急拡大と品質を両立する「管理されたフランチャイズ」モデル

 CHAGEEの核となる競争優位性は、ブランドの一貫性やオペレーションの質を犠牲にすることなく、資本効率の高い拡大を可能にしたビジネスモデルにある。2024年末時点の全6440店舗のうち、実に97.4%にあたる6271店舗がフランチャイズ加盟店によって運営されている。

 同社のFCモデルは、単にブランド名と商品を供給するだけの伝統的なフランチャイズとは一線を画す。彼らが採用するのは「管理型フランチャイズモデル(managed franchise model)」と呼ばれる中央集権的なアプローチで、製品や接客の品質やサプライチェーンマネジメントなどコア業務については、本部が定めた統一基準に厳格に従うことを全加盟店に義務付けている。

 フランチャイズパートナーは出資者として店舗を所有するが、本社側が人材採用やトレーニング、マーケティング、仕入れに至るまで、すべての店舗運営をコントロールする。店舗のパフォーマンスは定期的に評価され、4つの等級に分類される。業績が振るわない店舗には、本部が専門チームを派遣して現場での監督指導を行い、改善が見られない場合は店舗閉鎖や契約解除といった厳しい措置も辞さない。

 本部の強力なガバナンスの下でフランチャイズネットワーク全体を統制することで、通常はトレードオフになりがちな「急速な規模拡大」と「提供クオリティ」の双方を両立させている。

 ラッキンコーヒーとCHAGEEは同じく2017年創業だ。2025年3月末時点での店舗数はそれぞれ2万4097店舗と6681店舗であり、規模ではまだラッキンコーヒーが大きく上回る。

 ラッキンコーヒーは直営モデルでの無理な急拡大を理由に経営不振に陥ったことを踏まえ、そこからコスト負担を軽くできるフランチャイズモデルに切り替えた経緯がある。そのためフランチャイズ比率でみると、CHAGEEが97%である一方でラッキンコーヒーは35%にとどまる。

独自テクノロジー「Tea Tech」と逆説の製品ストラテジー

 ではそんな広大なフランチャイズネットワークの品質と効率を、いかにして中央集権的に担保するのか。その答えは、彼らが「Tea Tech」と呼ぶテクノロジーへの徹底した投資にある。

 象徴的な例が、サプライヤーと共同開発した自動ティーマシンだ。独自に開発したドリンクのレシピパラメータをマシンに組み込み、従業員は複雑な手順を覚えることなく、ボタン一つで常に高品質のドリンクを「約8秒」で提供できるというもの。属人性を排除し、トレーニングコストを削減しながら、顧客の待ち時間も大幅に短縮できる。

【完了】日本上陸も?東洋のスタバが米国IPO、8年で約7千店舗展開のFC戦略の画像4
(画像=ティーマシンにより約8秒でドリンクを作ることができる(F-1資料より引用))

 同社は「Five Things Online(5つのオンライン化)」というコンセプトを掲げ、事業運営のあらゆる側面をデジタル化している 。

** 1.ドリンク調理のオンライン化 ** :上述の自動ティーマシンによる標準化。わずか8秒で誰でも高品質なティードリンクを作ることができる。 ** 2.顧客・パートナー関係のオンライン化 ** :デジタルツールを通じたシームレスなコミュニケーションと管理。メンバーシップ会員は2024年末時点で1億7730万人。 ** 3.サプライチェーンのオンライン化 ** :データに基づいた需要予測と自動補充システム。中国37箇所の倉庫サービスを利用でき、翌日仕入れを実現する。 ** 4.店舗管理のオンライン化 ** :開店から閉店までの一元管理。在庫状況の監視や自動仕入れなどで運営を標準化・省人化する。 ** 5.支払いのオンライン化 ** :キャッシュレス決済の推進。GMV(総流通額)の74%はデジタル上で決済された。

 自社で大規模な倉庫を保有する代わりに、サードパーティの物流サービスを活用し、中央倉庫と地域倉庫からなる2層の倉庫システムを構築する。これにより、中国国内のネットワークにおいてコールドチェーン輸送と翌日配送を実現しつつ、物流コストをGMVの1%未満に抑えている。iResearchによれば、2024年におけるCHAGEEの在庫回転日数は約5.3日で、これは中国国内の1000店舗以上を持つ生茶飲料ブランドの中でもっとも短い数値だという。

 製品・ブランド戦略も巧みだ。差別化を生み出す複雑な製品ではなく、あえて様々な顧客層に普遍的にアピールできる「シンプルで時代を超越したレシピ」に焦点を当てている。事実、売上上位3つに該当するティーラテだけで、2023年度のGMVのうち57%、2024年度では61%を生み出している。

 このシンプルさこそが、いわゆる「オペレーションエクセレンス」につながる。仕入れが簡素化され、ボリュームディスカウントによる原価削減もできる上に、自動ティーマシンのようなテクノロジーを活用した標準化とも相性がよいというわけだ。