たとえば、まったく同じ服を着た双子がいて、どちらがどちらかわからないとします。

そんなふうに粒子どうしが区別できないとき、量子の不思議な相関が生まれる可能性があります。

実は1990年代にも似たアイデアがありました。

Zou、Wang、Mandelという研究者たちは、光子(光の粒)がどこから来たかがわからなくなると干渉という現象が起きることを示しました。

これは「フラストレーション干渉」と呼ばれるものです。

ただし当時の実験では、こうした効果はあくまで「局所的(近くの粒子どうし)」なものでした。

今回の研究チームはこのアイデアをさらに発展させ、遠く離れた粒子どうしの間でも同じようなつながりが起こせるかを検証しようとしたのです。

果たして本当に量子もつれなしに量子間の通じ合いが可能だったのでしょうか?

「わからないこと」が量子的通じ合いを生み出す

「わからないこと」が量子的通じ合いを生み出す
「わからないこと」が量子的通じ合いを生み出す / Credit:川勝康弘

量子もつれなしに量子間の通じ合いが可能なのか?

謎を解明するため研究チームは、光の粒(光子)を発生させるための特別な結晶を使いました。

全部で4つの光子発生装置を用意し、それぞれから2つずつ光子が生まれるように設計されました。

この4つの光源には同時にレーザー光を照射し、そこから光子のペアが放出されます。

ただし、発生した光子はそれぞれ異なるルートを通って検出器に向かうものの、途中でルートが重なり合うように調整されています。

その結果、どの光子がどの光源から生まれたのかを、外部からは完全に特定できない状態が作り出されます。

このようにして「見分けがつかない状態(識別不能性)」を意図的に作ることで、量子もつれによらず、光子どうしに特別なつながり(相関)が生まれるのではないか、と研究者たちは考えました。

さらに、光子の周波数や進行方向といった情報が原因で、知らず知らずのうちに「量子もつれ」が生まれてしまわないよう、特殊なフィルターや細い光ファイバーを使って、その影響を可能な限り排除しています。