Web上で文章を書くほかに、工作や編み物などのハンドメイド作品を発表する機会が多いライターさくらいみかです。

文章、動画、イラスト、マンガ、なにかしらの「作ってみた」など、自分の作品をネット上で発表して不特定多数の人に見てもらいやすくなった昨今。

ネット記事の企画とよく似た企画をテレビや動画で見かけたり、SNSで拡散された個人の作品とよく似たものが作者の知らないところから発売されたり、たまたまネット上で見かけたマンガがまったく別の作品とよく似ていたり……というような場面に遭遇することがありました。

意識的にパクられた場合もあれば、無意識に似てしまった場合もあったり、見る人によって似てると感じる場合もあれば、まるで違うと感じる場合もあるでしょう。

ネット上でなにかしらを発表してる人たちが、自分の作品・アイデアを自分のものとして守るにはどうすればいいのでしょうか。そんな場面に遭遇したとき、どう反応するのが正しいのでしょうか。

法律を知っていれば解決しやすくなるのか、なにか専門的な知識を付けておいたほうがいいのか……。まるで分からないので、クリエイター方面の著作権に詳しい弁護士・河野冬樹さんに教わりに行きました。

記事のアイデアがパクられたら訴えられるの?「著作権」について弁護士に聞いてきた
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

河野 冬樹(かわの ふゆき)
法律事務所アルシエン 弁護士。主に個人クリエイター向けに、著作権をはじめとする知的財産権に関するリーガルサービスを提供している。

聞き手:さくらいみか
Web上で動くアプリっぽいものを作るのが本職、副業Webライターで編み物作家。半分会社員で半分フリーランスです。

目次

「著作権」って何?

さくらい:
本日はよろしくお願いします。まず作品のアイデアを守るものとして「著作権」という言葉が頭に浮かんだのですが、そもそも著作権ってどういうものなんですか?

河野:
著作権は、創作物を保護するためのものです。登録が必要ないので、幼稚園児が描いた絵にも著作権はあります。なお、著作権を主張する表示として「Cマーク」がありますね。

さくらい:
Cマークを書いてないと著作権を主張できなくなったりするんですか?

河野:
Cマークの有無にかかわらず、すべての創作物に著作権は付与されます。なので著作権を主張できないことはありません。ただし、「Cマークがないからフリー素材だと思ってました」と言われると、なかなか対応しづらくはなります……。

記事のアイデアは保護されない!?

さくらい:
私はWebライターをしているのですが、たとえば自分の記事のアイデアをほかのメディアに使われてしまった場合、どう戦うのが正解なんですか?

河野:
文章がそのまま無断転載されたなら、もちろんアウトです。しかし残念ながら、アイデアをパクられただけでは著作物として保護されにくいんです。

さくらい:
「アイデアが似てる」っていうのはピンキリだとは思うんですけど、「これどう見ても似すぎてる……」という場合もあるじゃないですか。

河野:
どんなに酷似していても、保護されるかというと難しいんですよね。創作物として形になっていないと、著作権としては保護されないので。

さくらい:
アイデアだけでは、保護されないってことですか?

河野:
そうですね。形になっている場合は「文章表現が似てる」というところに持ち込んで争うことはできますが、アイデアそのもので争うのは難しいのが実情です。

記事のアイデアがパクられたら訴えられるの?「著作権」について弁護士に聞いてきた
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

さくらい:
著作権の認められやすいWeb記事ってあるんでしょうか?

河野:
エッセイ的な記事なら認められやすいと思います。一方で、SEOを目的とした記事は難しいかもしれません。WebライターさんがSEOを意識して記事を執筆すると、どうしても書き方や取り上げる内容が似てしまうことはあると思うんですよね。

さくらい:
特徴的な文章である必要があるんですね。

河野:
他にも、料理のレシピのアイデアであれば「水150mlくわえます」というようにしか書きようがないですよね。表現に揺れがあると、作り方を伝えられません。書き方に創意工夫があれば認められる余地はあると思いますが、アイデア自体はなかなか保護できないんです。

さくらい:
たとえば見た目がすごく奇抜で「きのこが真ん中にドーン!!!」「肉の盛り方がドーーーン!!!」というようなものがあるとして、それと酷似したものが他所で現れた場合はどうなるんですか? あ、けどそれも「アイデア」なのか。

河野:
そうですね。このレシピを盗用して実際にお店で出してたとしても、なかなか保護はされません。

さくらい:
レシピではなく、料理の風貌自体が著作物になる可能性はありますか?

河野:
理論上はあり得ますが、相当奇抜でないと保護されないと思います。

アイデアが保護されすぎると、文化が発展しなくなる

さくらい:
法に引っかからず盗作されてる作品というのも、多く存在するんですかね?

