こうした不思議な現象を見つけるたびに、科学者たちは「見えない重力の源」が宇宙には隠されているのではないか、と考えるようになったのです。

では、暗黒物質はどこからやってきたのでしょうか?

これまでの主流な考え方は、暗黒物質はおよそ138億年前のビッグバンの直後に生まれたというものでした。

宇宙が誕生した瞬間は極めて高温で高密度のエネルギーが満ち溢れ、通常の物質(私たちを構成する原子や素粒子)だけでなく、暗黒物質も一緒に生成されたと考えられたのです。

まさに「宇宙の残りかす」とでも呼べるような存在として、ビッグバン以降ずっと残ってきたとされてきました。

科学者たちは長年、この説に基づいて暗黒物質を地上の実験で捕まえようと試みましたが、今のところ成功していません。

地下深くに埋められた高精度の検出器や、巨大な粒子加速器を使った実験でも、暗黒物質の痕跡を一切捉えることができなかったのです。

「暗黒物質がビッグバン由来なら、これほど探しても見つからないのはなぜだろう?」という疑問が、科学者の間で強まっていました。

こうした状況を打開するため、最近、ジョンズホプキンス大学の研究者トミ・テンカネン博士らが、これまで誰も考えなかった大胆な仮説を提唱しました。

それは、「暗黒物質はビッグバン以前に作られた可能性がある」という驚くべきアイデアでした。

ただ注意すべき点があります。

「ビッグバン以前」というと宇宙誕生前を意味すると思うかもしれませんが、違います。

現代宇宙論では「ビッグバン」という言葉は2通りの意味で使われています。

一つ目は、「宇宙の始まりそのもの」を意味する場合。

実際、私たちが子どもの頃に読んだ科学雑誌や教科書には、「宇宙はビッグバンという大爆発から始まり、その名残が宇宙背景放射として今も残っている」と説明されていました。

しかし、現代宇宙論の最前線では、このビッグバンという言葉の意味合いが微妙に変化しています。

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Credit:早稲田大学