新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が延長されたことでダメージを受けている産業の一つが、ホテル業界です。

こうした状況を打開すべく、ホテルを短期間の宿泊施設としてだけではなく、観光目的以外の利用を提案し、長期滞在する場所に変えることで客足を呼び戻そうという動きもあります。

三井不動産による「ホテルのサブスク(サブ住む)」や、帝国ホテルによる「ホテリビング」がその一例でしょう。

こうしたホテル業界の新しい動きが日本のインバウンド市場に与えるであろう影響について考察します。

目次

各ホテルがアパートメント事業を開始
  帝国ホテル、30泊36万円でホテル暮らしを提供
  三井不動産は「ホテルのサブスク」を開始、選べる2形態
ポストコロナは富裕層、長期滞在がカギ?ホテルのあり方にも変化か
長期滞在向けプログラムで、観光客の囲い込みを図る事はできるか

各ホテルがアパートメント事業を開始

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、最もダメージを受けている業界の一つがホテル産業です。旅行者がいないためにほとんどの部屋が空室となっているホテルの中には、テレワーカーの利用を見込んだ長期滞在型プログラムの販売に踏み切るところが現れはじめました。

こうしたホテルの長期滞在プログラムは高額であることこそ否めませんが、一定額を支払うことでホテルのフィットネスセンターやミーティングルーム等が使い放題になることが特徴となっています。

帝国ホテル、30泊36万円でホテル暮らしを提供

例えば、帝国ホテルが「ホテリビング」として30泊36万円のプランの予約を2月1日から開始したことが話題となりました。このプランでは帝国ホテルの一室がサービスアパートメントという形態になり、有料でルームサービス等が受けられると共に同ホテル内の駐車場や各施設が無料で利用できます。

帝国ホテルがこのサービスの予約を2月1日から受け付けたところ、問い合わせが殺到し7月15日までの99部屋分の予約が完売しました。

「30泊36万円」が即日完売、高級ホテルの戦略の裏側:コロナ後のインバウンド誘致も狙えるか
(画像=▲帝国ホテルの「サービスアパートメント」サービス:公式サイト、『訪日ラボ』より引用)

三井不動産は「ホテルのサブスク」を開始、選べる2形態

一方、三井不動産は、今年に入り「ホテルのサブスク」というサービスを提供しています。この「ホテルのサブスク」は、全国12都道府県にある「三井ガーデンホテルズ」と「sequence」から好きなホテルを利用できるサービスです。

このサービスは、様々なホテルでの滞在を楽しみたい人に対応した「HOTELどこでもパス」と、一つのホテルにじっくりと滞在したい人に向けた「HOTELここだけパス」の2商品で構成されています。そのため、いろいろなホテルに泊まってみたい人にも、一つのホテルに長く滞在したい人にも対応したコンテンツとなっていることが特徴です。

なお、「HOTELどこでもパス」は100名限定での抽選販売がすでに終了していることからもわかるように、滞在型観光やワ―ケーションとのつながりから、このサービスが高い注目を集めています。

ポストコロナは富裕層、長期滞在がカギ?ホテルのあり方にも変化か

上記の二例から、ホテルが「観光や出張に際して短期滞在するための場所」という役割に留まらず、「優雅なワーケーションを楽しめる場所」や「長期滞在のための施設」として変化していることがわかります。では、こうした新しい動きはこれからの日本のインバウンド市場と、どのように関わってくることになるのでしょうか。

実はポストコロナのインバウンド市場で最も注目されているのが、日本を訪れる富裕層の外国人観光客です。

かつては富裕層向けのマーケットが発達していないことが日本の観光産業の弱点として指摘されたこともありましたが、近年日本政府も富裕層の観光滞在に注目しています。

例えば2020年10月に日本政府は「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」を設立し、世界各国の富裕層の誘致や長期滞在の促進などの環境整備を図っています。

日本を訪れる富裕層は一般旅行者の9倍もの金額を消費すると言われます。こうした富裕層を日本のホテル業界に取り込む一つの手段として、前述のホテルの長期滞在プランは効果を発揮するものと予測されます。

また、世界中で一般観光客に出入国は未だに制限されていますが、ビジネス目的の入国は例外として認める国が少しずつ増えており、日本もそうした国の一つです。(※3月19日現在、ビジネストラック・レジデンストラック・全世界を対象とした新規入国は一時停止となっています。)

つまり、少数の訪日ビジネス客や富裕層の需要をいかに取り込み、長期滞在してもらうかが、今後の観光業界全体に求められるといえます。

ちなみに、外国人観光客(あるいはビジネス客)の長期滞在により、アフターコロナの観光産業の回復を狙っている国の一つが、東南アジアのタイです。この国を訪れる国際観光客数や同国の国際観光収入は日本よりも大きいことからもわかるように、もともとタイはアジアにおける有数の観光立国でした。しかし、タイを訪れる外国人観光客は新型コロナウイルスにより激減します。

そうした状況の中、タイ政府は2020年10月から新型コロナウイルスのリスクの低い国から来る観光客に対して特別観光ビザ(STV)を発行し、最大で270日間の滞在を許可しています。これはタイを訪れる限られた数の外国人観光客の滞在日数を伸ばすことで、国内での消費を促すことを目的とした措置であると考えられます。

長期滞在向けプログラムで、観光客の囲い込みを図る事はできるか

新型コロナウイルスの影響により多数の観光客を日本国内に呼び込むことが困難な状況は、今後しばらく続くことが予想されます。そのため、単価の大きい少数の観光客を呼び込むことができるかどうかが、日本の観光産業が今後直面する課題となるでしょう。

ホテルの長期滞在プログラムが日本で定着し、日本に来る外国人ビジネス客が快適に利用できるようになれば、彼らが休暇で日本を再度訪れる可能性も広がります。また、高級ホテルでの長期滞在型プランは万人が使うサービスではないものの、特に一人あたり消費単価の大きい富裕層に対するカードとしては、用意しておくことに越したことはないでしょう。

ホテルを短期間「泊まる」場所としてだけではなく、上質な時間を「過ごす」「暮らす」場所としての提案が、アフターコロナの宿泊施設には求められるといえます。

文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ

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