世界の富裕層旅行市場は2024年に22兆円に拡大すると予測されており、コロナ禍から深刻な打撃を受けた観光業界にとって、富裕層旅行者の誘致は回復に向けた鍵の一つとされています。

アフターコロナにおいて富裕層を集客するために、彼らは旅行において具体的にどのようなものを求めているか、どういった旅行傾向や価値観を持っているか、を把握する必要があるでしょう。

本記事では、富裕層旅行の市場規模や旅行タイプなどの特徴について説明するとともに、今後富裕層が求めるコンテンツ作りを進めていくために、日本での先行事例と課題についても紹介します。

目次

  1. 富裕層旅行が観光業界で注目されている理由とは?
    1. JNTOが定める富裕層の定義と2024年の市場規模予測
    2. 富裕層が注目されている理由1. 旅行消費単価が高い
    3. 富裕層が注目されている理由2. 富裕層は大衆層のトレンドをけん引
  2. 富裕層旅行者の特徴
    1. 富裕層旅行者のタイプ
    2. 富裕層旅行者に人気のある観光コンテンツ
    3. 富裕層旅行者の情報収集方法
  3. 日本での富裕層向け観光コンテンツの開発事例
    1. 長崎県|1泊60万円で「特別城主」になれる城泊
  4. 日本における富裕層旅行の課題|コンテンツの不足、受入体制の不十分
  5. コロナ後の富裕層旅行者を誘致するには

富裕層旅行が観光業界で注目されている理由とは?

まずは、観光業界で富裕層旅行が注目されている理由について、富裕層の定義と市場規模に合わせて紹介します。

JNTOが定める富裕層の定義と2024年の市場規模予測

富裕層について、JNTOは「費用制限なく満足度の高さを追求した高消費額旅行を行う市場」かつ「旅行先における消費額が100万円以上/人回」であることと定義しています。

大手テクノリジー調査会社Technavioが発表した「Global Luxury Travel Market 2020-2024」によると、世界の富裕層旅行市場は2020〜2024年の期間で年平均成長率4%で拡大し、2024年には2,130億ドル(約22兆4,000億円)に成長すると予測されています。

旅行タイプ別では、2019年に成長を見せたアドベンチャーツーリズムは今後も引き続き拡大するとされており、地域別では、北米からの富裕層旅行市場は最大の推進力であり、世界全体の富裕層旅行市場の30%を占めると予想されています。

2024年に富裕層旅行市場が22兆円に、観光けん引役の彼らが求める日本の旅とは?
▲Global Luxury Travel Market 2020-2024調査レポート:Technavioプレスリリースより(画像=『訪日ラボ』より引用)

富裕層が注目されている理由1. 旅行消費単価が高い

富裕層が観光業界の次なるターゲットとして注目される理由として、消費単価が高いという点が挙げられます。

JNTOが2017年に欧米豪5市場(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア)を対象にした富裕旅行市場調査では、3億4,100万人の海外旅行者のうちわずか1%、340万人が富裕層旅行者です。

しかし、富裕層旅行者による海外旅行消費額は4.7兆円に達し、全体の13.1%を占めています。

この数字は、2019年3199万人の訪日外国人による4.8兆円の旅行消費額に相当します。

またJNTOの同調査によれば、富裕層旅行者の一人あたりの旅行消費単価は約136万円となり、2019年の訪日外国人の一人あたり旅行消費単価の15.8万より約9倍も多くあります。

2024年に富裕層旅行市場が22兆円に、観光けん引役の彼らが求める日本の旅とは?
▲富裕旅行の市場規模:JNTO(画像=『訪日ラボ』より引用)

新型コロナウイルス感染症拡大前から、訪日外国人旅行消費額は伸び悩みが続いています。

観光庁が発表した2019年の「訪日外国人旅行消費額(確報)」によると、訪日外国人1人あたりの旅行消費額は前年比3.6%増、全体旅行消費総額は前年比6.5%増にとどまっています。

