そこで研究チームは、この「7₁」の結び目を2つ用意して、一本の紐に順番に作り、「結び目の列車」のようにつなげて新しい結び目を作りました。

ここで直感的に考えると、1つの「7₁」をほどくためには3回の操作が必要なので、2つつなげた場合、3回+3回の合計で6回ほどかなければ完全に絡まりが解けないはずです。

しかし、これまで誰も厳密に確かめていなかったため、研究者たちは本当にそうなるかどうかを確かめるために詳しく調べてみることにしました。

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新たな結び目をじっくり調べると、次にもう1回だけ紐の上下を入れ替える操作を行うだけで、さらにほどきやすい絡まり方(研究者が「K15n81556」と呼んだ結び目)に変化することが分かったのです。そしてさらにこの「K15n81556」という結び目を調べた結果、たった2回の追加操作で完全にほどけることが判明しました。/Credit:Unknotting number is not additive under connected sum

すると最初に複雑だった2つの「7₁」結び目をつなげた状態から、たった2回の操作で、やや簡単な絡まりに変化しました。

次にその絡まりをさらに1回の操作で、もっと簡単な絡まりに変えることができました。

そして最後に、その簡単になった結び目を2回の操作だけで完全にほどくことができたのです。

こうして最初の状態から完全に絡まりが解けるまでに必要だった操作回数は「2回+1回+2回」で、合計5回だけでした。

これには研究者たちも驚きを隠せませんでした。

なぜなら、当初は「3回+3回=6回」の操作が必要だと信じられてきたからです。

つまり、「2つの複雑な絡まりをつなげると、かえって予想より簡単にほどけてしまう」という現象が実際に証明された瞬間だったのです。

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今回の研究の数学的な意義は非常に大きいものです。まずKirbyの問題リストの一項目が解決されたことは特筆に値します。ほどき数の加法性に関する問題1.69(B)は長らく未解決でしたが、本研究がその答えを「いいえ(加法的ではない)」と示したことで、結び目理論の教科書を書き換える成果となりました。同時に、この発見は今後の研究に新たな方向性をもたらします。まず、ほどき数の計算そのものへの影響です。これまで複雑な結び目のほどき数を見積もる際、「ひとまず素結び目に分解して個々のほどき数を調べ、それらを足し合わせれば上限がわかるだろう」とする考えが一般的でした。しかし今回の結果は、そのような単純な見積もりでは実際の必要手数を過大評価してしまう可能性を示唆しています。今後は結び目同士の「相互作用」によってほどきやすさが変化しうることを踏まえ、より精密な予測手法が模索されるでしょう。また結び目理論には今回解決されたほどき数の問題以外にも大きな未解決問題が残されています。その一つが「交点数」の加法性です。交点数とは結び目の図に現れる交差の最小数という、これもまた基本的な複雑さの指標ですが、これが連結和で加法的かどうかは100年以上前から難問として知られています。最小交点数の下限として「2つの結び目をつなげてできた結び目の交点の数は、元になったどちらかの結び目の交点数よりも少なくなることはない」ということは明らかですが、「2つの結び目の交点数をちょうど足し算した数になるかどうか」は100年以上にわたって解決されていない難問です。交点数については未だ誰も反例を発見していませんが、ほどき数の例にならえば「きっと交点数も単純には足し算にならない結び目が存在するのではないか?」と期待(不安?)する声も上がっています。/Credit:Unknotting number is not additive under connected sum