29個の石器のうち、「同じ石から割り出された破片同士」が一致したのはわずか1組だけだったのです。
ふつう、一つの場所でまとめて石器を作る場合は、同じ石から取れた破片がもっと多く含まれるはずです。
つまり、このセットの石器は「その場でまとめて作られた」のではなく、狩人が旅や狩りをしながら様々な場所で手に入れたり、他の人から受け取ったりした道具を「自分の道具袋」に集めたものと考えられるのです。
こうした細かな調査結果から、この道具セットの持ち主である狩人は、かなり長い距離を移動しながら生活していたことが見えてきました。
遠出をするときには、必要最低限の道具だけを袋に入れて持ち歩き、動物の狩りや食料の解体、毛皮の加工といった色々な作業にそれらを使ったのでしょう。
しかし、道具は使えば当然消耗していきます。
石器が割れたり欠けたりすると、その破片を新しい道具として再利用したり、可能な限り研ぎ直して再び使ったりしました。
これは資源が限られた環境で生活するための「節約の工夫」と言えます。
旧石器時代の狩人の謎—なぜ道具を残したか?

今回の発見がとても重要でユニークなのは、「3万年前の狩人がどのように道具を持ち歩き、使い続けていたか」という個人の暮らしぶりを鮮やかに教えてくれたからです。
普通の旧石器時代の研究では、たくさんの人が使った道具が混ざり合い、一つ一つの道具の持ち主や使い方を特定することは難しいものです。
しかし今回は、一人の狩人の個人用道具箱がほぼ完全な状態で見つかったため、「その人が実際にどのように暮らし、道具を工夫していたか」という具体的なストーリーが浮かび上がりました。
特に興味深いのは、この狩人が壊れた道具さえ無駄にせず、大切に再利用していたという点です。
現代の私たちも、資源を節約して再利用する「リサイクル」が重要であることを知っていますよね。