探し物に特化した脳細胞が発見されました。

12月21日に『Nature neuroscience』に掲載された論文によれば、メガネや携帯電話などの置き場所を思い出すときだけに活性化する「探し物細胞」が発見されたとのこと。

脳内に存在する地図細胞(ナビゲーションニューロン)の発見は2014年にノーベル賞を受賞しましたが、今回の研究で発見された新しい細胞は探索対象の「地形」ではなく「物体」に対して反応するようです。

頭にメガネを乗せたまま「メガネ、、メガネ…」と探していた人間が、はっと頭上に手を伸ばすとき、脳内ではいったい何が起きているのでしょうか?

目次
地図能力と探し物能力は別物だった
探し物細胞は海馬にあるが対象物には興味がない
探し物は3つの段階を経る複雑な過程

地図能力と探し物能力は別物だった

「メガネ、メガネ…」置いた物の場所を思い出す「探し物細胞」が発見される!
(画像=地図的な能力と目的地でモノをみつける能力は別だった / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

私たち哺乳類の脳で発見された「地図細胞」は、私たちが仕事場や歯医者に行くにあたり、GPSのように働き、私たちをナビゲートしてくれます。

しかし私たち哺乳類の脳にとって、探索の対象は地形だけではありません。

自分の子供や巣の材料、隠した木の実といった所有物や財産を有する動物にとっては、地形の上に存在する「物体」もまた探索対象になります。

人間で例えるならば「探し物」です。

メガネや携帯電話などを家の中でとりに行く場合、地理的な誘導は既に終えているため地図細胞の出番はなく「探し物」に対する単純な方向と距離(ベクトル)だけが問題になります。

そのため多くの人が経験する探し物がみつからないという経験は、地図細胞に起因する方向音痴が原因ではなく、終末段階におけるベクトル誘導の不調によるものなのです。

いままで、このベクトル誘導を行う脳細胞は発見されていませんでしたが今回、イギリスのダラム大学の研究者らによって、ついに場所が特定されました。

私たちの「探し物細胞」はどこにあったのでしょうか?

探し物細胞は海馬にあるが対象物には興味がない

「メガネ、メガネ…」置いた物の場所を思い出す「探し物細胞」が発見される!
(画像=探し物細胞は海馬(図の赤い部分)の下の方にある / Credit:wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

「探し物細胞」が発見されたのは、海馬の下方領域でした。

海馬は記憶の保管庫としての機能があることが知られていましたが、どうやら探し物の方向や距離といった空間的なベクトル情報も、海馬に蓄積されていたようです。

しかし研究が進むと、意外な事実が判明します。

なんと「探し物細胞」は探し物そのものには反応していないことが明らかになったのです。

つまり「探し物細胞」が行っているのはあくまで方向と距離(ベクトル)の処理だけであり、探している最中に脳裏にチラつく対象物のイメージは、別の回路の担当ということになります。

また今回の研究は、なぜ認知症の初期症状のなかに、探し物がみつからなくなるという現象が含まれるのかについても洞察を与えてくれました。

「探し物細胞」が存在する海馬は、認知症の過半を占めるアルツハイマー病において最初に委縮が起こる場所として知られているからです。

探し物細胞がダメージを受ければ終末段階での距離と方向の感覚(ベクトル誘導)が不調をきたし、どんなに整理整頓された部屋のなかであっても探し物がみつからなくなります。

探し物は3つの段階を経る複雑な過程

「メガネ、メガネ…」置いた物の場所を思い出す「探し物細胞」が発見される!
(画像=物をみつけるには場所に行くだけでなく、目的地での最終的な誘導も必要になる / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、物体(メガネや携帯)の探索が3段階に別れていることが明らかになりました。

最初の段階は地図細胞による目的地への誘導、目的地についてからは探し物細胞による方向と距離に基づくベクトル誘導が起こり、そして最後に発見した物体と記憶の照合が行われます。

この一連の流れにおいて、最初の2つ「地図細胞」と「探し物細胞」は探し物そのものとは独立した中性的な回路であり、目的とする探し物が金塊であっても空き缶であっても、置かれている場所が同じなら、同様の処理がなされます。

さらに興味深いことに、探し物が置き場所から取り去られても「探し物細胞」はしばらくの間、活性化したままでした。

これはあったはずのものがなくなるという違和感や喪失感の根源となる可能性があります。

探し物を取りに行くという一見してなんでもない行動が、こんなにも複雑な段階を踏んでいたとは驚きだと研究者たちは述べています。

文・ライター:川勝康弘 編集者:やまがしゅんいち/提供元・ナゾロジー

参考文献
Nature neuroscience

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