もちろん、このような現象が実験で実現されるまでにはまだ課題がありますが、もし実現できた場合の影響は非常に大きなものになるでしょう。

例えば、量子コンピューターの性能を飛躍的に向上させたり、極めてわずかな変化を見逃さない超高感度なセンサーを作ったりすることが考えられます。

それはなぜかと言うと、こうした量子的な重ね合わせ状態(シュレディンガーの猫状態)は、多数の粒子が一斉に協力し合っているため、ごくわずかな外からの刺激(摂動)にも非常に敏感に反応するからです。

この性質を利用すれば、「究極の精度を持つ計測器」のような、まったく新しい装置が生み出せる可能性があります。

また、量子コンピューターにおいて非常に重要な課題である「誤り訂正」という分野でも、このような猫状態を応用する方法が将来的に議論される可能性もあります。

とはいえ、現時点では、この研究はあくまで理論的な研究段階です。

実際の実験による検証はこれからの課題ですが、今回の発見は量子力学の常識を大きく変える可能性を秘めていることは間違いありません。

これまで「測定は量子の状態を壊すものだ」と言われてきた常識を覆し、「測定するからこそ新しい量子状態が生まれる」という逆転の発想が、理論的な解析とコンピューターシミュレーションによって初めて明確に示されたからです。

有名な「シュレディンガーの猫」のたとえ話では、「箱を開けて観測すると猫の量子状態が壊れて死ぬか生きるか決まってしまう」とされていますが、今回の研究成果を例えて言うなら、「箱の中の光を測定することで、逆に猫が再びよみがえる」ようなことが可能になるかもしれない、というわけです。

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元論文

Inducing macroscopic cat states of nonequilibrium electrons via cat-state light irradiation and projective measurements
https://doi.org/10.48550/arXiv.2508.11769