2月に新しい火星探査機パーサヴィアランスが火星への着陸に成功しました。

人類がこれまでに火星に送り込んだ探査機の数は実に30機近くになります。

それだけの探査機が火星を訪れていたら、ひょっとして地球の微生物がすでに火星に入り込んでいる可能性はないのでしょうか?

4月1日に科学雑誌『Microbiome』に発表された新しい研究は、どれだけ厳重に清掃をおこなっても無菌にすることは難しく、宇宙旅行でも生き延びる微生物がいて、宇宙空間で非常に早く進化を遂げる可能性があることを報告しています。

論文著者の1人、米国コーネル大学の遺伝学者クリストファー・メイソン氏は、BBCの記事において、その可能性について解説をおこなっています。

ひょっとすると、火星はすでに地球生命によって汚染されているかもしれないのです。

目次

  1. 細心の注意を払って除菌される宇宙船
  2. 宇宙旅行する微生物がもたらす危機

細心の注意を払って除菌される宇宙船

「すでに地球の微生物が火星に侵入しているかも」アメリカの科学者が解説
(画像=宇宙船は他惑星へ生物を持ち込むことがないよう、厳重に洗浄が行われ組み立てられている / Credit:NASA/Jim Grossmann、 『ナゾロジー』より 引用)

宇宙ミッションにおいては、地球の生物を外へ持ち出してしまう危険性を抑えるために、国際的に合意された厳格な基準の洗浄組み立てプロトコルが存在します。

NASAではこのプロトコルを厳重に守り、ときには基準を超えるレベルで探査機を組み立てています。

NASAジェット推進研究所(JPL)の宇宙船組立施設(SAF)は、最近火星に降り立った探査機パーサヴィアランスの製造もおこなっています。

パーサヴィアランスの製造プロセスでは、宇宙船を玉ねぎのように、1層ずつ丹念に造り上げ、全てを洗浄してから組み立てていきます。

これによって、ミッションに投入する機器に付着する、細菌、ウイルス、真菌、胞子などを制限しているのです。

組立は、高性能なエアフィルターと厳格な生物学的管理手順を備えた部屋で行われています。

このクリーンルームは、理論上1平方メートルあたり数十個の胞子しか存在しないよう設計されています。

しかし、バイオマスを完全にゼロにすることはほぼ不可能です。

微生物は何十億年も前から地球に存在していて、私たちの周囲のどこにでもいます。

私たちの体自体もその生息域の1つであり、正直どんなに清潔なクリーンルームを設計しても、彼らは通過して入り込んでしまうのです。

これまでこうしたクリーンルームに入り込んだ微生物を検査するには、サンプルを取ってそこから含まれる細菌を培養して調べるしかありませんでした。

しかし、現在は新しい解析方法があり、メイソン氏もその方法によって今回の研究をおこなっています。

それが「ショットガン・シーケンシング法」と呼ばれるものです。

「すでに地球の微生物が火星に侵入しているかも」アメリカの科学者が解説
(画像=ショットガン・シーケンシング法の例 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

これは言葉通り、サンプルに散弾銃を打ち込み、何十億もの小さなDNAの断片にしてから、それぞれの断片の配列を決定するというものです。

各断片は、配列データベースにすでに存在する既知の生物種のゲノムに、再構成することができます。

この方法を使うことで、クリーンルームに入り込める微生物のDNA配列を、包括的に調べることができるようになったのです。

その結果、JPLのクリーンルームからは、宇宙ミッションで問題になる可能性のある微生物の証拠が見つかったとメイソン氏は述べています。

その微生物は、DNAを修復する遺伝子の数が多く、放射線に対する抵抗力が高いという特性を持っていました。

さらに、機器の表面にバイオフィルムを形成することで、乾燥に耐えることができ、低温環境でも繁殖できることがわかったのです。

この結果を見てメイソン氏は、厳格なクリーンルームの存在が裏目に出てしまっている可能性を考えたといいます。

つまり、厳重な洗浄プロセスが、逆に宇宙旅行に耐えられる生物を選別して宇宙船に乗せてしまうプロセスになっていたかもしれないのです。

そして、こうした事実は火星だけでなく、地球にも危機をもたらす恐れがあります。

宇宙旅行する微生物がもたらす危機

「すでに地球の微生物が火星に侵入しているかも」アメリカの科学者が解説
(画像=宇宙研究では惑星の環境を守ることも重要な課題 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

