快感を感じなくなっているのは、うつ病のせいではないかもしれません。

4月12日に『BRAIN』に掲載された論文によれば、快感を感じる能力の喪失は、早期認知症(FTD)との関連が深いことが示されました。

早期認知症の代表的な型(前頭型と側頭型)では、快感を感じるために必要な脳領域が委縮して細胞が死滅してしまいます。

うつ病と早期認知症では、それぞれ異なる治療が必要となりますが、問題なのは、早期認知症による快感の喪失とうつ病が混同されていた可能性があることです。

しかし今回の研究により、この問題は解消されるかもしれません。

目次
快感を感じないのは「うつ病」よりもキケンな症状のせいかもしれない
快感を感じる脳領域が委縮して永続的に快感が得られなくなる
永遠に喜びや楽しさを失わないために

快感を感じないのは「うつ病」よりもキケンな症状のせいかもしれない

快楽の神経細胞が死滅する早期認知症が、誤って「うつ病」と診断されていたかもしれない
(画像=早期認知症の前頭型と側頭型は無快感症の重症度が高い / Credit:Siobhán R Shaw et al..BRAIN(2021),訳:ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

うつ病では、快感の喪失(無快感症)がよく見られます。

私たちの脳は通常、美味しい食事やきれいな夕日といったささいな出来事に対しても快感の回路が反応し、満足感や喜びをもたらしてくれます。

しかし無快感症に陥っている人はそれができません。

そして無快感症になってしまうと、モチベーションも低下します。

人々が何かをしたいと思う時は、喜びや興奮を得たいという動機付けがされますが、喜びも興奮も感じられない人々にとって、行動する動機など生まれようがありません。

結果「何をやっても楽しくないのだから、何もしない」という選択を常にとってしまいます。

しかし今回、オーストラリアのシドニー大学の研究者たちにより、無快感症がうつ病以上に、早期認知症と密接に関連していることが確認されました。

研究チームは、認知テストを用いて快感を感じる度合いを病状ごとに調査しました。

すると、健康な人やアルツハイマー病の患者では無快感症がそれほどみられなかったのに対して、早期認知症の代表的な型(前頭型と側頭型)では有意な快感レベルの低下が確認されたのです。

しかも、これはうつ病よりも重要な脳の異変を起こしていました。

早期認知症では、快感を感じるために必要な脳領域が委縮して、快感を発生させる細胞たちが死滅していたのです。

快感を感じる脳領域が委縮して永続的に快感が得られなくなる

快楽の神経細胞が死滅する早期認知症が、誤って「うつ病」と診断されていたかもしれない
(画像=無快感症の人は快感に関連する脳領域にダメージを受けている / Credit:Siobhán R Shaw et al..BRAIN(2021),訳:ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

研究者たちが早期認知症(前頭型と側頭型)を患っている人々の脳をMRIで調べた結果、非常に衝撃的な結果が現れました。

早期認知症患者の多くが、「快感の源泉」というべき複数の脳領域(眼窩前頭皮質と前頭前野、島皮質、被殻)に、委縮と細胞の死滅を起こしていたのです。

快感を得る脳領域での萎縮や細胞の死滅は、生涯に渡り、快感を得ることを非常に困難にします。

この病状の進行を遅らせるためには、すみやかな専門治療が必要となります。

しかし、モチベーションの低下は主にうつ病の診断基準となっているため、これまで早期認知症がうつ病と混同されていた可能性があるのです。

今回の研究が発見した事実は、暗い話題のように思えます。

しかし重要なのは、今回の成果により「うつ病」と「早期認知症」をMRI画像から見分けられるようになったということです。

単なる「うつ病」の場合、原因は神経伝達の不調であり、脳の萎縮や細胞の死滅は、それほど顕著ではありません。

一方、早期認知症では快楽にかかわる脳の複数に特徴的な萎縮パターンがみられたからです。

永遠に喜びや楽しさを失わないために

快楽の神経細胞が死滅する早期認知症が、誤って「うつ病」と診断されていたかもしれない
(画像=早期認知症になっても治療によって進行を防ぐことができる / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、喜びや楽しみの喪失が単なる「うつ病」ではなく、早期認知症という重大な結果と関連し得ることが示されました。

またMRI画像の分析により、早期認知症に特徴的な脳の萎縮パターンが判明しました。

これにより、人々の無快感症が単なる「うつ病」によるものか「早期認知症」によるものかを判別できるようになったのです。

認知症の治療薬には症状の悪化を防ぐ効果があるものが数多くあり(元通りにはならない)、快楽をうみだす脳領域が完全に死滅してしまうまで、多くの時間を稼ぐことができます。

早期に正しい診断が行えるようになれば、双方の患者にとって良い状況を生み出すことができるでしょう。

早期認知症の症状は、通常40〜65歳の間に始まります。

もし現在、喜びや楽しみが感じられない状態が長く続き、さらにうつ病の治療に効果を感じられないならば、原因は早期認知症による脳の萎縮かもしれません。

気になるならば、1度MRIで脳に異常がないか調べてみるのもいいでしょう。


参考文献

The Brain’s Pleasure System Wastes Away in Early-Onset Dementia, Study Finds

元論文

Uncovering the prevalence and neural substrates of anhedonia in frontotemporal dementia


提供元・ナゾロジー

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