温暖化が思わぬ生物を生んでいます。
近年、温暖化による北極圏の海氷の減少により、ホッキョクグマ(polar bear)がエサを求めて南下するようになりました。
その結果、グリズリー(grizzly)の生息域とぶつかり、2種の交配が進んでいるのです。
このハイブリッド種は、双方の名を取って、ピズリー(pizzly)やグローラー(grolar)、ポリズリー (porizzly)などと呼ばれています。
グリズリーが「ホッキョクグマの避難所」に?
ホッキョクグマとグリズリーは約50万〜60万年前に分岐したばかりで、遺伝的に完全に決別していないため、交配して子孫を残すことができます。
最初のハイブリッド種は2006年に、カナダの北極圏にあるノースウェスト準州で発見されました。
その個体は、ホッキョクグマ特有のクリーム色の毛をベースとしつつ、グリズリーの茶色の体毛やコブのある背中、長い爪などを持っていたのです。
そしてDNA検査の結果、正式に2種のハイブリッドであることが確認されています。
以来、ハイブリッド種の目撃例は増加しつづけており、飼育下では2017年に、1頭のメスのホッキョクグマと2頭のグリズリーを親にして、8頭の子孫が誕生しました。
また野生下のハイブリッドの増加は、ホッキョクグマの減少と重なっています。
ホッキョクグマの数は今後30年で30%以上減少すると予測されており、この急激な減少により、スペースの空いた生息域にグリズリーが北上、反対にホッキョクグマはエサを求めて南下。
結果として、ハイブリッドはさらに増加します。
アメリカ・ヴァンダービルト大学の生物学者、ラリサ・デサンティス氏は「偶発的に生まれたハイブリッド種は一般に、食料や環境の違いで、生存にはあまり適していません。
しかし今回のケースは、ハイブリッドが繁殖できる要因が多い」と指摘します。
例えば、ホッキョクグマは脂肪分の多いアザラシをメインの食料にする偏食家ですが、海氷の減少により南下せざるを得ず、アザラシが獲れなくなっています。
一方のグリズリーは好きなものなら何でも食べるグルメであり、食の幅がかなり広いです。
そのおかげで、ハイブリッド種は食料の調達に困っておらず、野生下でも安定した繁殖が進んでいます。
さらに、アメリカ国立雪氷データセンター(NSIDC)の発表によると、今年の北極海の海氷は、1981〜2010年までの平均最大面積から、約87万平方キロメートルが減少しました。
これはカリフォルニア州の約2倍の面積が失われたことになります。
それにより、北極圏と北アメリカの中間域が、ハイブリッド種の生息環境として整い始めているのです。
この傾向が続けば、ホッキョクグマはグリズリーに吸収されて、完全にいなくなってしまうでしょう。
しかし長い目で見れば、ハイブリッド種の中に遺伝子が残ることで、いつか気候が安定した時に、ホッキョクグマが再びグリズリーから分岐するとも考えられます。
ホッキョクグマは将来的な復活のために、一種の避難先として、グリズリーとの融合を進めているのかもしれません。
参考文献
‘Pizzly’ bear hybrids are spreading across the Arctic thanks to climate change
Climate change is breeding ‘pizzly’ bears — hybrids between polar bears and grizzlies
提供元・ナゾロジー
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