以前、地球に降り注ぐ宇宙の小さな塵の量は年間5000トン以上になるという研究を紹介しました。
他にも地球には隕石などが合計すると年間4万トン以上降り注いでいるといいます。
では、地球は年々重くなっているのでしょうか?
いいえ、実は地球は毎年どんどん軽くなっています。
地球から毎年失われる質量は、おおよそ5万トン以上と考えられています。
なぜ、地球の質量は毎年そんなに失われてしまうのでしょうか?
目次
増減する地球の質量
地球質量が減少する要因
水素をどんどん失って軽くなるって、地球は大丈夫なの?
増減する地球の質量

科学の問題について放送するイギリスBBCのラジオ番組で、以前「地球の質量はどう変化しているのか?」という疑問が特集されました。
この疑問に対して、ケンブリッジ大学の科学者グループが回答しています。彼らの答えは、地球は年々軽くなっているというものです。
なぜ、地球は軽くなっていくのでしょう?
クリス・スミス博士は、この理由を説明するために、地球の質量を増減させる要因について、チラシの裏などを使ってざっくりと推定値を計算してくれました。
地球質量が増加する要因

スミス博士によると、地球の質量を増加させる最大の要因は、宇宙から降ってくる物質です。これは隕石や塵などで、約4万トンと推定されています。
宇宙には小惑星の破片や塵が漂っていて、それを地球の重力は掃除機のように吸い込んでいます。
また、さほど重要な要因ではありませんが、地球温暖化も地球質量の増加に貢献しているといいます。
地球は気温上昇によってエネルギーを獲得しています。この追加されたエネルギー量は、毎年地球に160トン程度の質量増加をもたらしていると推定されています。
ただ、160トンはほんとうに誤差のような質量です。
ともかく、合計すると地球は毎年、だいたい4万1千トン程度、質量を増加させていることになります。
地球質量が減少する要因

では、逆に地球を軽くする要因はなんでしょうか?
人類は多くのロケットを打ち上げて、宇宙へ物質を飛ばしています。
これは地球質量の減少要因になるでしょうか?
この答えはNoです。人類によって打ち上げらたロケットなどの物資のほとんどは、結局地球へ落下してきます。そのため、地球質量の増減にはあまり影響していません。
他には、地球のコアは時間の経過とともにエネルギーを失っているという問題があります。
さきほど温暖化によるエネルギーの増加が質量を増やしているといいましたが、ではコアのエネルギー損失は質量の損失にならないでしょうか?
これは実際わずかな量ですが地球の質量を減少させていると考えられます。しかし、その減少量は年間16トン以下と見積もられています。
これも大きな減少の要因にはなりそうにありません。
では、地球の質量を減少させる最大の要因はなんでしょうか?
それは水素の喪失です。

水素の多くは水として地球に存在し、水蒸気となって大気中にも存在しています。
これは上層へ向かうと、紫外線によって破壊され、酸素分子や酸素原子、水素分子や水素原子とばらばらになっていきます。
水素やヘリウムは非常に軽い元素のため、地球のもっとも高いところまであがっていきます。
地球の外気圏と呼ばれる上空500キロメートル以上の領域は、ほとんど水素とヘリウムで構成されています。
そして、水素やヘリウムなどの軽い元素は、地球の重力ではつなぎとめておくことができずに、そのまま宇宙へ逃げ出してしまうのです。
物理学者の推定によると、地球は毎秒約3キログラムの水素を失っていることが示されています。
これは年間に換算すると、約9万5千トンです。
またヘリウムは、年間約1600トン失われています。
水素をどんどん失って軽くなるって、地球は大丈夫なの?

ここまでの計算を合計すると、結果的に、地球は年間約5万トン軽くなっているということになります。
そんなに? と驚く人もいるかもしれませんが、地球全体の質量から考えた場合、5万トンは非常に小さな値です。
巨大なクルーズ船の半分の質量もありません。
地球全体の質量から見た場合、年間で失われる質量は0.000000000000001%です。これは地球全体の10京分の1という量にすぎません。
しかし、失われている質量のほとんどは水素です。
水素は今後燃料としての利用も考えられていますし、水の主成分でもあります。
とても軽い水素が、毎年5万トンも失われしまったら、地球はいずれ火星のような荒野になってしまうのではないでしょうか?

この心配も、実のところ必要ありません。地球の海や大気に含まれる水素量は、失われる量に対してはるかに膨大です。
仮にこのペースで水素を失っていって、地球の海が干上がるまでの年月を計算すると数兆年掛かる結果になります。
太陽の寿命はおよそ50億年と推定されていて、そのときには地球は膨張して赤色巨星となった太陽に飲み込まれて消えてしまいます。
つまり、地球の寿命よりはるかに長いときが経たなければ地球の水素が枯渇する心配はないようです。
また、余談ではありますが、地球のコアには海水の約80倍(地球全質量の1.6%)におよぶほどの水素が含まれているという研究報告もあります。

でも、軽くなっているということは、地球の重力はだんだん弱くなっていることになるんじゃないでしょうか?
これについても、あまり関係はないかもしれません。
地球の重力は、引力と地球の自転で生じる遠心力の合力で成り立っています。
この地球の自転は、月の潮汐力の影響で徐々に遅くなっています。
自転が遅くなれば遠心力は減るので、結果的に時が経つと地球の重力は強くなってしまう可能性があるのです。

また、地球上の重力というのは実は均一ではなく、地下にどんな構造があるかによって結構変動しています。
そのため、沖縄と北海道では同じ1kgの金を計量しても、重さが1gほどズレるという事実もあります。

結局5万トン程度の水素が、毎年上層大気から失われていっても、地球の重力にとくに影響が出ることはなさそうです。
そんなわけで、長々と説明しましたが、地球は水素を失ってどんどん軽くなっていますが、その影響は特にないようです。
私たちが、ちょっとダイエットを頑張ったところであまり意味がないのと同じことでしょう。
参考文献
Who, What, Why: Is the Earth getting lighter?(BBC)
提供元・ナゾロジー
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