新型コロナウイルスの感染拡大により多くの産業が業績を悪化させているにも関わらず、自転車の売上が世界中で好調です。もともとヨーロッパでは地球環境に優しい乗り物として自転車が活用されていましたが、最近は日本でも密を避けることができるレジャーとしてサイクリングの人気が高まっています。

こうした自転車熱の高まりを受け、日本の国土交通省もサイクルツーリズムの拡大と促進に力を入れています。

今回の記事では、こうした自転車熱の高まりを背景とした日本国内のサイクルツーリズム事業について、その課題ともにご紹介します。

目次
コロナの影響で国内外でも自転車が話題に
▶日本でのサイクリング熱の高まり
▶世界各地でも自転車人気が加熱
国内でのサイクルツーリズムの取り組みについて
▶国土交通省が推進するサイクルツーリズムとは
▶観光資源活用を重視したナショナルサイクルルートとは
▶ナショナルサイクルルート以外でも、国内各地でサイクルツーリズムが推進
サイクルツーリズムの課題
▶サイクルルートとして知名度が低いところが多い 個人消費額が伸び悩む
コロナ禍で自転車に対する人気が高まっている

コロナの影響で国内外でも自転車が話題に

近年、世界中で高まっているサイクリング熱について、次のような具体例があります。

日本でのサイクリング熱の高まり

まず、自転車販売の国内最大手企業であるサイクルベースあさひの2021年2月度月次営業速報によると、同社の売上高が2020年6月からほとんどの月で前年より増加しており、特に2020年12月の売上高は前年比の1.5倍であったことが報告されています。また、同社の累計売上高も2020年6月以降は前年比より約1.1倍増加しているとのことです。

また、新型コロナウイルス感染拡大前と比べて、ドコモのバイクシェアサービス登録人数が、2~5割も増加していることを報道する記事もあります。

世界各地でも自転車人気が加熱

こうしたサイクリング熱の高まりが見られるのは、日本だけではありません。もともとヨーロッパでは地球温暖化対策として自転車に乗る人が少なくありませんでしたが、今回の新型コロナにより公共交通機関の利用を避けるために自転車に乗る人が急激に増加しました。 例えば、フランス政府は新型コロナウイルス感染拡大後に、自転車の修理やアップグレードに対し補助金を導入することを決定しました。 また、2020年9月20日のAFP通信の報道では、国内にある「コロナピスト」と呼ばれる自転車専用レーンの交通量が2019年と比較して約30%も増加したことも報じられています。 加えて、自転車の設置型計測器を手掛けるフランスの企業エコカウンターによると、2020年6月上旬の2週間、ドイツ、フランス、イギリスで外出制限が解除された後には自転車の利用者数が急激に増加していることが指摘されています。 こうした海外での自転車熱の高まりの恩恵を受けている日本企業が、東証一部上場の自転車部品会社シマノです。シマノの2020年12月期決算短信〔日本基準〕(連結)によると、ヨーロッパでの自転車部品需要が急激に増加した結果、2020年12月のシマノの経常利益が前年と比べて18%も増加しました。

国内でのサイクルツーリズムの取り組みについて

こうした世界規模での自転車熱の高まりを受け、日本でも、主に国土交通省がサイクルツーリズムの推進に取り組みはじめています。

国土交通省が推進するサイクルツーリズムとは

国土交通省が推進しているサイクルツーリズムでは、国内外からの観光客の誘致を目的とした国際的なサイクリング大会に対する支援の在り方を検討したり、サイクリングロードを整備したり、自転車とサイクリストを同時に運ぶ運搬方法としてのサイクルトレインを整備することなどを行っています。 そうした中でも特に国土交通省が力を入れているのが、ナショナルサイクルルートの制定です。

観光資源活用を重視したナショナルサイクルルートとは

ナショナルサイクルルートとは、一定の基準を満たすルートを国が指定することにより、国内外にPRを行って、サイクルツーリズムを推進するエンジンにしようというものです。 特に観光資源と自転車の走行環境や休憩・宿泊機能、情報発信など様々な取組を連携させるサイクルツーリズムを推進することで、日本における新たな観光価値を創造することを目的としています。 ナショナルサイクルルート選定にあたり、国が求める基準は次の5点です。 1. ルート設定(安全で魅力的なルートであること) 2. 走行環境(誰もが安全快適に、迷わず走行できる環境を備えていること) 3. 受入環境(多様な交通手段に対応したゲートウェイが備えられていること。緊急時のサポートが得られる環境であること等) 4. 情報発信(容易に情報が得られる環境であること) 5. 取組体制(官民連携によるサイクリング環境の水準維持等に必要な取組体制が確立されていること)
コロナ禍で空前の「自転車」人気、関連企業は利益大幅増:国交省も推進する「ナショナルサイクルルート」とは一体なにか?
(画像=▲ナショナルサイクルルート 公式サイト:国土交通省、『訪日ラボ』より引用)
具体的には、ルート総距離が約100kmぐらいであること・路面や案内表示板を設定すること・鉄道駅などにレンタサイクルや着替え場所等を備えた「ゲートウェイ」を整備すること・サイクルステーションや宿泊施設を設置すること等が求められています。 また、走行中に魅力的な地形あるいは有名な観光地を通るルートであることが非常に重要な条件となっています。 これは、ナショナルサイクルルートを海外にPRする際に、「あの有名な観光地を自転車で通ることができるルート」として海外にアピールする事を狙いとしています。 2021年3月に国土交通省の自転車活用推進本部は、あらたなナショナルサイクルルートとして、「トカプチ400」(北海道)・「太平洋岸自転車道」(千葉、神奈川、静岡、愛知、三重、和歌山各県)・「富山湾岸サイクリングコース」(富山県)の3ヶ所を候補とすることを決定しました。 今回候補となった3ヶ所のルートは、それぞれ特徴があります。まず、「トカプチ400」とは、帯広市を起点に上士幌町から大樹町までを8の字で結んだルートで、総延長403キロ・獲得標高2,617メートルのコースです。北海道の中でも比較的平坦な地形の多い十勝の大地を走るルートです。 「太平洋岸自転車道」は神奈川県から始まって和歌山県に至る約1,400キロメートルの大自転車道構想です。基本的に太平洋側の海岸沿いを走ることになり、富士山など日本の代表的な風景を眺めることができます。 そして、「富山湾岸サイクリングコース」とは、高岡市をスタート・ゴールとする180キロメートルのコースで、能登半島の南東側が舞台となります。この地域は氷見温泉郷のある地域でもあり、また富山湾越しに立山連峰が見えるコースでもあります。

