たとえば、1つの粒子の状態が「表」と決まると、もう1つはすぐに「裏」となります。
たとえそれが地球の反対側にあっても、銀河の端と端にあっても同じです。
これは「片方を測定したからもう片方が消去法で決まる」のでも「測定した情報や影響がもう片方に伝わって決まる」のでもありません。
2つの粒子は測定される瞬間まで、表でも裏でもない重ね合わせ状態を“共有”しています。
しかし測定すると同時にその共有状態全体が一気に決まり、遠く離れた相手の粒子も瞬時に釣り合いが取れるのです。
ノーベル物理学賞「量子もつれ」をわかりやすく解説
このような変化は私たちの直感では説明できません。
しかし、量子もつれが本当に存在することは数十年にわたる実験で確かめられてきました。
その証拠として使われてきたのが「ベルの不等式」という考え方です。
ベルの不等式は1964年に物理学者ジョン・ベルが考案した理論です。
もし世界が古典物理のルールだけで動いているなら、粒子どうしのつながりの強さには上限があります。
しかし量子もつれが存在すると、その限界を超える結果が出てしまいます。
実際、多くの実験がこの不等式を破ってきました。
そのことから「ベルの不等式が破れる=量子もつれがある」という考え方が長い間信じられてきました。
2022年には、この研究分野に取り組んできた科学者たちがノーベル物理学賞を受賞しました。
でも、ここで疑問が生まれます。
「もし量子もつれがまったくない状態でベルの不等式が破られたらどうなるのか?」
ふつうに考えると、それは「ありえない」と思うかもしれません。
なぜなら、これまで非局所的なつながりは量子もつれによってしか説明できないとされてきたからです。
しかし今回の研究チームは、違うアイデアを試しました。
それは「粒子がどこから来たのか、はっきりわからないようにする」ことです。
この「区別がつかない」という状態自体が新しいタイプのつながりを生むかもしれないと考えたのです。