球状星団は、銀河の回りに150個近くあるたくさんの星が球状に集まった天体のことです。

以前の研究で、この球状星団の中心には、ブラックホールの群れが存在するということが報告されていました。

しかし、バルセロナ大学の研究チームは、球状星団パロマー5の中心に予想をはるかに超える規模のブラックホール集団存在する可能性を報告しています。

その数は優に100を超えるといいます。

そして10億年後には、パロマー5は完全にブラックホールだけの集合体になってしまうとのこと。

研究の詳細は、7月5日付で科学雑誌『Nature Astronomy 』に掲載されています。

目次

  1. 球状星団の中心には何がある?
  2. 恒星ストリームを作り出す球状星団「パルマー5」
  3. 100を超えるブラックホールクラスター

球状星団の中心には何がある?

まず、球状星団とは何なのかというところから始めましょう。

球状星団(globular cluster)とは、非常に高密度の恒星の集団の呼び名です。

銀河円盤の周りに多く存在していて、天の川銀河の周りでも150個以上が見つかっています。

銀河を映した画像の周りには、よく大きく明るい光の点が映っていますが、あれは非常に巨大な星があるわけではなく、大量の星が密集した球状星団なのです。

100を超える「ブラックホールの大規模集団」が存在するという研究
(画像=球状星団は銀河の回りに無数に浮かぶ輝く球のような天体。その正体は大量の集団。 / Credit:nature,The Phoenix stellar stream rose from the ashes of an ancient star cluster (2020)/Robert Gendler/SPL,nature、『ナゾロジー』より引用)

星が大量に集まっている以上、球状星団の中心には、星を引きつける巨大な重力源があると考えられます。

かつては、銀河の中心に超大質量ブラックホールがあるように、球状星団の中心にはそれより小規模な中間質量ブラックホールがあるのではないかと考えられていました。

ただ、これは予想に過ぎず、実際に確認されている事実ではありませんでした。

特に中間質量ブラックホールと呼ばれる天体は、まだ直接発見されたことのない予測上の存在です。

宇宙では太陽質量の数倍から数十倍という恒星質量ブラックホールと、銀河の核となる超大質量ブラックホールは見つかっています。

しかし、その間に存在するはずの中間質量ブラックホールというものは見つかっていないのです。

いわばブラックホールのミッシングリンクと呼ぶべき存在が中間質量ブラックホールでした。

そのため、球状星団からは未知の中間質量ブラックホールが見つかるかもしれないと、熱心に観測されていたのです。

しかし、2021年2月にハッブル宇宙望遠鏡は、球状星団「NGC 6397」の中心には中間質量ブラックホールはなく、拡散した恒星質量ブラックホールの集団があったと報告したのです。

100を超える「ブラックホールの大規模集団」が存在するという研究
(画像=球状星団の中心は、恒星質量ブラックホールの集団だった / Credit:ESA/Hubble, N. Bartmann、『ナゾロジー』より引用)

そう、球状星団を作っているのは1つの大きなブラックホールではなく、無数のブラックホールの群れだったのです。

これだけでも驚きですが、今回報告された球状星団パロマー5の中心は、それがわかっていても驚くようなすごい状況になっていました。

恒星ストリームを作り出す球状星団「パルマー5」

今回の研究のテーマは、恒星ストリームと呼ばれる天体がどうやって誕生するのかということでした。

恒星ストリームというのは、銀河の回りに細長く伸びた星の流れのことです。

100を超える「ブラックホールの大規模集団」が存在するという研究
(画像=銀河を取り巻く恒星ストリームの想像図 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

むしろこっちを「天の川」と呼びたくなりますが、こうした星の筋を恒星ストリームと呼びます。

恒星ストリームは、伴銀河がホスト銀河に衝突して引き伸ばされて形成されたと考えられていますが、銀河の崩壊が元になっているというには、あまりに星の数が少ないものもあります。