観光庁の「明日の日本を支える観光ビジョン」で掲げた「2030年に訪日外国人旅行消費額15兆円」を達成するには、訪日外国人の旅行消費単価を拡大する必要があり、旅行消費単価の高い富裕層の取り込みが重要といえるでしょう。

また少人数の富裕層旅行者を誘致すれば大きな経済効果が見込めるため、コロナ禍で観光業で求められる「量から質へ」の転換にもつながるでしょう。

富裕層が注目されている理由2. 富裕層は大衆層のトレンドをけん引

富裕層に認められたブランドや富裕層発信で流行したトレンドは大衆層にとっての憧れとなり、社会全体の消費スタイルにも影響を与えます。

そのため、富裕層をターゲットにした観光コンテンツはそのうちに新しい価値観として大衆化が進み、ひいては観光産業全体の旅行消費額の押し上げにもつながると考えられます。

富裕層旅行者の特徴

富裕層は実は多様なタイプが存在しており、それぞれの旅行傾向も異なります。富裕層向けの観光商材を開発するには、まず彼らの特徴を押さえる必要があります。

富裕層旅行者のタイプ

JNTOによると、富裕層旅行者の志向は、大きく分けて「Classic Luxury志向(従来型)」と「Modern Luxury志向(新型)」に分類されるといいます。

Classic Luxury志向は、富や権力を重要と考える傾向にあり、旅行では「ベストサービス」「高い快適性」「社会的地位」などを求めます。

対してModern Luxury志向は、文化や独自性を重要と考え、自身の興味のあるものに対しては高額な消費を行い、贅沢よりも本物の体験を重視する特徴があります。

これまでの富裕層旅行客はClassic Luxury志向が多かったものの、近年では20~30代の若い層を中心にModern Luxury志向が拡大している傾向にあるとJNTOが指摘しています。

さらに、消費性向も大きく2つに分類されます。

1つは旅行の全ての費目で高額消費を行う「All Luxury」です。

飛行機はビジネスクラス以上、ホテルもラグジュアリーなもののみを予約し、プライベートガイドをつけるなど、あらゆる項目で高額消費をします。

もう1つは、優先度の高い事柄に重点的に投資を行う「Selective Luxury」です。

こちらは、宿泊先や飲食は特段お金をかけないものの、美術品に高い興味を持つため美術館を夜間貸し切り、専任ガイドに詳しい説明を聞くためにお金を使うといったように、こだわりの強い部分に関して徹底的に高額消費をするというタイプです。

富裕層旅行者に人気のある観光コンテンツ

前述したとおり、近年本物の体験を求めており、地域ならではの価値に興味関心の高い「Modern Luxury志向」が拡大しており、彼らのニーズに応えられる観光コンテンツの造成が必要となってきます。

具体的に、以下3つの指標があるとJNTOが定めています。

  1. 「コアバリュー」:日本やその地域でしか体験できない価値を提供できるか
  2. 「バリュー提供」:人間国宝に直接に話を聞けたり、特別貸切できたりするなど要望に応じた柔軟な対応とコンテンツ設計があるか
  3. 「商品性」:提供する観光コンテンツは希少性と高額な市場価格であるか

富裕層旅行者の情報収集方法

JNTOが2020年に発表した「富裕旅行市場に向けた取組について」によれば、富裕層旅行者が旅行先を決定する際に、富裕層の友人や知り合い、家族からの口コミ、富裕旅行取扱旅行会社への相談、インターネットやSNSなどの媒体からの収集の3つの情報収集手段があるとしています。

特に富裕層の友人や知り合い、家族の口コミに対して高い信頼感を抱き、意思決定において大きな影響力を持っています。

日本での富裕層向け観光コンテンツの開発事例

ここでは、これまで日本で開発された訪日富裕層向けの観光コンテンツの事例を紹介します。 JNTO×Princess Cruises|富裕層取扱いエージェントを招請したクルーズツアー

1つ目は、日本周遊クルーズを手がけるアメリカ大手クルーズ会社「Princess Cruises」が運航する「ダイヤモンド・プリンセス」を用いた視察ツアーであり、JNTOの招聘事業として行われました。

