かつてはファッション&アパレル分野では伊藤忠商事と争って、欧米のブランドを日本に導入していた三井物産もこの分野では、この20年ばかりで伊藤忠の後塵を拝してしまった。その一方で、同社のOEM(相手先ブランドによる生産受託)子会社である三井物産アイ・ファッション(MIF)によるOEMビジネスを強力に推し進めて来た。最近は、日鉄物産(旧住友物産)繊維部門とMIFが統合し2022年に新会社が誕生するというビックニュースが飛び込んで来ている。新会社の年商は2400億円になると見られている。

その三井物産がファッション分野で着々と進めているのが、化粧品分野への投資である。ファッション分野という言い方が語弊を招くならばライフスタイル分野と言い換えてもいい。現在の先進国におけるファッション&アパレル分野での急激なマーケット縮小とビジネスの難しさを考えれば、確かに化粧品分野が魅力的な投資先に見えるのは自然な成り行きであろう。その三井物産の最近の動きをまとめてみると:。

①三井物産の子会社である三井物産ケミカルは、2017年10月に新規領域展開開発本部を立ち上げ、石油化学市況に左右されない新規ビジネスを模索してきた。その第一弾が化粧品ODM(相手先ブランドによる企画・生産)企業のアンズコーポレーションへの投資だった。同社はロート製薬関連会社で1960年創業。三井物産ケミカルによる投資決定の2020年時点での年商は73億円で、スキンケアのODMでは国内3位。生産は国内2工場が担っているが、いずれも医薬製造許可が取得可能な高い品質管理体制を誇る。同社では商社の知見を生かした海外進出に期待しており、この出資により中期的に年商130億円、将来的には300億円を目指している。

②さらに上記の三井物産ケミカルは、上記のアンズコーポレーションを含む化粧品ODM企業4社(他にアサヌマコーポレーション、彩資生、東洋ビューティの3社)による受託製造プラットフォームを今年5月からスタートした。BtoBサイト「Jビューティー・テクノロジー・プラットフォーム」(JBTP)の名称で「世界で戦える化粧品ODMの基盤構築を目指している。取扱品目はスキンケア、メイクアップ、ヘアケア、ボディケアなどの化粧品、医薬部外品。対応言語は、日本語、英語、中国語の3カ国語。

③三井物産本体ではEC中心のメンズ化粧品で急成長中のバルクオムの第三者割当増資を2020年11月に引き受けた。出資額は非上場企業会社のためにも非公表だが、三井物産では出向者1人を派遣し、国内DtoC(メーカー直販)及び海外事業のマネジメントなどを行う。三井物産は「中長期的には化粧品事業でナンバーワン商社」を目指す足がかりにしたい意向。バルクオムは2017年設立。売上高に占めるEC比率では80%でサブスクリプション(定期購入)型ECが主力だ。しかも自社ECが70%と高率だ。リアル店舗もドラッグストア、美容サロン、バラエティショップなど100店を超える。また中国の他、台湾、ロシア、英国、フランス、イタリア、シンガポールなどでも販売されており、三井物産の経営参画によりさらに海外戦略の強化が見込まれている。2020年9月期には売上高が前年から倍増している急成長企業だ。

④三井物産100%子会社である至高ビューティ(SBI)は今年2月に米国の消費者に日本の品質スキンケアを販売するECサイト「Shiko Beauty Collective(シコービューティコレクティブ)」を開設した。Jビューティとして海外でも評価が高い日本の化粧品ブランドが米国市場に進出できるように支援するのが目的だ。同時にECサイトで得られた消費者情報を活用して、ブランド側にアドバイスを行う。ブランドのラインナップは「石井クリニックビューティー」「ララヴィ」「セイソビューティー」「フィンギー」「warew(和流)」「インマスクサロン」などだ。

三井物産は化粧品事業ナンバーワン商社を目指して、急ピッチで基盤作りに取り組んでいるようだ。上記①~④を見るとキーポイントはODM、EC、Jビューティ、海外戦略ということになりそうだ。さらなる投資とその成果に注目したい。

文・三浦彰/提供元・SEVENTIE TWO

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