無意識であっても学習ができるようです。
3月4日に『Neuron』に掲載された論文によると、サルの脳に電気刺激をおこなうことで、視覚から得られた情報を無意識的に記憶させることに成功しました。
この結果はある条件下において、脳が意識を必要とせずに記憶を保存できることを示しています。
この仕組みを人間にも応用できれば、教科書の内容を丸暗記してテストに挑むといった「脳内カンニング」が可能となるかもしれません。
目次
研究の背景「好きな内容なら無意識でも記憶可能」
実験内容「記憶するだけなら意識も注意も努力も必要なし」
この研究のスゴイところ「人間に応用できれば暗記科目は脳内カンニングできる」
研究の背景「好きな内容なら無意識でも記憶可能」

(画像=Credit:Canva,『ナゾロジー』より引用)
苦労してとりかかる勉強や仕事の内容がさっぱり記憶できない一方で、好きなゲーム画面や推しキャラのプロフィールなら、簡単に覚えられます。
この不思議な現象は、古くから脳科学において重大なテーマでした。
近年の研究により、その不思議現象を解き明かす鍵となるのは、脳に快楽を与えるドーパミンだと分かってきました。
目にしている内容に対して脳がドーパミンを分泌すると、快楽を感じられ、情報は驚くべきスムーズさで脳内に定着していくのです。
反対に、快楽を感じない内容に対して、脳は非常に冷淡であり記憶の定着は遅々として進みません。
結果として、苦労して覚えた英単語や仕事を、3日も経たないうちに完全に忘れてしまう…という悲劇が起こります。
脳科学において「覚えたければ好きなる」ことが、鉄則だといえるでしょう。
ですが今回、ドイツのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)の研究者たちは、さらに一歩進んで、記憶における意識の必要性を検証してみました。
快楽を感じさえすれば、脳は意識を必要とせずに、自動的に情報を記憶できるかもしれないのです。
実験内容「記憶するだけなら意識も注意も努力も必要なし」

(画像=Credit:ナゾロジー,『ナゾロジー』より引用)
純粋な視覚情報の記憶に「意識」は必要なのか?
謎を解くために研究者たちは普通のサルと、「報酬系」を電気刺激したサルに対してさまざまな作業を同時並行でおこなわせました。報酬系とは快楽を感じる脳の回路のことです。
そしてさまざまな作業をしているサルの視界に「ぼやけた人型」の画像を提示しました。
これは人間で例えるならば、スマホで通話やメールをしているときに、急に突きつけられた画像を記憶するのと同じです。
結果、普通の状態のサルは作業に忙殺され、画像を記憶できませんでしたが、快楽の回路を刺激されているサルは画像を覚えることができました。
この結果は、快楽を感じているときは意識や努力を必要とせずに視覚情報を自動で保存できることを示します。
また作業後のサルの脳の状態をスキャンした結果、快楽を得ていたサルの脳は血流が増加し、より活発に働いていたことが示されました。
この研究のスゴイところ「人間に応用できれば暗記科目は脳内カンニングできる」

(画像=Credit:Canva,『ナゾロジー』より引用)
今回の研究で、快楽を伴った状態がサルの脳を「自動記憶装置」のように変えられることを示しました。
この結果は、脳は無意識の状態でも視覚情報を記憶ができることを示唆しています。
もし同じ仕組みが人間の脳にある場合、脳刺激と組み合わせることで教科書を丸暗記するような自動記憶が可能になるかもしれません。
ただこの場合、教科書の内容はあくまで風景の一種として記憶されるため、テストで点数を取るには記憶した内容を「脳内で改めて読書する」という過程が必要となるでしょう。
それでも、暗記科目では「脳内カンニング」となって絶大な効果を発揮すると期待されます。
また快楽の回路を作動させる仕組みは、パーキンソン病や外傷性脳損傷などドーパミン不足が関連する認知症治療にも応用できます。
ただし、快楽を自動で引き出す仕組みを使いすぎると、脳がドーパミン中毒になる危険性があるので要注意かもしれません。
ビリビリするのは嫌なので、電気刺激以外で脳にドーパミンをさせる手法の確立に期待ですね。
参考文献
Researchers discover how the brain learns from subconscious stimuli
元論文
Electrical stimulation of the macaque ventral tegmental area drives category-selective learning without attention
提供元・ナゾロジー
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