研究者はまず、これらの石器の表面を顕微鏡で詳しく調べていきました。
すると、ほとんどの石器(29個中25個)に「使われた跡」が残っていることが確認できました。
これは、石器が実際に動物の皮や肉を切ったり、木や骨を削ったり、さらには何かに穴を開けたりするのに使われていた証拠です。
さらに興味深いことに、刃の部分を柄に装着した「ハフティング」 と呼ばれる跡も、29個中4個の石器で見つかりました。
つまり、この狩人は石器を手で直接握るだけでなく、木の棒などに固定してナイフや槍・矢の先端として道具化していた可能性があります。
なかでも特に注目すべきなのが、先端が尖ったタイプの小型石器です。
これは動物を狩るときに使う投げ槍や矢の先端に使われた可能性がありますが、狩りで獲物に当たった衝撃によって特有の形で破損するため、顕微鏡で見るとその痕跡がわかります。
今回、6点の石器にそうした痕跡が見つかりました。
ただし、このうち明確に投げ槍や矢の先として使われたと痕跡がみられたのは1点のみで、他の5点は「投げ槍や矢に使われた可能性がある」というレベルの結果でした。
次に、研究者は「石器の材料」に注目しました。
石器は基本的に「石」を削って作りますが、実はその石はどこでも簡単に手に入るわけではありません。
ただ石を見ただけでは、どこで取れたものかを正確に判断するのは難しいため、「レーザーを使った元素分析」という特別な方法を用いました。
これは石の成分をレーザーで測定し、石ごとの特徴的な「化学的な指紋」を調べる方法です。
こうすることで、どの石がどの地域から来たのかをかなり正確に知ることができます。
この分析の結果、石器の大部分(29点中19点)は「フリント」と呼ばれる火打石でした。
このフリントは遺跡の北側約130kmも離れたチェコ北部やポーランド付近の氷河堆積物から運ばれてきたものでした。
さらに「ラジオラライト」と呼ばれる珪質岩も7点含まれており、こちらは南東のスロバキア西部(約100km離れた地域)の石に成分が近いことが分かりました。