ところで、なぜ中国の軍艦が紅海に巡航しているのかだ。主に2つの理由が考えられる。一つは、紅海を通る中国の船舶の安全確保、もう一つは、ソマリア沖の海賊対策だ。紅海は、中国とヨーロッパやアフリカを結ぶ重要な海上輸送路であり、中国の経済活動にとって非常に重要だ。また、ソマリア沖の海賊問題は、中国の船舶にとっても脅威となっている。近年、紅海では、フーシ派による船舶攻撃や海賊行為が頻発しており、中国の船舶も被害を受けている。そのため、中国は、自国の船舶の安全を確保するために、2008年からソマリア沖に護衛艦を派遣し、海賊対策を行っている。

すなわち、紅海の中国軍艦の派遣目的はドイツ偵察機のミッションとほぼ同じなわけだ。とすれば、どうして中国軍艦はドイツ偵察機に危険なレーダー照射をしたのか、という疑問が出てくる。軍事目的でもないだろうし、示威行為とも思えない。

事件は今月2日、発生した。そして同日から6日まで中国の王毅共産党政治局員兼外相はEUの拠点があるベルギー、ドイツ、フランスの3カ国を訪問している。王毅外相の狙いは欧州との関係強化にあったはずだ。そのような時、紅海の中国軍艦がEUのミッションで活動中のドイツ偵察機にレーザー照射したということになる。どうみてもタイミングが悪い。実際、今回の件でドイツ外務省は激怒し、EUのブリュッセルも中国を批判しているのだ。

中国側は「国際協調に否定的で米国ファーストのトランプ米政権と違い、中国は国際秩序の擁護者だ」といったメッセージを発信したかったはずだ。それが2日の事件が明らかになって、EUとの関係は一層険悪化してしまった。王毅外相の欧州訪問は、今月下旬に控える中国・EU首脳会議の地ならしの意味合いもあったというから、レーザー照射事件は中国側の目的を完全におじゃんにしてしまったことになる。

ドイツ民間ニュース専門局NTVとのインタビューで軍事専門家ラルフ・ティール氏は、「ドイツ機が中国軍にレーザー照射されることは珍しいが、中国軍のレーザー照射事件はアジア極東地域では日常茶飯事だ。中国軍はその緊迫したエリアで軍事演習を繰り返してきていることもあって、レーザー照射が危険な違法行為、といった認識に欠けていたのではないか」と述べていた。