●この記事のポイント ・サントリーHDが2024年、男性社員の育休取得率100%を達成 ・取得の5カ月前から本人と上長が「仕事と育児の両立計画書」作成 ・会社が早期に従業員の子どもの誕生を把握することで、計画的にコミュニケーションを取り、適切な時期の育休取得を促す

 大手酒類飲料メーカー・サントリーホールディングス(HD)が2024年、男性社員の育休取得率100%を達成したことが注目されている。社会的に男性の育休取得を推奨する動きが広まるなか、現実的にはなかなか取得が進まない企業も多い。なぜ、サントリーHDは男性社員の取得率100%を実現できたのか。また、その取り組みを通じて生まれた、職場における業務面での意外な効果とは何か。同社への取材からは、取得の5カ月前から本人と上長が「仕事と育児の両立計画書」を作成したり、「子の誕生予定申請」という制度を導入したりと、同社が全社的かつ“本気で”取り組んでいる様子が垣間見えた。

●目次

子の誕生予定申請フローの導入

 男性社員の育休取得率100%を目標に据えた背景・理由について、同社の人材戦略本部 DEI推進部 課長の秋山憲太氏はいう。

「サントリーでは性別にかかわらず一人ひとりがいきいきと活躍できる組織を目指し、皆が子育てをしながら働き続けることができる職場環境作りに取り組んできました。さらなるインクルーシブな風土を醸成すべく、ダイバーシティ経営推進に向けた大きな柱の一つとして『男性育休』を掲げ、『男性育休取得率100%』の早期達成を目標に活動を強化してきました。男性の育児参画をいっそう促し、育児の初期ステージから協力し合う体制を構築することは、女性の活躍推進、そしてインクルーシブな風土醸成にもつながっていくものと考えています」

 100%を達成するために、どのような工夫をしたのか。また、カギとなった取り組みは何か。

「具体的には以下があげられます。 1.子の誕生予定申請フローの導入  ―24年3月より運用開始  ―会社が早期に従業員の子どもの誕生を把握することで、計画的にコミュニケーションを取り、適切な時期の育休取得を促す。 2.仕事と育児の両立計画書  ―業務によって育休取得期限を迎えてしまうことがないよう、 育休取得対象となる社員が計画書を作成し、それをもとに上司と会話(将来、両立にどう向き合いたいかについての考えも記入)。  ―業務引継ぎなどを経てスムーズに育休に入れるよう、早期(育休取得5カ月前)から育休取得までを計画化。 3.ウェルカム・ベビー・ケア・リーブ  ―男女ともに育休の一部を有給化する制度。  ―育休開始から最初の連続5日間は給与が100%支払われる(有給扱いとなる)。 4.ウェルカムベビーセミナー  ―第一子が誕生した際には参加を必須化しているセミナー。  ―対象となる社員の所属長も含めて実施し、過去に育休を取得した男性社員の事例を共有している。   その他、育児に関する情報提供、心理カウンセラーからの講話。 5.シッターサービスの費用補助  ―保育園の入園が困難な際、子どもの病気や緊急時等に利用可能  ―乳幼児や児童の保育、保育所への送迎にも利用可能  特に、事前に『子の誕生予定申請』を行い、所属長と『仕事と育児の両立計画書』を用いた面談をすることを必須とし、育休取得の時期や仕事において必要なサポート、今後の働き方などを話し合うことがスムーズな育休取得や業務の引継ぎにつながっています」(秋山氏)

 男性社員の育児取得率向上の取り組みのなかで、課題やハードルとなった点は何かあったのか。

「会社としては下記の2つの課題があると考えていました。1つ目は会社が社員の子どもの誕生をどれだけ早期に把握できるかということです。把握が遅れることで会社から社員へ情報提供やコミュニケーションが遅くなり、結果的に取得が後ろ倒しになったり、取得の期限を迎えてしまったりすることがありました。また、二つ目は組織単位で、育休を取る意識をどれだけ高められるかということでした。これらの課題を解決するため、上記のような取り組みを行いました」(秋山氏)