今の宇宙論では、「ビッグバンは宇宙の始まりそのものではない」という考え方が一般的なのです。

現代宇宙論では、ビッグバンというのは、宇宙が高温高密度の「火の玉」状態になった瞬間、つまり「宇宙が熱くて密度が濃い状態になった時点」を指します。

これが2つ目のより現代的なビッグバンの解釈です。

そして重要なポイントは、その「高密度な火の玉状態」よりも前に、宇宙は既に存在していたと考えられていることです。

では、「火の玉状態」以前の宇宙はどうなっていたのでしょう?

現代宇宙論によれば、宇宙の歴史は「インフレーション」という出来事から始まりました。

インフレーションとは、宇宙がごくごく小さいサイズから、わずかな瞬間で膨大なスケールに膨らんだ急膨張の現象です。

風船を一瞬で宇宙規模にまで引き伸ばすような、激しい【空間そのものの膨張】です。

このインフレーション中の宇宙には、粒子も星も銀河もなく、ただ「真空エネルギー」と呼ばれる特殊なエネルギーが存在するだけでした。

ここで言う真空エネルギーとは、普通の物質とは違い、空間そのものが持つエネルギーのことです。

この真空エネルギーが、インフレーションという猛烈な膨張を引き起こしました。

風船を膨らませるには内部に空気の分子という物質を注入する必要がありますが、このインフレーションが引き起こしたのは物質ではなく空間に存在する真空エネルギーそのものです。

そのためこの段階の宇宙は「物質の概念と連動する意味での高密度状態」ではありません。

なにしろ通常の物質としての粒子は一切存在せず、真空エネルギーが空間全体に広がっているだけなので、「粒子の密度」という概念自体が存在しない状態なのです。

では宇宙はいつごろビッグバンが起こる「高密度状態」になったのでしょうか?

それは、このインフレーションが終了する瞬間に起こります。

インフレーションが終わると、それまで空間全体を満たしていた真空エネルギーが一気に粒子へと変換されます。