そんな不眠症の治療として、最も一般的に使われているのは睡眠薬です。
しかし、睡眠薬には依存性があったり、長期間飲み続けると副作用のリスクが増えたりするという問題があります。
最近の研究でも、睡眠薬を長期にわたって服用すると身体的・精神的な依存を引き起こす可能性が指摘されています。
そのため、最近では睡眠薬に頼らず、もっと自然な方法で睡眠の質を高めたいと考える人が増えています。
具体的には、就寝前にハーブティーを飲んだり、ストレッチや瞑想をしたりといった、さまざまな工夫を試みている人も多いでしょう。
そこで注目されたのが性行為です。
「性的な行為をした後はよく眠れる」という話を耳にしたことはないでしょうか?
映画やドラマ、小説の中でも、セックスをした後に登場人物が心地よく眠りに落ちるという描写は珍しくありません。
コラム:動物も交尾の後に眠くなる
「セックスのあとに眠くなる」という現象は、実は動物の世界では先行して確認されています。ラットやマウスなどのげっ歯類、さらには一部のサルやボノボなどの霊長類では、交尾後にメスが身体を横にして動きを止める、あるいは眠りやすくなるという行動がよく観察されます。これは生物学の世界で「交尾後の休息行動(Post-copulatory immobility)」と呼ばれる現象です。一見すると、単に疲れたから、あるいはリラックスしたから休息しているようにも見えますが、実は生物学の分野では以前から「精液が体外に流れ落ちるのを防ぎ、妊娠の確率を高めるため」という仮説が真剣に議論されています。つまり、交尾の直後にメスが体を横にすることで、重力によって精液が流出することを防ぎ、精子を膣内にできるだけ長く保持して受精の可能性を高めているのではないかという考え方です。アメリカの心理学者ドナルド・デュースベリー(Donald A. Dewsbury)は、1982年に発表した研究のなかで、ラットやマウスといったげっ歯類のメスにおける交尾後の休息行動が、精液を膣内に保持する効果を持ち、妊娠成功率を高める可能性を指摘しています(Dewsbury, 1982)。また、イギリスの研究者ロビン・ベイカー(Robin Baker)とマーク・ベリス(Mark Bellis)は、1995年に出版した著書『Human Sperm Competition』の中で、人間を含む哺乳類において、交尾後に特定の姿勢をとることが精液を膣内により長く保持する可能性について詳しく検討しています(Baker & Bellis, 1995)。では、人間の場合はどうでしょうか? 人間においても、性行為の後に女性がしばらく横になった姿勢を取ることが妊娠成功率をわずかに高める可能性については、一部の研究で示唆されています。ただ、人間は文化的・社会的な要素が強く影響しているため、明確な効果を実証するのは容易ではありません。