つまり宇宙の果てで起こった現象から生じたニュートリノは、その現場の情報をほぼ完全な形で地球まで届けてくれるのです。

この性質を利用し、科学者たちは宇宙線の発生源や構成要素に関する手がかりを得ようとしました。

宇宙空間を高速で飛び回る宇宙線(高エネルギーの粒子)が、地球に向かってやって来る途中、宇宙空間を満たしているある特別な光と頻繁に衝突します。

その特別な光とは、「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれるもので、ビッグバン(宇宙の誕生)直後に宇宙全体を埋め尽くしていた光が、現在まで冷えて残ったものです。

言わば、宇宙が誕生した頃の「名残りの光」が宇宙中を今も飛び交っているというわけです。

この宇宙マイクロ波背景放射と超高エネルギー宇宙線が衝突すると、「宇宙生成ニュートリノ(コスモジェニック・ニュートリノ)」という特殊なニュートリノが生成されることが理論的に予測されています。特に、宇宙線の主成分が比較的軽い陽子(水素の原子核)である場合には、この現象が頻繁に起こりやすくなります。

しかも、この陽子が地球から遠く離れた数十億光年以上も先の宇宙で生まれたものだとすれば、その長い旅路の途中で何度も背景放射と衝突を繰り返し、大量の宇宙生成ニュートリノを生み出して地球に到達するはずなのです。

つまり、もし超高エネルギー宇宙線の正体が陽子主体であるのなら、地球で観測される宇宙生成ニュートリノの量はかなり多くなると期待されていました。

ところが、もし宇宙線が陽子よりも重い原子核(例えばヘリウムや鉄など)で構成されていた場合には、話は大きく変わります。

こうした重い原子核は背景放射と衝突するときに、「ニュートリノを生成する反応」とは異なる「核が分解される反応」を起こしやすくなり、結果としてニュートリノの生成効率が大幅に下がってしまうのです。

また仮に宇宙線が陽子主体であったとしても、その発生源が地球から比較的近い(例えば数億光年程度)場合は、背景放射との衝突回数が少なく、ニュートリノの生成量も限定的になります。