宇宙ミッションには、「惑星保護方針」というものがあります。

これには2つの意味があり、1つは他天体を地球生命の汚染「フォワード・コンタミネーション(forward contamination)」から保護すること。

もう1つは、地球を宇宙から持ち帰った生命の汚染「バックワード・コンタミネーション(Backward Contamination)」から保護することです。

今回の発見は、このうちのフォワード・コンタミネーションに影響を与えるものです。

しかし、人類はこの問題に関して、宇宙を考える以前に、地球上でも大した実績がありません。

たとでばそれは、現在猛威を振るうCOVID-19原因ウイルスの急速な広がりをまったく制御できていない点からも明らかです。

フォワード・コンタミネーションは、科学的な観点からも望ましくありません。

それは科学者が、火星などの他惑星で生命を発見した際、それが本当にその惑星の生命なのかわからなくなるからです。

地球で厳重な洗浄を受け、宇宙を移動する際には多量の放射線を浴び、それでもしぶとく生き残った微生物は、もはやゲノムが大きく変化していてエイリアンのように見えるかもしれないからです。

最近の研究報告では、国際宇宙ステーションでさえ、新しい微生物が進化していることが確認されています。

NASAの技術者は、火星の土壌や空気中に、そのような種を持ち込まないよう努力していますが、それが完全でないことは今回の研究でも示されています。

今後火星で生命の痕跡が発見された場合、それが地球上で生まれたものでないかどうかは慎重に検証する必要があります。

そうでなければ、生命の普遍的特徴や、火星生命について、誤った研究を行ってしまう可能性があるからです。

また、これは宇宙飛行士の健康を害するような、身近な問題につながっていく可能性もあります。

そしてそれは、先程あげた「バックワード・コンタミネーション(宇宙生命による地球汚染)」についても、問題を起こす可能性が出てきます。

宇宙で特殊な進化を遂げた微生物を、再び地球に持ち帰った場合、人間を含む地球上の生命が逆に汚染されてしまうリスクがあるからです。

「すでに地球の微生物が火星に侵入しているかも」アメリカの科学者が解説
(画像=地球産でも、宇宙で変異した生命が持ち帰られる可能性もある / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

「バックワード・コンタミネーション」は宇宙に生命が存在しなかった場合でも、地球から持ち出された微生物によって発生する可能性があるのです。

これはSF映画では、お馴染みのネタですが、2028年にNASAとESA(欧州宇宙機関)が共同で行うミッションによって現実になる可能性もあります。

この「火星サンプルリターンミッション」では、2032年を目処に、最初の火星サンプルを地球へ持ち帰ることが計画されています。

過去の研究では、火星のサンプルに活発で危険な生物が含まれる可能性は極めて低いとされています。

NASAやESAは、火星でもし生命の痕跡を採取した場合、そのサンプルは多層構造の厳重なパッケージによって安全に持ち帰ると説明しています。

しかし、生きて宇宙船の表面で宇宙を旅した微生物はどうなるかわかりません。

火星に探査機が初めて着陸したのは1971年、ソ連のものでした。

その後、1976年には米国の「バイキング1号」が火星に着陸しています。

「すでに地球の微生物が火星に侵入しているかも」アメリカの科学者が解説
(画像=バイキング1号が撮影した火星のパノラマ写真 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

火星にはすでに、地球の微生物が存在している可能性があります。

ただ、これら地球由来の微生物を発見してしまった場合、火星の生命か地球の生命か見分ける方法は存在します。

現在、遺伝学の技術は進んでいて、その配列からDNAがいつごろ、なぜ変化したかまで解明することできます。

なんにせよ、微生物の驚くほどのしぶとさは、今後、人類の宇宙研究の悩ましい問題になっていく可能性があります。

参考文献
Could humans have contaminated Mars with life?(BBC)

元論文
A comprehensive metagenomics framework to characterize organisms relevant for planetary protection

提供元・ナゾロジー

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