「特定の勢力や団体の意向に左右されず、また視聴率にとらわれない番組作りを進めている」としている。

そのため、受信設備を有するすべての人に公平に受信料を負担してもらい、財政面の自主性を担保している。2020年度の事業収入7,121億円のうち、受信料は6,895億円。受信料収入は、NHKの収入の約97%を占めている。

支出は、大きい順に国内放送費3,111億円、給与1,094億円、減価償却費864億円、契約収納費575億円と続く。国内放送費は番組制作や設備の保守などに使用され、番組関係が2,409億円、技術関係が701億円だ。

番組制作費をさらに細かく見ていくと、多い順に「ニュース」972億円(構成比30%)、「ライフ・教養」884億円(同27.3%)、「スポーツ」497億円(同15.3%)、「ドラマ」320億円(同9.9%)、「エンターテインメント・音楽」257億円(同7.9%)となっている。

契約収納費は、受信契約の取り次ぎや受信料の収納などに関わる費用で、内訳は地域スタッフの手数料や給付金57億円、法人委託手数料213億円、契約収納促進費等303億円となっている。

都道府県の受信料支払率ランキング

以下の表は、NHKが公表している「2020年度末 受信料の推計世帯支払率(全国・都道府県別)」を参照し、各都道府県の推計世帯支払率をランキング化したものだ。

推計世帯支払率は受信契約の対象世帯のうち、実際に受信料を支払っている世帯数の割合を示す。なお、全国の推計世帯支払率は80.3%だ。

<受信料の推定支払率ランキング>

順位 都道府県名 推計支払率
1位 秋田 97.4%
2位 新潟 97.0%
3位 山形 94.5%
4位 島根 94.4%
5位 青森 93.8%
6位 岩手 93.3%
7位 富山 93.1%
8位 鳥取 92.9%
9位 岐阜 92.2%
10位 福井 91.3%
11位 福島 90.3%
11位 山口 90.3%
13位 静岡 88.8%
14位 三重 88.4%
15位 石川 88.3%
15位 和歌山 88.3%
17位 山梨 88.0%
17位 長野 88.0%
17位 広島 88.0%
20位 茨城 87.9%
21位 栃木 87.2%
22位 佐賀 87.1%
23位 鹿児島 86.7%
24位 岡山 86.5%
24位 愛媛 86.4%
26位 群馬 86.1%
27位 香川 85.5%
27位 長崎 85.5%
29位 愛知 85.2%
30位 高知 84.4%
31位 宮崎 83.8%
32位 徳島 83.6%
33位 宮城 83.1%
33位 滋賀 83.1%
35位 奈良 82.7%
36位 熊本 82.5%
37位 大分 82.4%
38位 埼玉 81.4%
39位 千葉 80.8%
40位 神奈川 80.0%
41位 京都 78.0%
41位 兵庫 78.0%
43位 福岡 76.3%
44位 北海道 72.4%
45位 東京 67.7%
46位 大阪 66.8%
47位 沖縄 49.8%

東北や日本海側の都道府県がランキングの上位を占めていることがわかる。東京や大阪のように、世帯数が多い上に転居も多い大都市を抱える都道府県は低いようだ。

長らく米軍軍政下に置かれていた沖縄では、NHKよりも民放の設立のほうが早かったため、「テレビは無料」という感覚を引きずる県民がいまだに多いのだろう。

NHK受信料の支払率の推移は?

世帯支払率の推移を見ると、NHKが初めて集計した2011年度末は72.5%で、その後徐々に上昇し、2019年度末には81.8%まで伸びている。

2020年度末は80.3%、前年比1.5ポイント減となった。全都道府県で0.1~2.1ポイント減っている。NHKはその要因として、新型コロナウイルスの影響により訪問活動の停滞を余儀なくされたことを挙げている。

昨今のNHK受信料をめぐる動き

放送法第64条第1項に「NHKの放送を受信できる受信設備を設置した者は、NHKと受信契約をしなければならない」と定められている。一方で支払い義務については、日本放送協会放送受信規約第5条に「放送受信契約者は放送受信料を支払わなければならない」という内容が記載されているだけだ。

受信設備を有する人は契約義務を負っているものの、法的に支払い義務はないというのが実情だ。「では、支払わなくてもよいのか?」と思うかもしれないが、そう単純ではない。NHKは受信料徴収強化の一環として民事訴訟に踏み切る動きを進めており、最高裁では「受信料の支払い義務を伴う受信契約の締結強制も必要かつ合理的な範囲内であり合憲」と判断されている。

NHK は、2021年6月までに486件の民事訴訟を提起している。このうち、受信契約締結と受信料の支払いに応じたため訴えを取り下げたものと和解したものは349件。113件はNHKの請求を認める判決が確定しており、残る24件は係争中だ。訴えられれば、支払いを逃れることはできないだろう。

対象となる受信設備の範囲はどこまで?

では、対象となる受信設備の範囲はどこまでなのだろうか。日本放送協会放送受信規約によると、「家庭用受信機、携帯用受信機、自動車用受信機、共同受信用受信機等で、NHKのテレビジョン放送を受信することのできる受信設備」となっている。テレビをはじめ、ワンセグ機能を搭載した携帯電話やカーナビなども対象なのだ。

多くの人が「昨今のスマートフォンはワンセグ機能非搭載のものが多いため一安心」と思っていた矢先、NHKは2020年に地上放送のテレビ番組をインターネット上で同時配信する「NHKプラス」を開始した。インターネットに接続できるスマホであれば、NHKの番組を視聴できるようになったのだ。

「スマホ所有者は受信設備を有することになるのか?」と危惧されたが、NHKの見解としては「インターネット配信は放送ではない」ため、スマホの所有を受信契約に直接結びつける考えはないようだ。

NHKは今後どうなっていくの?

インターネットが普及し、公共放送を取り巻く視聴環境が変化する中、NHKは今後どうなっていくのだろうか。

総務省は2020年度に「公共放送の在り方に関する検討分科会」を設置し議論を進めているが、三位一体改革のフォローアップや受信料制度の在り方などが主な検討事項となっており、今のところ将来に向けた具体的なビジョンは示されていない。

公共放送としてのNHKは、「テレビ」の存在意義・価値と命運をともにする存在だ。国民に広く情報を伝達する手段として、確固たる地位を築いてきたテレビだが、近年はインターネットの台頭によってその価値が徐々に減っている印象を受ける。

情報を広く伝達することの重要性はいつの時代も変わらないが、その媒体がテレビである必然性が失われつつあるのだろう。20~30年後、情報を伝達するインフラとしてのテレビの価値がどのようになっているかを想像し、長期的視点で「放送」そのものの在り方を見直していく必要がありそうだ。

執筆・
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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