ナショナルサイクルルート以外でも、国内各地でサイクルツーリズムが推進

ナショナルサイクルルートは国が指定するものですが、それ以外にも各地方自治体が独自にサイクリングルートを制定することで、サイクルツーリズムを推進しようという動きも見られます。 例えば、今年の東京オリンピック・パラリンピックで自転車競技(ロード及びトラック)の会場となっている静岡県では、五輪後もサイクルツーリズムを推進しようと取り組みが進められています。 特に静岡県が力をいれて国内外にアピールしているサイクリングルートの一つが、通称「ハマイチ」と呼ばれるコースです。浜名湖の周囲を自転車でめぐるこのコースは距離が65kmと短く、またコース中に富士山が見えるポイントがあるなど、サイクリング初心者も楽しむことができるコースであることが、特徴となっています。 また、サイクリングルートに関する情報を国内外に公開することに力を入れている都道府県もあります。 和歌山県は「WAKAYAMA800」と名付けたサイクリングルートを設置すると同時に英語や中国語はもちろんスペイン語なども含めた全9ヶ国語でWEBサイトを開設しています。 また、岐阜県では、すでにナショナルサイクルルートに指定されている「ビワイチ(琵琶湖一周コース)」を走るサイクリストをサポートする施設などの情報を積極的に公開しています。 このように、世界中からサイクリストを招致するため、国だけでなく、地方自治体もいろいろ対応策を考えているのが、現在の日本のサイクルツーリズムの現状です。

サイクルツーリズムの課題

一見したところ明るい話題の多いように見えるサイクルツーリズムですが、この分野の観光を発展させるためには、いくつか課題が存在します。ここでは、代表的な2つの課題を検証します。

サイクルルートとして知名度が低いところが多い

まず、第1の課題は「ナショナルサイクルルートの候補地として上がっている地域は、国内でもあまり知名度が高くない」ことです。

この問題は北海道開発局が発表した「情報提供・サイクリストとのコミュニケーション方策について」という報告書の中でも指摘されています。

しかし、ナショナルサイクリングルート選定にあたっては、観光地として知名度のある場所を連携していることが条件の一つとなっています。そうした有名な観光地を通るルートとしてPRすることにより、サイクルルートの知名度を向上させる事が可能になるでしょう。

個人消費額が伸び悩む

もう一つの課題は、他の旅行者と比較するとサイクリストの個人消費額が低いため、「サイクルツーリズムによる経済効果は薄いのではないか」ということです。

平成29年(2017年)に中国経済産業局(中国地方5県の経済産業省の代表機関)が発行した報告書では、サイクリングを利用した人の観光消費額は少ない傾向があることを指摘しています。

同報告書によると、サイクリストの旅行予算は1万円以下の人が最も多いということです。この金額は、観光庁が調査した1人1回あたりの旅行支出平均である26,935円(2020年10月〜12月 速報)と比較しても低い数字です。

自転車で移動する旅行に対して手荷物となるようなモノ消費での需要喚起は、旅ナカの施策としてはなかなか難しいかもしれません。

宿泊施設や食事、温泉といったコト消費的なアプローチでのコンテンツ造成に可能性があるといえます。

コロナ禍で自転車に対する人気が高まっている

以前から地球温暖化対策の一環として、サイクルツーリズムはヨーロッパなどで人気の旅行形態でした。しかし、最近は新型コロナウイルスの感染対策をしながら楽しむことができるレジャーとして、日本国内でも人気が高まっています。

こうした流れを受け、日本でもサイクルツーリズム促進のための諸制度も徐々に整いつつあります。

有名な観光地を通るサイクリングルートとしての知名度を上げるためのナショナルサイクリングルートも、北海道を始めとして新たに3ヶ所が指定されました。

こうしたサイクルツーリズムは、コロナ禍が終わり観光旅行が自由にできるようになったときには、訪日観光客が新たに注目する一大マーケットになる可能性があります。

現時点ではサイクルツーリズムの知名度はあまり高くないというところが実情でしょう。そして、サイクリストの個人消費額が伸び悩んでいるという調査もあります。今後は適切なPR戦略と、サイクリストのニーズに合わせたコンテンツの造成が必要といえるでしょう。

文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ

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