河野:
法に引っかかるものを盗作というんじゃ……。

さくらい:
あっ……そうか。

河野:
ただ、二次創作のことを、法には引っかかってないけど「盗作だ!」という人はいるでしょうね。

ファンの人たちから袋叩きにあいそうなのであんまり言いたくはないですが、『金田一少年の事件簿』や『ルパン三世』で使われている展開やトリックも、コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズシリーズ』に似た部分が多くあります。これらも二次創作であり、著作権を侵害しないとしても、法律的な意味を離れての、いわゆる盗作とみられることもあるかもしれません。

さくらい:
なるほど……。

河野:
仮に盗作が「影響を受けて作られたもの」という捉え方をすると、あらゆるものが盗作になってしまいます。何からも影響を受けてないアイデアって、ないんじゃないかなと。

さくらい:
確かにどんなものでも、どこかしらは何かに似てるところはあるかもしれませんね。

河野:
もしアイデアの保護がされすぎてしまうと、そのジャンルが発展しなくなってしまうという問題が生じてきます。仮にコナン・ドイルが「推理小説の展開は私だけのものだ!」と主張して、それが著作権で保護されたとすると、世に出なかったものはたくさんありますよね。

著作権はもともと文化の発展が大目的で、そのために作者にインセンティブ与えましょうという権利です。作者のインセンティブのために独占を認めてたら、文化が発展しようがないです。

記事のアイデアがパクられたら訴えられるの?「著作権」について弁護士に聞いてきた
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

さくらい:
何かを参考にしてたとしても、何かしらのオリジナリティをもって創作している部分もありますよね。そのオリジナリティをどうにかして守りたいとなった場合はどうすればいいんですか?

河野:
文章であれば、表現が似てない限りは法的に守るのが難しいかもしれません。酷似したストーリーを描写してても、文章が違えば侵害にならない可能性が高いです。

さくらい:
そこまで似てても無理なんですね。ほぼ盗作だとしても法に引っかからないなんて……。

河野:
二番煎じを許すかどうかは読者にゆだねられる問題であって、法律は関与しないんです。

パクられても訴えるのは難しい。でも読者はどう見る?

さくらい:
Web記事とよく似た企画を、テレビやYouTubeで見かけることがあります。それはどうなんですか?

河野:
企画のアイデアだけだと難しいですね。「大元になってる企画の趣旨は一緒」という動画って、無数にあるじゃないですか。たとえばコーラにメントスを入れる動画が流行って、直後に数多くのYouTuberがこぞって似たような動画をあげるというような。

さくらい:
ある程度フォーマットがあって、それに沿って作られてる動画はたくさんありますね。

河野:
フォーマットというのは、最初に作った人がいなければ生まれませんからね。

さくらい:
フォーマット自体に対して、「この手法は自分のものだから、ほかのところでは使ってほしくない!」と主張はできないんですか? たとえば『池の水ぜんぶ抜く』って番組あるじゃないですか。あの企画をそのまんまYouTuberがパクってやったりした場合はどうでしょう?

河野:
大丈夫なんじゃないですか?

さくらい:
えっ、そのままですよ!? 元の番組制作者が「パクるなよ」って訴えることはできますか?

河野:
難しいと思います。企画は一緒だとしても、出演者のリアクションとかは当然違ってきますよね。

さくらい:
いやーーー……けど、まったく同じ企画をパクッてるわけですよね。それってモラル的に……。

河野:
そう、結局はモラルの話なんです。繰り返しになりますが、アイデアについては法律が立ち入るべきところじゃなくて、視聴者や読者に委ねられる問題ですよね。

記事のアイデアがパクられたら訴えられるの?「著作権」について弁護士に聞いてきた
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

さくらい:
あからさまにパクられた事例ってあるんですかね?

河野:
そこまであからさまなのはないと思うんですけど、たとえば朝のニュースの画面の端っこに「今日の天気」が表示されているのってよく見ますよね。あれもどこかの局が最初にはじめて、ほかの局が真似しだしたんだと思います。じゃあそれを禁止して特定の局でしかやらないとなると、視聴者としてはどっちがいいですか?

さくらい:
えー、あれは見やすいからあったほうがいいですね。最初に考えた人はどう思ってるんだろう。

河野:
考えた本人が被害を受けるかどうか、というのもあるんですよね。「最初にやった人間として注目してもらうのも悪くない」という考え方もありだと思います。

さくらい:
内容によっては、「真似されて嬉しい」という場合もありそうですね。

まとめ

これまでなんだかよく分からなかった「著作権」、実はそんなに難しくないのかも? そして思ってたほど効力を持ったものではない印象も受けました。不当なモラル違反が正しく批判されるような事例が増えて、それが抑止力になるような風潮になるといいなと思います。

もし自分の記事のアイデアが他で真似されたとしたら、モラルに訴えよう……と心に決めました。(真似されるようなアイデアが出せるかどうかはさておき……)

次回は「意匠権」について学びつつ、ハンドメイド作品をネット上で発表するにあたってのあれこれを聞いてみます。

(執筆&イラスト:さくらいみか 撮影&編集:じきるう)

提供元・Workship MAGAZINE

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