そのため、天の川銀河の近くに形成された恒星ストリームは、球状星団が崩壊して作り出されたものではないかと考えられていました。

ただ、ほとんどの恒星ストリームはもう球状星団を伴っておらず、どうすると球状星団から恒星ストリームが作り出されるのか、そのメカニズムは不明でした。

しかし、球状星団パロマー5は、今現在も恒星ストリームを作りながら天の川銀河の周りを回っています。

そのため、パロマー5を研究すれば、球状星団が恒星ストリームを生み出す理由がわかると期待されていたのです。

100を超える「ブラックホールの大規模集団」が存在するという研究
(画像=天の川銀河を映したガイアの画像。上部中央に付け足されているのは別の望遠鏡でこの領域を深く観測した画像で、ここにパルマー5とその恒星ストリームが映っている。 / Credit:University of Barcelona ,M. Gieles et al./Gaia eDR3/DESI DECaLS、『ナゾロジー』より引用)

上の画像は、天の川銀河とパルマー5の位置関係とその観測画像を示したものです。

中央上部分に付け足されている画像が、パルマー5とそれが伸ばす恒星ストリームを映したものです。

パルマー5が恒星ストリームを伴っているということは、この球状星団が大量の星を放り出しながら移動していることを意味します。

では、なぜパルマー5は星を外に放り出すのでしょう?

そこで、今回の研究チームはさまざまな条件のもとシミュレーションを行い、現在とまったく同じ状況が作り出されるまで計算を繰り返したのです。

100を超えるブラックホールクラスター

研究チームが行ったのは、球状星団が形成されてから、最終的に消滅するまでの各星の軌道と進化のシミュレーションです。

ここで、星団の初期特性を現在の星団の観測結果や恒星ストリームの状態と一致するように変化させ、シミュレーションを繰り返したのです。

パロマー5の特徴は、星同士がかなり離れた低密度の状態と、長く伸びた恒星ストリームを伴っていることです。

結果、パルマー5はの内部にあるブラックホールの数が、星団の星の数から予想される3倍近くもあるということがわかりました。

今回の論文の筆頭著者であるバルセロナ大学のマーク・ギレス(Mark Gieles)教授は次のように語ります。

「星団全体の質量の20%近くがブラックホールで構成されていました。

それらはそれぞれ太陽の20倍の質量を持ち、星団の若い時代に超新星により形成されたと考えられます」

こうしたブラックホールの生み出す重力の作用は、回りの星をスリングショットのように弾き飛ばす働きをします。

こうして星団のは質量の90%を徐々に放出し、恒星ストリームを形成したと考えられます。

またブラックホールはガスや塵を加熱して周囲へ吹き飛ばします。

こうした効果によって、パルマー5は密度が他の星団に比べてほぼ3桁近く低下したと考えらるのです。

これは研究者のマーク・ギレス教授がアップしているシミュレーション結果の動画です。

シミュレーションによると、パルマー5は実に星団のほぼ4分の1がブラックホールになっており、その数は124個に及ぶといいます。

なぜパルマー5はこのような状態になったのでしょうか?

研究者たちの行ったシミュレーションによると、重要なのは星団の初期密度だったと考えられます。

星団が十分に密集していた場合、誕生したブラックホールは重力相互作用によって星団の外へはじき出される傾向がありました。

しかし、密集が十分でなかった場合、ブラックホールは星団内に留まり続け、逆に恒星を外に放り出していくのです。

この経路をたどってしまったパルマー5は、シミュレーション結果によると、あと10億年程度で星団がほぼ完全にブラックホールになってしまい、他の星はすべて外へ追い出されてしまうようです。

いずれ、ブラックホールの集団の塊が天の川銀河の周りを回ることになるのでしょう。


参考文献

Astronomers discover an oversized black hole population in the star cluster Palomar 5(University of Barcelona)

元論文

A supra-massive population of stellar-mass black holes in the globular cluster Palomar 5


提供元・ナゾロジー

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