物理法則に従わない「新たな粒子」が発見される
(画像=『ナゾロジー』より引用)

私たちが知っている物質のほとんどは、物理法則に従っています。

例えばある物質に強い力を加えると物質の加速度は増加します。また物質の質量が増加するなら加速度は減少するでしょう。

しかし、ロシア・スコルコヴォ科学技術大学数学科に所属するニコライ・ブリリアントフ氏ら研究チームは、コンピュータ・シミュレーションの中で、物理法則を無視する「渦巻状」の集合物質を発見しました。

詳細は、2020年10月8日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

目次
活動する集合体「アクティブマター」
物理法則を越えた「渦巻状」のアクティブマターを発見
アクティブマター粒子は分子と異なる振る舞いをする

活動する集合体「アクティブマター」

水族館に行ったり、自然を観察したりすると、魚や鳥、また昆虫の群れが、1つの大きな生き物または物体のように移動するのを観察できます。

それぞれの個体が自発的に動いているのに、全体として1つの物体のように振る舞うのです。

この集合体は「アクティブマター(英訳:active matter)」と呼ばれており、これらには共通するメカニズムや秩序があると考えられています。

物理法則に従わない「新たな粒子」が発見される
(画像=鳥のアクティブマター / Credit: John Holmes / wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

アクティブマターの概念を理解するには、通常の物質と比較すると分かりやすいかもしれません。

通常の物質は小さな粒子が集まってできています。

例えば、氷は複数の原子や分子が集合してできたものですが、物質として物理法則に従っています。

では、その粒子1つ1つが受動的ではなく能動的、つまり自ら動く場合、その集合体や個々の粒子は何らかの規則に従うのでしょうか?

またその集合体は物質と言えるのでしょうか?

科学者たちは、それら自己駆動粒子の集団を「アクティブ(活動的な)マター(物質)」つまり、ある種の物質と捉えています。

そして私たちも知るとおり、それら粒子は無秩序に運動するのではなく、相互作用によって規則的な動きをします。

実際、鳥や魚などの生物、また非生物の「ヤヌス粒子」はアクティブマターとして観察されます。

ブリリアントフ氏も、「世界に存在する物質の多くはアクティブマターであり、自主的に動いている」と述べています。

物理法則を越えた「渦巻状」のアクティブマターを発見

物理法則に従わない「新たな粒子」が発見される
(画像=イワシの群れがつくる渦のような状態を発見 / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

分子が密に集合した状態を固体と呼ぶように、アクティブマターにもさまざまな状態があります。

そして研究チームは、アクティブマターの新しい状態を探すためにコンピュータ・シミュレーションを利用。

シミュレーション内で自己駆動粒子をつくり、これまで観察されていない集団としての振る舞いや法則を探したのです。

ちなみに、シミュレーションで用いた自己駆動粒子は、エネルギーをもつバクテリアのようなものですが、情報処理能力は与えていません。

研究の結果、チームは渦巻状のアクティブマターを発見。

物理法則に従わない「新たな粒子」が発見される
(画像=いくつかの「渦巻状のアクティブマター」が形成される / Credit:Nikolai V. Brilliantov、『ナゾロジー』より引用)

これは海や水族館で見られる「イワシの群れがつくる渦のようなもの」とのこと。

研究チームはこの状態を「スワロニック(英訳:swirlonic)状態」と名付けました。

そしてスワロニック状態では、それぞれの粒子がニュートンの第二法則を無視すると判明。

相互作用によって動いている粒子は、そこに力が加わっても加速しなかったのです。

ブリリアントフ氏は、「粒子はただ一定の速度で動いており、これは大変驚くべきことです」と述べています。

アクティブマター粒子は分子と異なる振る舞いをする

また今回の研究では、アクティブマターの粒子が分子とは異なった動きをすると判明しました。

通常、分子などの受動物質は複数の状態で共存できます。

例えばコップの水が蒸発するとき、一気にすべてが気体になるわけでありません。蒸発のプロセスは徐々にすすみ、そこには液体と気体という2つの状態が共存します。

物理法則に従わない「新たな粒子」が発見される
(画像=(左)すべての粒子が気体のように振る舞う , (右)すべての粒子が液体のように振る舞う / Credit:Nikolai V. Brilliantov、『ナゾロジー』より引用)

対照的にアクティブマターでは、それぞれの粒子が異なった状態で共存しません。

液体のように密集するのであればすべての粒子が密集状態になり、気体のようにそれぞれが離れるのであれば、すべての粒子が離れた状態になるのです。

さて今回は、シミュレーションによる基礎的な研究がおこなわれたにすぎません。いずれ現実世界のアクティブマターを使って実験する必要があるでしょう。

今後研究チームは、情報処理能力がある粒子を用いて、さらに複雑なシミュレーションをおこなう予定です。

そのような粒子は現実世界の昆虫や動物により近いものとなり、群れを支配する物理法則を解き明かすのに役立つでしょう。


参考文献
Meet the swirlon, a new kind of matter that bends the laws of physics

元論文
Swirlonic state of active matter


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功