しかし多くの作業は恐ろしく分業化されていて、ちょっとした作業にもそれに特化した専門家がいて自分の担当以外の仕事はやらないという風になっています。
関係者は世界各国に散らばっているのでミーティングをやったり成果物のチェックをしたりするのも手間暇がかかります。多国籍な人々が主に英語でコミュニケーションを取りながら作業するので、日本の会社のように阿吽の呼吸で物事が進むというわけではありません。
このハリウッドの仕事のやり方は外資系企業で働いたことがある方であればよくわかるでしょう。仕事があまりにも細分化されていて世界各国にプロジェクトチームが散らばっているので、コミュニケーションをとるだけでも大変な時間とコストがかかり、なかなか話がまとまりません。当然コストもかかります。
そして作業を細分化して多くの人に割り振るので人件費も莫大です。それで成果物の品質が高いのかというと非常に疑問符がつくことも多いのです。私もそのような環境で仕事をしてきましたが、非常に効率が悪く、人は多様なようでそれほど画期的なアイディアが出るわけでもなく、担当者に柔軟な作業を依頼できるわけでもないので色々と苦労してきました。
しかもその細分化した作業にいちいち業績目標を振って評価をするわけですから、自分の仕事以外は一切やらなくなります。
ところが日本のマネージャーや技術者に仕事を頼むと非常に機転を利かせて自分の仕事以外も面倒見てくれますし、日本人同士はコミュニケーションも迅速です。やはり同じ文化で同じ言語を話し、阿吽の呼吸で意思が通じるというのは強みなのです。
私は今回の『ゴジラ-1.0』の仕事のやり方というのはハリウッドだけではなく他の業界にも大きな影響を及ぼすと考えています。
リモートワークや世界中にチームを分散させるやり方ではなく、チームメンバーを1箇所に集めて対面で対話をしながら仕事をする、豪華なオフィスではなくシンプルでコンパクトだが居心地が良いオフィスで働く、細かすぎる分業制を行わず柔軟に対応する、予算が少ないのなら知恵を駆使して成果物を作る、そして同質性の高い人々でスタッフを固める。
グローバル化、多様化、豪華なオフィス、分業制、厳しい業績評価、膨大な予算、そういった最近のトレンドと全く逆を行く『ゴジラ-1.0』は、日本の強みや未来を凝縮したような素晴らしさに溢れています。つまり日本企業は成功したいのであれば、『ゴジラ-1.0』のように弱みを強みに変えていけば良いわけです。要するにグローバル化の逆張りをせよということです。
日本が今後どうして行くべきかということを考えたい方は、ぜひ『ゴジラ-1.0』を見に行ってみてください。
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提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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