そのため、ある実験と別の実験で異なる結果が出るなど、なかなか議論が収束しませんでした。
一方で今回のIceCubeのニュートリノ観測は、宇宙線が宇宙空間で背景放射とぶつかって発生するニュートリノという、明確でシンプルな物理現象だけを観測する方法を採用しています。
このため、理論モデルの不確かさに影響される度合いがきわめて小さく、非常に確かな結果が得られます。
IceCubeのクラーク助教は「私たちニュートリノ望遠鏡がここまで宇宙線の正体に迫れたのは初めてです。今回の成果は、ニュートリノ天文学という分野が長年追求してきた大きな目標をついに現実にしたもので、非常に興奮しています。」と強調しています。
ニュートリノという新たな手法で宇宙線の謎に迫ったIceCubeの成果は、次にどのような展開を迎えるのでしょうか――?
陽子だけではない宇宙線の主役――残された謎と次世代望遠鏡への期待

今回のIceCubeによる研究は、「宇宙から降り注ぐ超高エネルギー宇宙線の正体は陽子だけではなく、重い元素の原子核も一定の割合で含まれている可能性が非常に高い」という重要な結果を明らかにしました。
長年、宇宙物理学者たちの間で激しく議論されてきた謎に、初めて明確な制約が与えられたのです。
これまで宇宙線の研究では、地球に降り注ぐ宇宙線が主に「陽子」であるとする仮説が一般的でした。
その理由は、陽子が宇宙空間で最も豊富で安定な粒子の一つであり、宇宙の過酷な環境を超高エネルギー状態で飛び回ることが可能だと考えられてきたからです。
しかし今回IceCubeは、「もし宇宙線のほとんどが陽子であるなら、宇宙空間で大量に生じるはずの超高エネルギーニュートリノをなぜ観測できなかったのか」という重大な疑問を提示しました。
この疑問について研究者たちは「理論上、宇宙線の主成分が陽子であれば、宇宙空間で背景放射と頻繁に相互作用して、必ず超高エネルギーニュートリノが発生します。しかし今回の観測では、そのニュートリノのシグナルがまったく検出されなかったのです。これは、宇宙線に含まれる陽子の割合に対して非常に重要な上限を設定する結果となり、宇宙線が生成される場所やメカニズムを解明するための貴重な手がかりになります。」と述べています。