これは例えるなら、原子一粒がプロ野球選手が全力で投げるボールと同じエネルギーを持つことに匹敵するほど驚異的なものです。
しかし驚くべきことに、この途方もない宇宙線がいったい宇宙のどのような場所で生み出され、どのような成分から構成されているのか、現代の科学者たちもまだ完全には解明できていないのです。
超高エネルギー宇宙線が「陽子(水素の原子核)」で構成されているのか、それとも鉄のような「重い原子核」で構成されているのかをめぐっては、40年以上にわたり科学者たちの間で活発な議論が続けられてきました。
なぜこの論争が長く続いてきたかというと、宇宙線が地球にたどり着くまでの間に、多くの要因でその正体が曖昧になるからです。
まず宇宙線の多くは陽子のような電荷を持つ粒子であるため、宇宙空間に存在する磁場によって軌道を大きく曲げられてしまいます。
このため、元の発生源の位置を特定することが難しくなります。
さらに、地球に到達した宇宙線が大気と衝突すると、数多くの粒子が「空気シャワー」と呼ばれる現象を起こします。
地上の望遠鏡はこの空気シャワーを観測することで元の宇宙線の種類を推定しようとしていますが、空気中で起こる粒子反応は複雑で、その理論モデルには多くの不確実性が含まれています。
そのため、ある実験(南米アルゼンチンのピエール・オージェ観測所)は「鉄のような重い原子核が多い」という結果を示唆する一方、別の実験(米国ユタ州のテレスコープアレイ)は「陽子などの軽い原子核が主流である」という結果を示唆するなど、長年にわたり結果が一致しない状況が続いてきました。
こうした中、科学者たちが新たに注目したのが「ニュートリノ」という特別な素粒子です。
ニュートリノは宇宙を「直進」できる唯一のメッセンジャーと言われています。
これはニュートリノが電荷を持たず、物質や宇宙の磁場にほとんど影響を受けない性質を持っているためです。