2019年5月より実施したツアーでは、旅行会社のコンソーシアム(共同事業体)「Ensemble Travel Group」に加盟する約70社140名が乗船客となり、エクスカーションの形式で神戸から出発し、高知、広島、松山、油津など西日本の各地を巡ることで、富裕層取扱いエージェントが販売するクルーズ商品ラインナップに訪日商材の取り込み促進を図りました。

また複数の都市を巡ることにより顧客満足度の高まりが期待できるほか、観光客の地方への分散や、日本を魅力的なクルーズデスティネーションとしてアピールすることも狙いとしました。

長崎県|1泊60万円で「特別城主」になれる城泊

2つ目は、長崎県平戸城によって造成した、訪日富裕層をターゲットにする平戸城に泊まることができる宿泊プランです。

2017年に日本で初の城泊イベントが開かれ、当時は1組の無料招待に対して、国内外から約7,500組の応募が殺到し、そのうち半数以上はヨーロッパからの応募がきました。

2021年4月1日より、常設城泊施設「平戸城CASTLESTAY懐柔櫓」が開業されました。1日1組限定で、宿泊料金は1泊最大60万円です(素泊まり、税別)。

内部は桃山〜江戸時代の美意識を意識した豪華な内装で、日本の伝統美と現代のモダンを融合させた贅沢な空間となっています。

この施設では平戸の食、歴史、アート、文化を体験できる様々なオプションを提供し、宿泊客の要望に合わせてカスタマイズすることが可能です。

平戸城の城泊を展開することによって、コロナ収束後欧米を中心とした富裕層を誘致し、平戸のインバウンド集客に寄与することが期待されています。

日本における富裕層旅行の課題|コンテンツの不足、受入体制の不十分

富裕層旅行市場は注目されている一方、日本の獲得分がまだ少なくて、上述したJNTOの調査によれば、訪日富裕層旅行者数はわずか4万9,000人、と全体富裕層海外旅行者数の1.4%しかありません。

彼らによる旅行消費額は618億円にとどまり、全体富裕層海外旅行者の旅行消費額の1.3%のみです。

観光庁の上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会は、今後富裕層旅行客の誘致を行っていく上で、5つの課題が挙げられるとしています。

まず、富裕層旅行者向けのコンテンツが不足していることです。

地方の富裕層向け観光コンテンツや日本ならではの本物の体験ができる旅行商品が求められています。

次に、富裕層旅行者の受入体制が整っていないことが考えられます。

施設の貸し切りや、時間外対応が可能なコンテンツを提供したり、地方でも高級車を手配できるようにしたり、ハラールなど多様な食事提供を可能にしたりと、富裕層旅行者一人ひとりに最適なプランを提供できるような体制作りが必要です。

3つ目は、富裕層旅行者に対応できる案内人の育成です。

案内人は言語はもちろん、富裕層旅行客の国の文化を十分に知っていることも求められます。

4つ目は、富裕層を扱うコンシェルジュやランドオペレーターの育成です。

富裕層旅行客一人ひとりの価値観や好みに合わせたプランを提案できるコンシェルジュを育て、海外の富裕層向け旅行会社が信頼をおけるような日本の事業者を育成する必要があります。

最後に、高級宿泊施設の拡充が求められます。

地方における高級志向ホテルの建設や、ユニークなテーマをしたホテルの開発などが必要です。

コロナ後の富裕層旅行者を誘致するには

富裕層向けの旅行市場において、日本の観光業も富裕層を取り込むためのコンテンツ作り、体制作りをしていく必要があります。

昨今はModern Luxury志向という現地ならではの体験かつ文化的な体験に高額消費をする富裕層が目立ってきており、彼らにとって価値のあるコンテンツ開発を行うことがインバウンド事業者にとって重要な課題となります。

コロナ収束後の観光需要の回復に向けて、ターゲットのニーズを踏まえた観光商材の見直しと磨き上げが求められるでしょう。

文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ

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